STORIA 15

「本音を言うと、黎に同行して欲しいけど。何より就職活動が大事って主張する、お前の気持ちも分かるし、無理強い言ってしまったことも少しは悔やんでる。それに、一人旅も悪くはないだろ?」

僅かに苦笑する都の面持ちは、少し淋しげだ。

僕も、他の意見に自身の感情が左右されてしまうのは好まないのでこう、切り出してみた。

「……気を付けて行って来いよ。土産話、楽しみにしてる」

「ああ、期待しててくれよ。黎」

彼に申し訳ないと想う、心の奥深くに眠る気持ちが存在しながらも、押し隠す様にしてたわいのない会話を繰り返しながら、僕達は互いの家路を辿る。

何より、都がいつもの様子で接してくれるのが嬉しかったからね。




自宅に着くと、決まった時刻にいるはずの母親の姿が見当たらない。

昼食時だと言うのに、キッチンには完成したばかりだと想われる食事と食器が放置されたままだ。

僕は他部屋を軽く覗き込みながら、彼女の姿を探す。

「母さん、何見てるの?」

洋室の窓際で夢中になって何かに見入る、彼女の気配に気付いた。

「黎、帰ってたの。すぐに、お昼ご飯用意するわね」

「それ、アルバム?」

慌ててエプロンの裾を正し、調理場へ戻ろうとする母に問う。

遠目にも随分と色褪せて映った見覚えのある物、幼い頃の記憶を集めた帳面だろうか。

「そうよ。黎が子供の時のアルバム。見ていたら懐かしくなって、食事の支度も忘れるところだったわ」

「何で、また。もしかして、今朝に提案してくれた家族旅行の話がきっかけとか」

ボロネーゼソースの絡む、細く長いパスタをくるくるとフォークに巻き付けながら、適量を口元へと運ぶ。

少し熱いと感じる位が好きだ。

「それも、あるわね。そうそう、アルバム見ていて想い出したんだけど。黎って、幼い頃はよく宇宙飛行士になりたがってたわよね」

「そうだっけ」

子供の頃に夢見る職業など、大方計り知れている。

何れも、誰もが一度は憧れる将来の姿だ。

一時的な羨望も成長と共に現実の世界で、いつしか消えていく事が当然だと想っていた。

けれど、僕の親友は変わらず幼少時代の野望を持ち続けているというのだから感心だ。

「黎は覚えてないかも知れないけど、あなた、当時は本当に宇宙飛行士に憧れていたのよ。親である私が見ていても、我が子の未来を確信するくらい」

「そんなに? 今の目標は、安定した職業に就く事だけどね」

「もう。成人してからの黎は夢がないんだから」

懐かしげに話す母の言葉に、僕は軽い笑みで返す。

想起する事も今では難しい自身の過去の姿に、再び出逢える物なら戻ってみたいと願う。







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