STORIA 14
「昔、撮った写真の全ても赤外線で移動させたからな。移し切れなかったデータは、パソコンに残してる」
指先を更に下方へ滑らせていくと、一枚の画像が目に止まる。
数ある記録の中で、僕は唯一の物に心惹かれていた。
神秘的な雪景色の中に一羽の鶴が佇む、魅力溢れる静止画だ。
丹頂だろうか。
鶴は今にも飛び立ちそうな振る舞いで、揚力を携える羽を拡げようとしている。
他の鮮やかさにひけをとらない純白の世界に、僕は眼を奪われていた。
「黎、それが気に入ったのか? でも、俺が撮った写真じゃないんだ」
「え、そうなのか」
「三年前、北海道にいる伯父が送ってくれたんだ。綺麗だろ。俺も自分の手で撮ってみたいと想ってさ」
都が釧路へ発ちたいと願う気持ちが、少しばかり理解出来る様な気もする。
何かに魅了されると彼は対象物の虜になって、直向きに追い求めてしまう一面を持っている。
僕は、彼が心に受けた幾つもの感銘を全て知り尽しているわけじゃない。
瞬間、瞬時を捉えた都の心の傍らに常に寄り添っていられるわけではないのだから。
こんな風に埋もれた過去の記録から、見つけ出す事もある。
「やっと、出逢えたと想ったよ。自分が探し求めている被写体に。巧く撮れなくてもいいんだ。俺の世界を奴一色で占めてみたい」
感情を高揚させながら話す、都の瞳は吸い込まれてしまいそうになるほどに眩しい。
別に今まで撮り溜めてきた対象物に物足りなさを感じているわけではないのだと、彼は言う。
これまで得た物より胸を衝く被写体が、丹頂だと力強く語る都の姿はわずかばかり僕の心根を揺さぶる。
職を失って、不安定な行き先の中に垣間見ることのできる彼の内的動機はどこから溢れてくるのだろう。
仮に、都から以前と同じ様に北海道同行を求められたとして、僕はやはり変わらずの返答をしてしまうのだろうか。
いや、そんな事より。
ふと、気付いた現実に想わず頬が緩んだ。
「黎、何笑ってんだよ。人が真面目に話してんのに」
「ごめん、ごめん。話は聞いていたよ。ただ、今日は普段通りに話してくれるんだなと想ってさ」
連日より気疎く重苦しい空気に包まれていた僕達にとっては、久し振りに取り戻す雰囲気が妙に心地良く感じてしまう。
気心の知れた親友との気兼ねない時間が、改めて大切な物だと再認識させられてしまうんだ。
都は片意地の延長線上にあるような、面映ゆい表情を浮かべている。
「なんだよ。意味深な笑い方しやがって。まあ、この間は悪かった。黎。俺さ、決めたんだ」
やけに、真剣な眼差しで彼が僕を直視する。
「俺、一人で北海道に行くよ」
「都……」
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