STORIA 13
僕はこれから、どうすればいいのだろう。
恵まれた家庭環境に身を置く、この僕がたかが一度の躓きで弱音を吐くなど、甘えだと罵られるだけなのだろうか。
でも、どこかで自分は再起不能になるほど、底辺に至るとは想っていないのかも知れない。
幽谷で足を踏み外しそうになっても、必ず何かに救われるのだと。
僕は嫌みな人間だ。
気付けば、この身体は国民公園皇居外苑地区の一角和田倉地区に存在する、ある公園へと辿り着いていた。
そうして今、僕の眼中を占めるのは、まさに想い描く相手の姿だったんだ。
正面入口から覗く、園内の先に相棒の存在を確認した僕は、歩く速度を落としながら彼へと近付く。
庭園の中央で高く噴出する清んだ水流を見つめる男の瞳が、僕に気付く事はない。
双眸に映し出される光景に何かを感じたのか、彼は立ち姿のまま、カメラを構える。
揺るがない瞳。
一点に狙いを定め、最高の瞬間を撮り収めようとする心。
ああ、そうだ。
僕は幼い頃から、頑な眼差しを見続けて来たんだ。
日常の一駒を記録に残すという行為は、彼が日本の最北端へ旅立ちたいと切望する理由の一つにも含まれているはずだ。
そう想った瞬間、優しい気持ちが全身を包み込む。
「相変わらず、撮るのが好きなんだな。都」
「黎……」
僕の存在に気付いた彼が一度は躊躇い、それでもこの気持ちを掬ってくれようとする意識の現れからなのか、彼は真っ直ぐにこの眼を見据えた。
立ち尽していた僕を捉えたまま、都が噴水の傍らに腰を降ろしたので、引き寄せられる様にして彼の横に座り込む。
「どうせ、お前も暑くて水気のある場所を探してた口だろ」
溜め息混じりに彼が言ったので、僕は小さく笑った。
「はは、そうかも。夏場の噴水脇は涼しいね」
腰を降ろして見上げているせいか、噴出する水流が更に視界に映る迫力を増している気がした。
都は携帯を取り出すと、液晶に指を滑らせる。
「黎。俺が北海道に行きたいと想っている理由、分かってる?」
「分かってるよ」
間も置かず僕が答えると、都は久し振りに穏やかな表情を溢して、この膝の上に手にしていたスマートフォンを置いた。
「ギャラリー、開いてみて」
彼に促され、僕は画像が保存されていると想われるアイコンに指を滑らせる。
そこには沢山の想いが今にも溢れて来そうな位の、彩色豊かな写真がメモリを埋め尽くしている。
都が幼少の頃からカメラに興味を持ち、大きな野望を懐いていることは知っていた。
一番近い距離で、彼の姿を見続けてきたのは僕なのだから。
「随分、沢山撮り溜めているんだな。都」
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