STORIA 9


揺らぎのない瞳に、一瞬、感情を抑え込まれて僕自身も流されてしまいそうになるくらいの頑さだ。

強い意思で、彼は自分が望む言葉を僕から零れ落ちるのを待ち焦がれている。

そんな気がした。

『もっと、自由に生きてみたい』

力強く発した都の想いが、僕の中に眠る憧憬という名の自由を仄かに掻き乱しても、我に返らなければいけないと気持ちを封じた。




「何を言ってるんだよ、都。今、僕達がすべきことは次の仕事を探すことだ。旅行なんか、している場合じゃないだろ。しかも、そんな長期に渡ってだなんてさ」

想わず、説教じみた言葉をかけてしまう僕は、気難しい鹿爪顔をしていることだろう。

何とか、都を説き落とそうと慎重に言葉を選び抜くけれど、発した言動に一瞬の後悔を感じた。

彼が悲しそうな顔を見せたからだ。

こんな姿、以前にも目にしたことがある気がする。

明確には想い出すことが出来ないのだけれど、互いに意見の食い違いが生じた末の出来事だったのは間違いない。

自分が望む反応が、他から得られなければ拗ねてみたり、急に押し黙ったりする都は、言ってしまえば子供だ。

だが、都はすぐに何事にも臆しない様な、強さを秘めた表情を取り戻すともう一度、僕に懇願する。

「黎、一緒に行ってくれないか? もちろん、職場を退社した後でいいからさ。今のお前なら、俺と同じで体も空いてる。俺達、実家暮らしで生活に困っているわけでもない。北海道では、宿は無償で確保出来るわけだし。ある程度の所持金があれば、後は何とかなると想うんだ」

「ごめん。僕には無理だよ。考えられない。どうしてもって言うなら、他を探してみてくれよ」

都の言葉を弾く様に、両掌を食卓について、僕は席を立つ。

今の彼には何を言っても無駄だ。

しばらく時間を与えれば、考え直してくれるかも知れないという想いからだった。

僕は無言で勘定台に向かい、退店するよう、都を促す。

けれど、都は離席したものの、そこから動じることはなく、この姿を目だけで追っていた。

「黎、お前じゃなきゃ駄目なんだ」

彼の荒げた声音が、距離を置いた先にいる僕を足止めさせる。

同時に、周囲から小さく注ぐ視線に気付いた。

店内の閑けさがやけに痛く胸に突き刺さる。

僕は黙って都の片腕を掴むと、人目につきにくい、扉の外の道路際へと連れ出した。

「都、あんな閑かな場所で、意味深なこと言わないでくれよ。恥ずかしいじゃないか」

「……黎の言う通り、頼めばいくらでも付き合ってくれる連中はいるよ。でも、俺はお前と一緒がいいんだ」

握った腕から伝わる、都の体温が僕には熱いくらいに感じてしまう。

彼が何を言いたいのか、本当は疾うに分かっている。

「都。とりあえず、今日はもう帰ろうか。少し、考えさせてくれ」

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