STORIA 6
都と僕は幼い頃からの仲だ。
物心ついた時から、お互いの自宅までの距離を徒歩で行き来する事の出来る身近な関係にあった僕達は、双方の親同士が知り合いで長い間に渡り腐れ縁が続いていた。
腐れ縁と言ってしまえば自嘲的だけれど、決して悪縁などではなく、なくてはならない存在だ。
少なくとも僕はそう想っているし、都がこの心を必要としてくれているのも理解している。
学生時代も、社会人である今も変わらずの関係を保っている。
世間に出て、別々の就職先に落ち着いてからは時折暇を見ては落ち合い、互いの近況を報告したりもする。
ただ、僕は少しばかり感情の処し方がドライな様だ。
築き上げて来た友情をとても大切に想っている反面、どこか冷めた自分が身を潜めている事も否めない。
暖かい家族愛に恵まれ、何不自由なく生きて来た僕は他人の傷みを軽視していた。
自分は幸福という名の枠の中にある安定した環境にいることで、関わりのない事に対しては親身になれなかった。
深く想いを馳せる事もなければ、自分以外の事で改めて考え込む事もない。
例えば命に代えてでも守り抜きたい恋人がいるだとか、職や自分の立ち場を投げ打って夢中になれる物も何もなかった。
きっと、僕は無意識の内に無難な生き方を選んでしまっている。
今はまだ平穏な日々の中に雲隠れしているはずの残酷な感情が、大切な人の危機に直面した際に、善意をもって向き合う事が出来るのだろうかと不安を隠せない。
「都。実は僕、今の就職先で雇い止めを喰らったんだ。退職日はまだ、一ヶ月も先のことなんだけど。あまりに唐突で驚いたよ」
気付けば自身に起こった悲しい現実を、相棒である彼に打ち明けていた。
すると、都は甘味を口に運んでいた手を止め、驚いた様にその唇を開く。
「え、黎もなのか? お前、社員で企画課を任されていたんだろ。何でまたそんな事に」
彼が言う様に、僕は中堅洋菓子製造会社の企画課に身を置いていた。
雇い止めという予想外の出来事に戸惑いを隠せずにいたものの、気付きたくないと一心に願う心の片隅で、気掛かりな事実も存在した。
そんな胸中をゆっくりと都に話し始める。
「企画課は、そう幾らも人が要らないからね。今年の春に入社した企画担当の研修生が、えらく上司に気に入られてさ。それによって、僕の仕事がなくなった訳じゃなかったんだけど。結果、こんな形を迎えることになってしまって」
すると、都が躊躇いもなく端的に言う。
「なんだよ、それ。席、横取りされたってことか」
「そんな言い方、やめてくれよ」
最も言われたくなかった言葉を聞かされた様で、不快になった僕は少々乱れた声を露にした。
確かに、彼の吐いた一言は的を射ているかも知れない。
結果から言ってしまえば、その通りだ。
後から姿を現した新入社員に、僕は居場所を持っていかれたんだ。
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