STORIA 5


軽食だけを頼むつもりでいたけれど、この際だから夕食を済ませてしまうのが最もな選択だろう。

「黎、お待たせ」

少し、離れた距離から届く相棒の声にふと、我に返る。

彼は暑苦しそうに襟口に指先をかけて、小走りで僕の元へとやって来た。

「ごめん。待たせただろ?」

「ああ。人を待ってる時の、一時間って結構長いな」

別に皮肉じゃない。

想った事が口をついただけだ。

都は僕の言葉には構わずといった様子で、真っ先にメニューに目を運ばせる。

よほど、お腹が空いているらしい。

彼が選ぶ物といったら、大方想像はつくけれど。

下敷き代わりにした品書きで汗ばむ身体に風を送りながら、都が嬉しげに言う。

「黎、何頼む? 俺はアイスカフェ・オレと、クリームあんみつ」

「ここで夕食を済ませて行く事にしたから、飯物にするよ。それより、こんな所にわざわざ呼び出して、どうした?」

僕が都に尋ねると、彼は少し考え込む様に真剣な表情を浮かべた。

だが、その顔色はすぐさま快い物へと変わる。

都が近くにいた店員を呼び止めオーダーしたので、続いて僕も選んだメニューを伝える。

ほどなくして、二人分の料理が運ばれて来た。

品書きの写真で見るよりずっとボリュームを感じさせる、この店特製のオムレツと、質素な付け合わせのポテトサラダ。

彩りを良く見せるためか、サラダに桜桃が飾られているのが何とも可愛らしい。

丁寧に両掌を合わせてから、僕は匙を取る。

都は既に食べ始めているけれど、見慣れているはずの彼の行動がふと、この眼を釘付けにさせてしまう。

テーブルに置かれている砂糖を含む容器に手をかけると、都は専用のティースプーンに嵩高く盛り始める。

手元のアイスカフェ・オレに四、五杯ほど注ぎ込んでいるのだ。

彼は、究極の甘党だ。僕の知る限りでは、彼以上の甘い物好きを見た事がない。

「都、砂糖入れ過ぎだよ。それ、既に甘いはずだろ。血糖値高くなるぞ」

「黎も飲む? 美味いぞ、これ」

「いい、遠慮しとく」

特にこれといって甘い物に興味を示さない僕は、彼の言葉を軽く受け流す。

第一、何よりも譲れないと想っている好物を、都が本気で僕に薦めているとは到底考えられない。

何故なら、彼は吐いた言動とは裏腹に物欲しげにこの手元にある桜桃を見ているからだ。

「そのチェリー、美味そうだな。黎」

ただ、その一言で都が何を求めているのか分かってしまう。

一度言い始めたら、なかなか妥協しない頑固な一面も知り尽していた。

「しょうがないなあ」

僕は溜め息混じりに苦笑を零して、サラダに添えられた桜桃を彼に譲る。

こんな風に、彼の調子にはいつも乗せられてしまう。

敵わないな、なんて想いながら結局は許容するのだけれど。







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