本庄と絶起
生まれて初めての絶起である。
皆さんは絶起をご存じか。絶望の起床、つまりクソヤバい寝坊のことである。
朝起きたら十時だった。
本庄は普段は朝には強い方なので、基本的に目覚ましが鳴ったらすんなり起きられるタイプである。だが今日は目覚まし時計が鳴らなかった。そりゃ無理だ。
その目覚まし時計は、自分が大学に入るときに買ったもので、今年で四年になる。最近アラームのボタンの調子が悪いと思っていたが、買い替えると高いので放置していた。
起きた時、はっとして時計を見て十時であることを確認し、アラームのボタンを見た。はい、案の定、アラームが切れてました。
そりゃ目覚ましが鳴らなくて当然である。よく十時に起きられたな。
うわあ寝坊したと絶望した瞬間も、その時はまだ余裕があった。うちの大学では、wi-fi不調の学生のために授業を録音したオンデマンドを配信しており、それを見て出席カードを書けば出席扱いとみなされるためである。
まあ昼休みにでも1.5倍速でオンデマンドを見たら間に合うか、と思って、自分は二限の授業に参加するためにアプリにログインをして時間割表を見た。
戦慄である。クソ教授の出張授業じゃねーか。出張授業だから2コマしかない。そして、1回でも休んだら出席率は2/3を下回り、進級要件(今年は違うかも、4年だし)を満たさない。そしてこれは必修である。
つまり、一度でも休むと留年が確定するのである。
でも普通の授業なら、オンデマンド配信を見て出席カードを書けば間に合う。
しかし、このクソ教授の場合、オンデマンドが通用しない。詳細は過去の「本庄と死んでほしい教授」シリーズを見ていただければわかるが、この教授はやたら授業開始時間にうるさい。そして、今年は別の科目でwi-fi不調で切断された学生を欠席扱いにして揉めているという話を聞いたばかりの本庄である。
十時に起きた時点で全てが詰んでいた。
この授業は欠席にしかならない。
どうするべきか。wi-fi不調とでも誤魔化して謝るか、素直に寝坊したと謝るか。
どちらも通用しないのは明白である。ハイ詰み、留年、解散。
泣いた。書き出し祭りの、サークルぽっぷこぉーん様の書き出し小説コンテストで大賞を取ったとき以来に泣いた。
学費がえらいこっちゃである。留年したら奨学金も多分止まる。
いや、まあ学費は一年間必死にアルバイトしたら何とかなるとして、問題は留年回避である。今までちゃんと出席して、今回は寝坊したけどオンデマンドを見て、それでも一発留年にできるものならやってみろ。とか言ってたら本当にやりそうな教授だから怖い。
学務に泣きつくかどうかも正直悩んでいた。学務に相談するということは、必然的に自分の罪を認めるということであり、絶対に教授にはその部分をつかれる。弱みを自ら握らせに行くわけだ。肉を切らせて骨を断てればよいが、肉だけ切られて、ついでにこちらの骨も一緒に持って行かれかねない。
どのみち午前中には学務に電話など掛けられず(明らかに授業中なので)、布団の中でいろいろ迷っていたら、大学の方のTwitterに凄まじい通知が来ていた。
「あの授業出席あるの?」
そう、出席を取らないと思っていた学生がいたのである。それもそうで、普通の授業ではオンライン出席カードが配布されるのだが、この授業では配布されなかった。授業中に別の手段で出席確認せよとも言われていない。なぜなら、教授がいちいちログイン履歴を見て出席をつけているからだ。
そして彼は、一度目の授業で出席がないことを察し、今回の二度目の授業をサボったというのである。
仲間だ! 共に留年するかもしれないけど、仲間が現れた!
と思ったらさらにリプもついた。「俺もや」。これで仲間は三人になった。しかもそのうち一人は留年のプロ、彼は学則に詳しく、進級留年ギリギリを攻めるのが上手い男である。その頭をどうして受験勉強に生かしてもっとハイレベルな大学に行かなかったのかわからないくらいの強い男である。
彼は言う。
電話はするな、と。そもそもオンラインの出席カードを配布しないという時点で大学の出席認定方法から逸脱しているし、じゃあ他の出席認定方法が授業内で説明されていたかと言えばされていない。
教授は何故授業中に説明しなかったのか。それは簡単で、教授は面倒くさがり(詳細は以前の教授死ねシリーズを参照)であり、部下に授業を丸投げしているからである。そして教授本人は学生のログイン履歴を自ら確認しているのだという。普通逆だろ。
しかし、その部下の先生たちが授業中に出席方法を説明しなかったのは大きかった。というか、説明がなかったせいで、本庄の友人たちは、自分が欠席となっていることにも気づいてなかったということになる。
シラバスには「出席」を以て単位を認定すると書かれている。らしい。まあそうだろうね、試験はしないだろう。だって出張授業だし。
つまり、争うべきは「出席」したかどうかではなく、オンデマンドでの授業視聴をしたがオンライン出席カードが配布されなかったことを「出席」を扱うかという、出席の定義の問題だというのである。
我々は大学のルールにのっとって出席したつもりでいた、しかし教授がその出席を認めなかった、という構図が一番丸いのだとプロは言う。
だから、こちらの非を認めてはならないのだと。
それもそうだ。向こうは進級戦争に関しては百戦錬磨であり、権力も強いからこちらから向かって言ったとて勝てない。白旗を上げても許してくれる相手でもない。
となると、教授からの宣戦布告を待つのが最適解ということになる。学則では、
大学が定めるところの出席は行った。
教授からのメールが来るのを待つのみである。学年末までにメールが来たら戦争、来なかったら留年回避ということになる。
宙ぶらりんじゃないか、と思う方ももしかしたらいるかもしれない。
宣戦布告が来るかどうかは留年判定が行われるまでわからない。それまで戦々恐々としなければいけないのか、と、思われる方もいるかもしれない。
それは事実である。多くの人々は戦々恐々とし、中には病む人も現れる。
しかし本庄は歴戦の勇者、再試の帝王、進級会議の常連であることを皆さんお忘れではなかろうか。
そう、宙ぶらりんになるのは再試験も同じだ。留年判定が行われるまで、結果は一切発表されない。留年しているか進級しているかは、進級発表までわからない。
宙ぶらりんには慣れている。今までに20回経験しているからだ。
だから、何もすることが無くなった今となっては、意外と元気だ。
あとは、他の科目で留年しないことを祈るのみである。
ビバ、再試。
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