本庄と自動車

 本庄は運転がヘッッタクソである。一応、身分証が欲しいので運転免許は持っているが、完全なるペーパードライバーである。本庄が住んでいるド田舎は車社会、どこに行くにも車がないと生きていけない程度の田舎であるが、車など持っていない。だって運転できないんだもん。本庄はどこにも行かずに生活しているのだ。


 免許を取りに行った初回、ただただ教習所の場内を回るだけの授業、教官に「君、マリオカートやったことある?」そう尋ねられた。それほどまでにカーブがヘッタクソだったのである。それがすべての始まりだった。


 本庄のオカンが色々音痴だということは前に書いたが、もちろん運転音痴でもある。そのオカンはミッション車で免許を取っている(当時はオートマ限定が無かった)ので、自分もミッション車は簡単だと思い込んでミッション車の免許を取りに行こうとしたのがすべての間違いである。


 あれ結構難しいな。


 本庄は減速チェンジが全然できなくて、コマ数延長を食らった。4000円くらいするやつである。自動車学校に入校する時、オカンに「何度延長しても同じ料金のプランにしなさい」と言われたが、田舎なのでそんなプランはなかった。ああ、本庄の4000円也。


 本庄ですらこんなに苦労するのに、本庄に輪をかけて機会が苦手なオカン、どうやって免許取ったの? そう質問すると

「え? 10回は延長したけど?」

 という答えが返ってきた。そしてその翌日、本庄の銀行口座に10回分延長代が振り込まれた。ええい、さすがにそんなに延長せーへんわ。


 とは言いつつも、本庄は一度しか延長しなかったとはいえ、全てをギリギリで卒業してしまった。卒業検定が終わった後、教官から「点数的には合格してたから免許をやる、ただし絶対に一人で運転するな。友だちとも運転しちゃダメ。めっちゃ運転が上手い人だけを隣に乗せて運転しろ」と言われるくらいには運転が下手くそなまま卒業した。

 しかし、まさに教官の言う通りなので、自分は言いつけを守っている。一人ではなく全く運転していない。


 とにかく運転がダメダメすぎるので、せめてもの抵抗(?)として本庄は学科を頑張った。人生で他人より勉強した最初で最後の機会である。そして本庄は道路交通法ガチ勢になった。この結果わかったのは、これだけ頑張って覚えたのが法律一つか、ということだ。本庄は法律を頑張っている人を無条件に尊敬することにした。


 しかし学科はともかく、本庄以上の運転下手くそ野郎は世の中にいるものである。

 その一人が、初回で紹介した友人・天気の子である。彼は本庄と同じ回数だけ延長したので、一見するとレベルは同じなのだが、延長の内容が狂っている。


 こいつ、車線の真上を走ったのである。そりゃ延長するわ。


 車線の真上を走った理由は簡単だ。

「ほら、あの白い線の上を走るものかと思ってた」

 お前は車の助手席に座っているときに何を見ていたんだ? いや、後部座席に座ってても色々見るだろ。


 世の中には想像を絶する人間がいる。そこのあなたも、本庄が運転する車の助手席に座ったらきっとそう思うよ。

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