本庄と自称進学校

 何を隠そう、本庄は自称進学校出身である。

 自称進学校とは何か、皆さんはご存じか。ものすげー管理教育を施し、国立大学に現役合格することを何よりも重視し、校則が死ぬほど厳しい高校のことである。


 悲しいことに、本庄は幼いころから管理教育で育った。小学校から高校まで、見事に全てである。自由なのは幼稚園だけ。このエッセイを読んでくださっている方なら薄々わかるだろうが、うちの大学も大学にしてはかなりの管理教育である。防◯大とかに比べたらシャバも同然だけど。


 うちの小学校は、小学校にしては珍しく、結構寄りだった。というかかなりの右だった。極右と言っても過言ではない。

 校則もかなり多く、髪型と私語に関しては非常にうるさかった。

 そして運動会、一糸乱れぬ行進と体操とダンスを求められ、めっちゃ練習させられた。ダンスに至ってはクラシック音楽で踊らされた。これが小学校の運動会か、と今になっても思う。クラシック音楽は極右とは関係ないけど。とにかく変な先生が多かった。


 そして中高。本庄は中高一貫校に進学しているので同じ学校である。

 まあこれが典型的な管理教育の自称進学校だった。髪型に死ぬほどうるさく、成績にも死ぬほどうるさく(本庄は成績が悪かったのでこれが嫌だった)、その割に進学実績はあまり良くない。サイトに国公立大の進学実績しか載せないの、恥ずかしいからいい加減やめようぜ。うちの生徒の進学先、実は多くが私立大なんだしさ。


 成績にうるさいのも嫌だが、生徒にとって嫌なのは、登下校中も携帯電話を一切使用してはいけないことだ(普通に持ち込んでたけど)。通学の時は先生も割と同じ電車に乗ってきたりするので摘発リスクは割と高い。


 本庄は一時間半くらいかけて高校に通っていたのだが、二年の時に、自分の最寄り駅の数駅先からとある先生が通っているのを知り、物凄い絶望に襲われた。絶対使われへんやんけ。ちなみに本庄はその先生に摘発されたことがある。


 摘発されたのは携帯ではない。ポメラである。

 ポメラって知ってる? 小型携帯ワープロね。字書きの方なら割と持ってるかもしれない。知らない方はググってください。

 本庄はそのポメラをお年玉で買い、常に持ち歩き、今から考えたらとんでもねー低いレベルの小説ばっか書いてたのだが、ある日それが先生に見つかった。


「……何これ?」

 取り上げた先生も不思議そうに首をかしげてたよ。そりゃ見たことないもんね。電子辞書って言い訳したけどダメで、結局取り上げられた。

 あれマジで大恥かいた。怒られはしなかったけど、何をやってるのか聞かれて本当に恥かいた。


 おい、わけのわからない電子機器は逆に怒られにくいぞ。恥はかくけど。

 というライフハック(?)は置いといて。


 携帯トラブルで一番恐ろしいのは、授業中に携帯が鳴ってしまうことである。登下校中は、生徒が携帯を触っていても見ないフリをしてくれる先生もいるが、授業中に鳴ってしまったら取り上げざるを得ない。


 授業中に携帯が鳴ると、教室中の空気が凍る。着信音が小さければ、咳払いや缶ペンケースを落としたりして周囲が誤魔化してくれることもある。しかしそれでも大抵はダメで、音を消すために鞄に手を入れたのを見られて摘発がオチだ。


 もちろん、みんな普段は携帯の通知を切っているが、毎年クラスに一人くらい消し忘れて取り上げられるかわいそうな生徒がいる。なむなむ。


 しかし、中学三年生の時、授業中に誰かの携帯が鳴ったが、

「あれ~誰か目覚まし時計が鳴ってるぞ~。おはよ~」

 で誤魔化してくれた、菩薩みたいな先生も一度見たことがある。あの先生凄かったなマジで。


 校則では携帯以外の電子機器もダメだが、みんな携帯同様にあの手この手で持ち込んでいた。一番多かったのは、電子辞書のケースにDSを入れる奴な。これは逆に授業中しかプレイできないので、周囲の生徒はヒヤヒヤもんだが、本人はいたって楽しそうだった。

 

 しかしこれだけの管理教育をされても、本庄は何故か自由人に育ってしまった。親の教育の賜物である。本庄家の場合、親は過保護気味ではあるが放任主義だった。自由人を育てた原因は恐らくこれだ。


 そう、学校の教育ごときでは人間の根本的な性格は変えられないのだ。特に本庄のような天邪鬼な人間はなおさらだ。

 自分の場合、管理教育をされると穴を見つけ出して破るのが趣味になってくるので、非常に手のかかるガキだったことには間違いない。


 そういえば、弟は同じ親の元で育ち、超普通の高校を卒業したのだが、本庄のような自由人ではなく何故かまともに育っている。なんでだろう。考えないようにしよう。自分の生まれつきの性格に問題があるという結論しか出ないからだ。


 今思うのは、自由な学校に進学したらどうなっていたのだろう、ということである。本庄は中学受験組だが、母校に落ちたら、自学自律で有名な中学校に進学する予定だった。しかし、その学校を出た自分が、うちの大学の管理教育に耐えられる人間に育つとは思えない。

 と考えると、管理教育にも多少の分はあるのか。


 ……いや、うちの大学が、大学のくせに管理教育をしてるってのが一番おかしい。

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