本庄と弟

 家族の中で、弟のことを全然話してなかったなと思っていた。それはちょっと不公平かな~と思って書く。まあ家族にこのエッセイの存在が知られているわけではないので、不公平でも別にええねんけどな。


 うちの弟は、自分とは真逆の人間である。真面目で合理的な考えができ、コツコツという言葉がこれ以上似合う男もいまい。全人類が1日12時間以上勉強できるものだと思っていて、1日5~6時間が限界の自分に、草むしり検定の直前期には心配のあまり喝を入れてきたが、うちの母に「世の中には集中力に恵まれない人間もいるのだ」と諭されていた。情けなくて涙が出るね!


 なんか同じ家計で同じ釜の飯を食って育ったのに、金持ちっぽい。

 ギラギラしているとか、そういうのではない。中高大と卓球部なだけあって、陰キャである。ラノベも読むし漫画も読む。あまりオタクではないが、オタクには優しい。外見がお坊ちゃんぽいかと言われると、別にそうでもない。それなのに、なぜか金持ちっぽい。


 なぜ金持ちっぽいか、それは簡単で、金持ちに好かれるからである。

 理由になっていないが、それ以上の答えはない。

 幼稚園児の頃から今に至るまで、弟は金持ちと波長の合う人生を送ってきた。


 すさまじい話はたくさんあるのだが、それなりの話をいくつか挙げていこうと思う。主に小学生と大学生の頃である。


 小学生の頃、彼のクラスにはお金持ちの坊ちゃんが何人かいた。彼はことごとくその少年たちと仲良くしていたようだった。ある日、家にいないと思ったら「友達の別荘に遊びに行かせてもらっている」という。

 かれらは毎日親の車(もちろんベンツ)で送り迎えしてもらう。ちなみにタクシー登校とかいう、信じがたいご家庭もあるそうだ(親がお金持ちかつ共働きだと、送り迎え不可能なためそうなるらしい。なるんだ……)。

 べべべべべ別荘? それは都市伝説上の存在ではなかったのですか?


 参観日でやたら美しく、高そうなお召し物をした、お金持ちのママさんたちに、次々と「うちの子がお世話になっております」というお決まりの挨拶をされたとは、母の談である。ちなみに弟は家では友人の話をほとんどしないので、弟の友人の名前を把握していない母には苦行だったであろう。


 その生活っぷりは自分もおよそ知るところであり、それは主に弟に届く年賀状からうかがわれた。弟に届く年賀状は、所詮男子小学生が出す年賀状であり、弟もそうだが「親が各所に出す年賀状を分けてもらい、そこに『今年もよろしく』と汚い字で書いてポストに入れる」というものである。


 逆光の素人撮影くさい、カリフォルニア?ディズニーを背景としたであろう家族写真(東京ディズニーも詳しくないが、違うのはなんか分かる)。両親が全身真っ白の服を着たゴルフの光景、兄弟はサッカーの少年団の試合写真。なんか豪華そうなレストランの写真。シンプルに海外旅行の写真。クルーザーの上の写真なんてのもあっただろうか。


 金持ちは、その一年で撮った幸せそうな家族写真を、年賀状ソフトにぽんぽんと何枚か貼り付けて刷って出すようだ。宛名の「筆まめ」とかはご自宅のパソコンで頑張るのが金持ち流?らしい。


 クラスの一軍の隅っこに、めちゃくちゃ大人しくて陰キャっぽいけど、なんか一軍男子たちに気に入られている男子がいましたよね? あれです。


 小中高あたりは金銭感覚がおかしい人々と付き合っても、まあギリ何とかなるのだが、問題は大学である。弟は関西の某私大理系学部で、私大であるのに加え、学費の高い理系学部に行っているのもあり、学生に石を投げれば金持ちの息子に当たるようになってしまった。


 入学祝いは基本的に車、たまにマンションがいる。大学近くに分譲のマンションを買ってもらい、卒業するときに賃貸にして他人に貸し出せば、割のいい投資らしい。なるほど大学近くだもんね~。

 ……な、何を言ってらっしゃるんですかね?


 稀にではあるが、親に買ってもらったモン〇レールを着ている大学生がいるような大学、ということで察していただきたい。弊学にも家賃を除いた月々の仕送りが20万円のやつがいたが、それをしのぐ金持ちっぷりである。ちなみにそういうやつの下宿の8割にルンバがある。いらねーだろ!


「好きなブランドある?」くらいの会話は日常茶飯事だという。

 ないよ!!! 着たことないもん。無縁すぎて、気にしたことすらないんですよ。

 ちなみに自分は山登りが好きなので、ブランドなら石井スポーツとモンベルが好きです。


 あとはね、親に車を買ってもらったのはいいが駐車場を契約し忘れて、コインパーキングに1か月ほど停めていたとか、進級祝いに車が増えたとか。学生結婚したら指輪がハリーウィンストン……。学生結婚でハリーウィンストン……??????

 大学でもタクシー登校とか。こないだ株が暴落した日があったじゃないですか。あの日は友達皆騒ぎになったらしいですよ。マンションじゃなくて一軒家を借りてる意味不明な人もいたが、それは弊学の意味不明金持ちである。

 旅行先で車が壊れて、中古車屋に行って車を買ったという話は、本当かなぁ?と思ってはいるが。


 てか電車が1時間に5本も6本も通る地域で、車いるか?


 もちろん弟の散財っぷりは大学に入ってから拍車がかかった。金持ちとの交際費もバカにならないが、本人も本人である程度シャレオツな大学生になった(詳細はTwitterにあげている弟の写真を見ていただきたい。身内びいきではあるが、都会の大学生らしいお洒落さである)。


 旅行は流石に国内だし、ゴルフも楽しそうだが中古で揃えているというので、限度はあるのだろう。しかしゴルフはやっているし、旅行にも行く弟なのである。お金持ちって、ゴルフめっちゃするよね。そのイメージ、マジです。


 自分ですか? 再試かかりまくってるのにいつ旅行行くんだよ(マジでこのせいで友達との旅行ほぼ全部断ってて、自分を合成した旅行先のネタ写真が送られてきたからな)。

 弟、海外の学会にも行っていたが、当然旅費はかかりますからね。ヒエッ。


 今、家族共用のAmazonを見たら、アサヒスーパードライ24本、モバイルバッテリー、浄水器(京阪神の水はまずいので仕方ないが)、高いドライヤー。

 高いドライヤーいる!? 自分は今日、2週間前に壊れたヘアアイロンを買い替えるために、3980円の、髪を焦がすためのアイロンとかネットでボロカス書かれているアイロンを買ったが?

 ……安物買いの銭失いとはこのことである。


 弟の収入源は謎である。ただ、給付金奨学金をもらっているのがめちゃくちゃデカい。しかも結構な額である。それに明らかに弟への仕送りが自分の2倍くらいになっている気がするが、それは親と自分の同意を取った上なので構わない。しかしそれでもおかしい。弟の趣味はプログラミングと株であり、株の資金だけはどこから出ているのか全く分からない。でも割といろんなところの株を持ってて、優待券を譲ってくれる……。謎である。


 前は時給2400円の塾講師バイトに鬼出勤していたが、最近は研究も佳境なので辞めたようだ。今はシフトに融通の利く飲食バイトである(理系の研究をやりながら飲食バイトも中々だが)。


 自分は定期的に弟の家を大阪のホテル代わりに活用しているので、弟の家によく行くのだが、弟の持ち物は全て自分の持ち物の2~3倍はする。

 ハンドソープも5000円(めちゃくちゃいい匂い)、シャンプーも5000円(これは良さがよく分からなかった)。クッションはやたらモフモフしているし、弟の家には、友達にもらったブランドもののジャケットがハンガーにかけてある。あなたは友達からブランド物を貰いますか!? なんかおすすめのブランドの布教だといって、新しく別のを買ったからと貰ってきたらしい。へ、へぇ……。そんなこと世の中にあるんだ……。

 そういうのをちゃんと使う・着るので、尚更相手に喜んでもらえるというね。


 なぜそういうバケモンみたいな値段のものを自宅で使っているかというと、そういう高級な品が贈答品としてやり取りされるからである。

 金持ちのお子たちは、自分が貰うよりも少し多く返したがる。なので、誕生日だけではなく、何かのお礼等につけて、そういうものをやり取りするのである。

 家のタオルが全部お中元みたいな感じですね。違う? 合ってる? 合ってるか。


 これだけ散財しても、なぜか弟に腹が立たないのが不思議である。明らかに弟の散財額は自分より圧倒的に多いのに。そこは薄々家族だから分かっているところである。


 弟は人には決して欲しがらないのである。欲しがる時には、必ず直球で要求する。遠回しに親にお金をせびったりすることはない。「〇〇がほしいんですが、あなたがいいと思ったら、お金を振り込んでもらえませんか?」こうである。

 多少のプレゼンくらいはするが、ゴネるようなことはしない。他人に嫉妬も一切しない。ストレートだから、この男と金の話をするのに一切の警戒と不安がない。だからこそ、財布の紐が緩むのかもしれない。


 あと、行動の気前がいいんですよね。フットワークが軽い。何かやってくれよってお願いしたら気軽にやってくれる。それも絶対プラスに働いてる気がする。

 ここらへんが、そういうグループに入ってもやっていけるコツなんだろうなと思う。


 自分には決して真似できない領域だと、3980円の安物ヘアアイロンを開封しながら思った。更に、自分はモバイルバッテリーは10年前の5000円のものをまだ使っている。そろそろ発火しそうで怖い。たぶん弟は10年で15個くらいモバイルバッテリーを買ってる気がする。こないだ貸してくれたもん。

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