本庄とママ

 古川さんに、オカンエピソードをリクエストいただいたので、オカンのエピソードを書く。


 うちの母はかなり天然、そして少女趣味だ。本庄は下宿しているのだが、カーテン、クッション、布団カバーは全部花柄である。ニトリでかなり抗議したが、結局おとなしい柄の花柄に落ち着いた。花柄は譲れなかったようだ。


 おかげで、卓飲みで人が我が家に来たら大抵笑われる。そりゃそうだよね。本人に似合ってないもん。勿論実家も花柄まみれである。生まれた時からそうなので、弟は違和感がないようだ。それ洗脳やで。実家出たら気づくで。


 本庄は実家にあまり帰らず、母を下宿に呼びつけることが多い(そして母も、実家近辺のスーパーに売っていないものをこちらで買い漁って帰る)。食事なども作り置きしてもらったりする。ありがてぇありがてぇ。

「これ、食べる前にお醤油をテキテキかけといて~」

 そんなオノマトペ初めて聞いたわ。「テキ」は「滴」という意味か?

 ……ここらへんから既に独特でしょ。


 母は基本的に良い人である。アホの本庄にも優しい。成績が悪くても、特に小言などはない。「本人がそれなりに成績気にしてたらいいや」という具合である。

 だが、進級に関しては話が別である。「全部Dでいいから、F留年だけはつけないように」と厳命されている。留年されては、家計に関わるからだ。


「大学に入ったので、死ぬほど勉強してもらいます。返信不要」

 実際に送られてきたLINEである。怖い怖い怖い怖い。

 他にも、自分が「この学年は数人しか留年しないから大丈夫~」などと言っていたら「あんたがそこに入るかどうか聞いてんねや!」

 怖い。すみません。多分大丈夫です。

 嘘です留年しました。


 こういう母だが、本人は本人で、大学の時には遊び惚けていたのだという。


「私も大学の時は、前の子の答案見て進級してたしな~」

 本庄が誰に似たのかよくわかる。

「なんか恋愛相談に乗ってたら見せてくれるようになってな~」

 Win-Winじゃねーか。


 うちの母はたくましい。


 そして、母の最も怖いところは、恐ろしい勘の鋭さである。

 本庄にもかつて付き合っている人がいた(別れた。理由はまた今度)。その人が我が家に遊びに来たのだが、母に知られたくなくて全ての痕跡を消していた。が。


「この髪の毛、照のじゃないね?」

 母は、掃除中にわずか1本の、柔らかくて細い髪の毛を見て、怪しい人間の出入りに気づいたのである。しかも、

「なんで洗濯機の前に落ちてるん? これは遊びに来た人ちゃうよね?」

 場所が悪かった。付き合っているのかと尋ねられた。


 あんたは鑑識か?


 いや、高校の時から「ただいま」の声色でテストの結果が悪いことを看破してきたオカンやしな……。マジで怖い。警察官なれそう。そのうちDNA鑑定とかしてきそう。


 けど天然のいいところは、勘が鋭くても、クソみたいな言い訳で誤魔化せることである。かなり無理矢理な言い訳でも通用する。洗濯機の前に髪の毛が落ちていた時も、

「……友達が来た時にジュースこぼしたから毛布洗って、その時に毛布についてた髪が落ちたんちゃう?」

「そうなんや~」

 ちょろい。これで丸め込まれる。さすがに警察官は無理そうだ。


 こんだけ勘が鋭いのに、母は猛烈な方向音痴である。嫌いなものは立体駐車場だ(2階以上はダメ)。歌も音痴、運動も音痴、左右音痴と、だいたいコンプリートしている。そしてこれ、全部本庄に遺伝している。


 そこ遺伝せんでええねんな〜。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る