本庄と研究室①
本庄は自分の研究室が大好きである。本当は、成績が悪すぎて第一志望、第二志望、第三志望と全部落ちて入った研究室だったんだけど。でも当たりだったな、と今になって思う。
まず、先生が善人ばかりである。もちろんクソ教授なんかいない。
いるのは、サラダにカラムーチョをかけて食べる愉快な教授である。
え、どういうことか? その気持ちわかるよ、自分も初めて見たとき二度見したもん。
まず、生のサラダを用意する(教授の場合、愛妻弁当に入っている)。そして、カラムーチョの袋を用意する(教授の場合、すでに開けてあって隅をクリップで止めて教室の冷蔵庫に入れている)。カラムーチョをいくらか取り出してサラダにかける。おわり。食べる。
おいしいかどうかは、辛い物が嫌いな自分にはわからないけど。
穏やかな顔して、すごいもの食べるよね。もちろん、単位の出し方も穏やかで、あだ名は仏である。ほぼ確実に単位をくれる。
その教授は出身大学では武道系だったらしくて、大学時代からずっと横にでかい。教授だけではない、この研究室の先生は一人を除いて全員がよく食べるデブである(最近、デブのうち一人の先生が病気をして痩せた。モルモットの時に、学生が注射するのを応援してた先生ね)。よく飲み(酒を)、よく食べるデブである。
うちのボスは准教授なのだが、この人も教授と同じ大学の同じ武道出身で、そのコネで連れてこられたらしい。将来の教授候補、というわけだ。コネってすごいね。コネがものを言う小説を書いている自分だけども、本当にコネの怖さを目の当たりにすることはほぼなかった。
このボス(当然デブ)もまた愉快で、年収から家族のことまでだいたい何でも話してくれる。本庄に負けず劣らずのおしゃべりで、負けず劣らずの雑だ。1000万円クラスの顕微鏡がバカスカ並んでいる、飲食禁止の機械室で、あの人は平気でコーヒーを飲む。スタバのタンブラーで。コーヒーが好きなのかと思えば、「わざわざ淹れるのはめんどくさいから、全部インスタントだよ〜」。コーヒーが好きな気持ちだけは伝わる。
この人、本ッ当に雑で、ゴム手袋をしているのを見たことがない。忘れられないのが、うちの学生が先生の机で実験をしていたところ、何かの液体が机にこぼれていたらしく手がかぶれたのだが、先生は無傷で何も気づいていなかった。強すぎるし雑の域を超えている。
だが、雑が通用しない実験の時にはそれなりにまともになる(ふだんからまともであってくれ)。RNAとかの実験ね。そして結果はちゃんと出す人らしい。論文読んでないから知らんけど。でも四〇歳を前に准教授になっているのでかなりエリートだと思う。見た目はゴリラだけど。
そしてめちゃくちゃ優しい。買ったばかりのマイクロピペット(3万円)を学生が落として破壊しても、嫌な顔一つしない。いいよいいよって言ってくれる。(なお、破壊したのは本庄ではない。結局、マイクロピペットは何とか修理された)
ただ、車をぶつけた時にはすごく凹んでた記憶がある。
「俺、車はぶつけたことないのに」
そっちか〜い。
そんなボスの怒ったところを自分は見たことがない。カンニングしたのがバレた学生には怒ったらしいけど。でもボス、こないだ「俺は大学の時、試験でめっちゃカンニングしてたわ」って言ってたやん。人のこと言われへんやろ。
他にもいっぱいエピソードがあるので、それはまた今度。
いやぁ、悪口じゃない話はめっちゃ筆が進むなぁ(嘘、悪口もめっちゃ筆が進む)。
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