本庄とモルモット

 自分のいる研究室は、マウスなどの動物を使うことがよくある。ただ観察するだけの場合から、最終的にはお亡くなりになってもらうまでパターンは様々だ(割とお亡くなりになってもらうパターンは多い)。


 本庄の場合、その中でも特にマウスを殺す実験が非常に多く、マウスの首根っこを掴んで尻尾を一思いに引っ張る頸椎脱臼にはだいぶ慣れてきた。うわグロっと思われるかもしれないが、失敗しなければマウスに苦痛はないし残酷ではない。最初の方は結構失敗してたけど。ごめんよ、マウス。


 あまりグロ話を語るのもどうなのかと思うが、失敗して時間がかかってしまうと、横から先生の「おいおいそんなに苦痛を与えて、マウスが恨んでるぞ〜」という茶々が入る。かえって集中できなくなるのだが、先生は恐らくそれを知っててやっている。


 周囲の学生と比べてマウスのキル数が自分だけやたら多いので、最近は研究室で「暗殺者の学生」とからかわれることも増えた。


 本庄があまりにも動物実験ばっかりやってて、論文を全然読んでいない(特に英語は手付かず)なのだが、それはまた別の話だ…………。

 まあいいよな、発表前に論文読んだらなんとかなるよな(ならない)。


 先日、大きい動物が欲しいということで、ボスとは別の先生がモルモットを手に入れてきたのだが、その手伝いに何故か本庄が呼ばれた。

「君、どんな動物でも笑顔で殺せるんやってな」

 そんなわけはない。

「えっ、うちのんからそう聞いたけど」

 うちのんとは、その先生に教えられている学生のことである。


 その先生についている学生も友達なのだが、嘘八百を言っている。その学生は全く動物を触れないとのことなので、マウスを無言で〆る本庄がそう見えたのかもしれないが。


 動物を触れない学生が見守る中、本庄はモルモットを押さえつける役目を仰せつかった。モルモットに何箇所か注射したいのだが、モルモットは当然逃げる。だから学生がしっかり押さえて、先生が注射する、とこういうわけだ。


「お前もやれ」

 その先生は、動物が触れない学生に無茶振りする。もちろん彼は首をブンブン振る。

「でも、動物触られへんかったら、研究できへんで」

 それもそうだ。渋々彼は注射器を手に取った。本庄はモルモットを押さえている。


「がんばれ――! 注射せぇー!」

 後ろで先生が応援する。学生の手が震えている。

「無理です無理です、噛んできたらどうしよう」

 学生は土壇場で注射器を放り出した。

「大丈夫!! 噛んだとしても、噛まれるのは本庄やから!!」


 嘘やろ? 大丈夫? どこが?


 本庄は先生を二度見した。学生は勇気づけられて注射を頑張った。その言葉で勇気づけられるの、どうかと思うけどな……。本庄のボスがやってきて一連の流れを聞いて笑い始めた。


 一度目に注射した時にはモルモットは痛がりながらも唐突の針に困惑しているのだが、二度目の注射ともなると大暴れである。小児科の予防接種を考えていただいたら話は早い。


 三度目に注射する暁には、キィ―――――と泣き喚いた、いや鳴き喚いた。

 モルモットはそれなりに図体がデカいので、鳴き声もでかい。みな驚く。

 さすがの本庄もちょっとかわいそうになってきた。


「痛そうですねぇ」

「でも俺は痛くないし」

 先生のこのメンタリティすごない? サイコパスやん。本庄もだけど。

「でもずっとこんな声で鳴かれたらこっちも困りますよ」

「でも続けるしかないじゃん」

「まあそうなんですけど」

 

 何度かモルモットの悲鳴が聞こえ、一通り作業が終わった時、先生はこう言い放った。

「その鳴き声、iPhoneのアラームみたいだよね」

 一瞬、納得してしまった。

 そしてiPhoneのアラームを調べてみたが、別にモルモットの鳴き声っぽくはなかった。結構iPhoneのアラーム音は小洒落ている。


 まあ実際、普通のアラームには似てる節がある。やかんの口につける笛とか、結構似てるんじゃないかな。


 この先生、暗殺者本庄より、だいぶサイコパスだよなぁって話でした。

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