STORIA 33
常に携帯に触れているか、バイトの休日には音羽と連れ立って行動を取る事が多くなっていた。
孤独を紛らわす為の手段がゆっくりと確実に形を変えていく。
メール着信音が鳴った。
蘭からではないと本能的に感じていた。
見ると先日の合コンで僕を誘った女の子からだ。
"二人きりで逢いたい" という彼女からの文面に躊躇いもなく"いいよ" と返信を打つ。
僕は蘭から届いた最初のメールに戸惑いを抱きながらも、何処か落ち着き払った様子で仕度を始めていた。
そして待ち合わせ場所に向かう。
頬を打つ風が重くて冷たい。
舞い上がる砂塵の先にミニスカートに派手な原色のキャミソール、薄手の上着を纏った女性が姿を現し僕に手を振った。
「冬悟君! 来てくれるなんて想わなかった。恋人居るんでしょ?
怒られちゃうわよお」
彼女が笑いながら僕を茶化す。
「別に」
僕は適当にあしらった。
「ま、いいわ。あたしも彼と上手く行ってないのよね。それより何処か食べにでも入らない? 今日は朝までOKなんでしょ」
茶店に入ると、彼女は更に機嫌良さげに話し掛けて来る。
そんな彼女に対して僕は疲れた様に頷く動作を繰り返していた。
「それでね……」
彼女の言葉が意味のない物に変換され耳を素通りする。
遠くで何かが囁いているかの様だった。
静かな部屋で蘭を想う時や、愛しい彼女の吐息に心を曝け出す時にはあんなにも素直で居られたのに。
だけど今は違う。
この心にあの頃の余裕はない。
僕はただ今晩誰かがそばに居てくれればいい、それだけを切に願い続けていた。
「ねえ、あたしの友達もあなたの事を気に入っている子が何人か居るの。逢ってみない? 堅い付き合いじゃなくていいから」
「そう……」
僕は携帯の時計を繰り返し見てばかりいる。
一日はこんなにも長い物だっただろうかと。
僕は馬鹿だ。
夜遊びに溺れた。
日毎相手を変えながら。
蘭に罪悪感を抱く事もなく平気でこんな事が出来てしまう。
それ程までに彼女の居ない夜は淋しくて堪え難い物があったんだ。
女の子なら誰でも良かった。
温もりのない夜なんてもう考えられない。
いつも誰かの体温を必要としていたいんだ。
それは淋しさの証で。
僕の隣が空白のままでは現とは呼べない。
蘭にそばに居て欲しいけれど、僕の極度な哀しみや想いは時として彼女を傷付けてしまうだろう。
蘭の心や体を自我的欲求を満たす為に利用したりするのは嫌なんだ。
そんなのは他の女の子で充分だ。
涸れた心に慰みを与えてくれる彼女等の存在は一時凌ぎにしか過ぎないのだから。
そんな彼女達の心に執着する事は決してなかった。
嵩む女の子達のアドレスを蘭に知られない様にとシークレットで登録をする。
蘭は僕の事を疑ったりする器じゃない。
でも彼女がそばに居なくても、この携帯を見る事がないのだとしても他の女の子の番号を堂々と表示して置ける程、少しも疚しい気持ちがなかった訳じゃないんだ。
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