STORIA 32

愛しい者から止むなく切り放され残された者に出来る事なんて良からぬ展開を考える事位だ。

そうだろう? 蘭……。

「冬悟、どうしたんだよ。そんな顔して、心ここに有らずって感じだな。そうだ! 冬悟も来いよ、今度の合コン。人数足りなくてさ」

僕を強引に誘おうとするのは中、高校在学時からの腐れ縁、音羽だ。

彼とは今でも度々こうして逢う事がある。

「ごめん……、僕には蘭が居るから無理だよ」

「今は遠距離なんだろ? 黙ってたらいいんだよ。それに定職にも就いてないのだったら大方暇だって事じゃん。付き合えよ」

音羽は僕に有無言わさず達ての願いだと押してメンバーに入れてしまった。

僕も妙なところで義理堅い物だから、親友の誘いは断れないと自分の意志とは反対に参加する事にOKサインを出してしまっていたんだ。




「冬悟! こっちこっち。今日は楽しんで行けよな」

僕達は男女共に四人ずつ、合わせて八人でカラオケボックスへと入った。

薄暗い照明、大音量を放つ通信機、騒がしい位に盛り上がる人声。

今の僕には不愉快な物ばかりだ。

「冬悟、何テンション下げてんだよ」

音羽が飲料片手に声を張り上げる。

かなり羽目を外している様だった。

馬鹿馬鹿しい、こんな事。

そう想いながら冷めた感情でジュースを飲んでいると、

「ねえ……」

僕の隣に居る女の子がそっと耳打ちをする。

「隙を見て外へ出ない? あたしもこういう場所、実は苦手なのよね」

騒がしい中、僕は彼女に腕を掴まれ周りに気付かれない様にして室外へ出た。

「ありがと……。僕、ああいう雰囲気嫌いで。助かったよ」

「じゃあ、行こっ」

彼女が突然、寄り添う様に僕の腕に手を回して来る。

「あんなのただの口実に決まってるじゃない。本当はあなたと二人きりになりたかったの。ね、何処行く……」

親し気に触れる彼女の手を僕は無情にも払い除けた。

「ごめん、断る」

「彼女に遠慮してるの?そんなの……。あ、待ってよ、ねえってば……」

僕は構う事なく店を出た。




家に戻り、蘭のホームステイ先に国際電話を掛ける。

何処からともなく沸き上がる侘しさを埋めたくて。

「え……、未だ帰ってない?」

「ええ、ごめんなさい。最近遅くまで大学や図書館の方で勉強しているみたいで。折り返し御電話差し上げる様にと伝えておきましょうか?」

枯れた声の女性が流れる様な日本語で話す。

彼女が蘭のホストマザーだろうか。

僕は声を落とした。

「いえ……、結構です。すみません、また連絡します。それじゃ……」

蘭、毎晩遅くまで頑張っているんだ。

なのに淋しさや愛しさで君の声を必要とする僕は単なる駄々っ子と同じだな。

僕の行動は君の夢を妨げているだけなのかも知れない。

だけど日毎に君が遠くなっていくみたいで怖くて仕方がないんだ。

君の心がいつでも僕に向いている様に願う事は今では凄く難しい事の様な気がしているよ。

僕はこんなもやもやとした気持ちをどうにかして楽な方向へと運んでしまいたかった。

僕の手は次第に手持ち無沙汰を嫌う様になる。







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