STORIA 21
張り詰めていた物が一気にほどけていく。
あと数週間程の我慢だと繰り返される単純な作業や冷たい周りの視線に必死に堪え忍んだ。
それでもコンビニの職場では新人の言葉に僅かに救われる事もあったんだ。
シフトの組み方の都合で僕は新人の先導君と二人だけでカウンターに入る事も度々あった。
今日もチーフが休みの為、ベテランの一人はバックルームでチーフに代わりパソコンにデータを登録している。
なので店内は僕と新人に任されていた。
こんな時、僕は先導君より遥かに確りしていなければならない。
落ち着きさも必須となってくる。
僕はプレッシャーに襲われ気ばかりが焦っていた。
蒸し暑さが増す近頃、カウンター様に置かれたシェイクやソフトクリームなんかが実に良く売れる。
煙草やチケットを含め、勘定台の内側だけでも一度に十程買って行く客も見られた。
僕はミスをしない様自分の事で精一杯だった。
バックでモニターを確認しているベテランは僕の仕事振りに気が気でないに違いない。
沢山売れれば売れる程、補充にも忙しく追われてしまう。
そんな時に新人から質問の一つ、二つでもされたのなら僕は満足に応対もしきれないだろう。
夕方近くにもなると客が多数並び始めレジ周りは慌ただしさで溢れ返っていた。
「やっと落ち着きましたね」
人気が少なくなった店内に先導君が胸を撫で下ろし言う。
「そうだね。でもベテランさんも少し助けてくれたし」
「すみません……、僕、全然役に立てなくて」
先導君は申し訳無さそうに僕を見た。
「そんな事ないよ。僕の方が謝るべき立場にあるのに……。一人前に教えてあげる事も出来なくてごめん。足も引っ張ってしまって……」
「どうしてですか? さっき店が混んでた時も凄くテキパキされてて僕、横で見てるだけしか出来なくて、やっぱりベテランさんって凄いなって想ってたんですよ」「……ありがとう」
こんな些細な言葉が涙が出る程に嬉しい。
店内が再び閑けさに包まれてくるとその合間に先導君と色々な会話をしたりしていた。
彼は僕より二つ年下の高校一年で趣味の共通もあってすぐに話が弾んだ。
チーフが居る時に比べると今日は本当に和んだ時間が過ごせていた様に想う。
全ての人が厳しく厭な感情ばかりをぶつけて来る訳ではないんだ。
こんな風にちゃんと僕の事を見てくれる人も居る、そう想う度に心が震えて来る。
縦えそれが社交辞令に近い物でも本当に嬉しかったんだ。
変わらない。
僕の心、阻むもの全て。
望む物、目指す物にも出逢えず、未来を責付く現実に僕は遁れる様に瞼を伏せる。
カナカナカナ……、カナカナ…………。
樹幹から響き渡る音色は夏の延長線上に息衝く小さな命。
この掌に淋しく降りる桐一葉 。
暖色に染まる一片をそっと両手で差し受ける。
初秋の訪れだ。
もう、こんな季節なのかと鳴く蜩の聲と共に知らせてくれている。
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