STORIA 20

皆、ラインでの仕事を任されていて部品を流し終えると次に流す部品の準備が整うまでの間、シャフトを拭くというのが通常のパターンという物なのだけれど。

要はこれ以外の仕事を僕には与えられないって訳だ。

急がなくていい事に僕は次々に手を働かせている。

御蔭で台車一台分拭けば充分間に合うという部品を十台以上仕上げ、出番のないシャフトは窓際の片隅で暫く睡る事になった。

僕の居るSI班も部品を流し終えラインは次の部品が流れるまで一度ストップとなる。

手の空いた作業員達は僕の拭くシャフトを横から奪う様に取り出すと手早く乾拭きを済ませてしまった。

瞬く間に僕の手元にあった仕事量は姿を消してしまう。

僕は作業員達の行動の機敏さに目を見張らせ、再び自分の仕事の不出来さを想い知らされてしまっていた。

SI班での仕事がなくなると僕はまた別の班へ移動。

そこでは久し振りにライン作業に入る事になる。

この班のリーダーは僕の様に仕事が上手く熟せない者にでも取り敢えずラインに放り込む人だった。

ラインの先頭を担当する事になった以上、手早く部品を流していかないと後の作業員に迷惑が懸かってしまう。

予想通り僕の手は満足に運べず皆の足手纏いとなる。

同じラインで場所を交替しても結果は同様だった。

それでもこの班のリーダーは何度か先頭での仕事を与えてくれたけれど、結局の処SI班でのシャフト拭きに戻される事になってしまった。

新しい現場には僕を蔑んでいた巻き髪の彼女やその連中、そして厳しい視線を送るリーダーは居ない。

G班に居た時の事を想えば今ある状況の方がずっといいのだろう。

ここでも陰で何かを言われているには違いないのだろうけれど。

だから僕は固く決めた先程の想いを抱いたまま意志一つ変えずに作業を繰り返していたんだ。

ラインを佐ける、その単純作業は延々と続いていく。

後はもうダンボールや不要な物の処理にとにかく終われてばかりいた。

仕事も終盤に差し掛かり、G班の時のリーダーと運悪くも休憩時間が重なってしまう。

だけど決心した言葉を伝えるには丁度良いと想った。

本当は今居るSI班のリーダーに言わなければならなかったけれど、世話になった事も含めて彼に先に言葉を切り出してみる。

「話って?」

僕は恐る恐るリーダーの顔を見た。

「あの……、今月一杯で辞める事を考えているのですが……」

「辞めるの? そう」

彼は微妙な笑みを浮かべて僕の言葉をさらりと受け流した。

特に引き止める事抔しない。

「じゃあ、辞めるまでの間頑張って」

と、一言だけを吐き残して現場へ戻った。

当然の反応か。

きっと皆、僕が辞めると知れば厄介な奴が居なくなるなんて内心喜んでいるに決まっている。

僕は学ぶ事にもう限界で逃げる事を選んだんだ。

辞めるという言葉を実際に声にしてしまうと想い描いていた通り心が楽な場所へと行き着くのが分かる。

すうっと胸を内が解けていく様な、自分はもうすぐこの会社から姿を消せるのだと急に解放された気分を味わっていたんだ。








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