STORIA 22
教室の窓際、愁いを抱えた心で文机に打ち伏せた。
微睡む僕の髪を揺らし時節の風が駈け抜けてゆく。
「冬」
誰かが僕の耳元でそっと囁いた。
「ごめんね、遅くなって。ちょっと用事があって。御昼休みもうすぐ終わっちゃうね」
自分の椅子に掛けたまま眠気を誘い込もうとしていた僕の許に昼食後、姿を消していた蘭が戻って来ていた。
「五限はロングホームルームか……」
彼女の肩越し、目に映る黒板に貼り出された時間割に項傾す様に呟く。
「蘭、それ?」
ふと触れた彼女の手が嬉しそうに持っていた紙で造られた華を僕に広げて見せた。
「見て? 冬。今度の文化祭で正門の所に使う飾りなの。実はさっき、これを手伝いに行っていたの。上手に出来てるでしょ?」
そう、僕達の高校には一大イベントが押し迫っている。
このクラスの出し物は演劇だ。
「蘭は照明係じゃなかったっけ?」
「うん、でも飾り付けの手伝いは女子の殆どがしているの、だから私も。次のホームルームで正式にそれぞれの係を決めるんだって。ね、冬は何処の係に入るの? 私と一緒に照明をしようよ」
「ん……、僕は蘭が一緒なら何でもいいよ」
実を言えば僕はこのロングホームルームが余り好きではない。
出来ればロングからショートに切り替えて欲しい位に想っていた程だった。
僕達、三学年はクラスの出し物の他に行事その物を支える大道具や装飾を担当しなければならない。
自分が希望をすれば幾ら役割を持ってもいい事になっていた。
各々の分担が決まればグループ別に集まって小会議が行われる。
その瞬間生まれる独特の雰囲気が僕は何よりも嫌いだった。
蘭も今は僕と組む事を考えてくれているけれど、各グループを決める際、クラスメイトが起こす行動を先読んで想うとそれも儘ならなかった。
ホームルームが始まり取り上げられた係の略、大体の役割分担が決まる。
だけどクラスには未だ何の役にも就いていない生徒達が彼方此方に見られた。
僕にとってはここから先が問題なんだ。
先生が潔く両手を打ち合わせ音を起こす。
「さあ皆、今日中に役割を決めてしまう様に。必ず一人、二役割担当だぞ。演劇の方も頭数だけが決まっているグループは未だ手の空いているメンバーを積極的に呼び寄せて確実な人数まで到達させなさい。決まった処から会議に入るといい」
先生が言葉を言い終えると生徒は立ち上がり散り乱れガタガタと机を移動させ始めた。
"やっぱり……"、心に愚痴を吐き捨て僕は懸垂させた額を右手で覆い隠し頭を痛める。
さっきまで教壇に忠実に列を整え並んでいた机は一人の大人の合図で瞬く間にグループ化してしまっていた。
僕の席は片隅に弾き出され孤独さを極める。
だけど僕には蘭が居るからと自身を宥めた。
「冬、私達も照明係の所に移動しよう。照明も実は後一人不足なの。ね、冬の友達の音羽君、誘えないかな?」
蘭はそう言いながら、彼女もまた教室の雰囲気に流されていく。
音羽というのは僕の親友だ。
尤も僕が一方的にそう想っているだけかも知れないけどね。
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