STORIA 12

リーダーが呆れ顔で大きく溜め息を吐く。

ぼんやりと勘え事をしながら手を動かしていたので今し方取った自分の行動すら僕の中では有耶無耶な記憶と化してしまっていた。

僕はおどおどしながら謝った。

「俺に謝られてもねぇ……。行く行くはこの製品を買う人間に迷惑が懸かるだけなんだから。それに余り失敗ばかり繰り返されると、課長な部長に散々言われるのはこっちなんだからな」

「はい……、すみません」

僕は自分を見直す事より取り敢えず謝る事しか想い浮かばなかった。

反発しなければそれだけでも従業員の苛立ちを抑える事が出来るんじゃないかとか、どうやったら僕から気を逸らしてくれるだろうかなんて幼稚な事ばかりを考えている。

だけど彼等の視界から僕が外れる事は決してない。

なんて想っている今もそばから……。

「ちょっと! あんた本当にリーダーの話、聞いていたの!?」

案の定、叱声が鳴り響いた。

僕の肩越し、勢い良くラインの角を叩く女性作業員の掌がこの頭を勘く唸らせる。

彼女は目も奪われる様な美しく染められた金色の巻き髪を面倒臭そうに掻き上げた。

「こんなに出来てない分、残ってたの!? 先頭で部品を流してる私の身にもなってよ! 今日中に仕上げなければ私達社員が残業する羽目になるんだからね、好い加減にしなさいよ」

彼女はいつも辛口調子だ。そして傲慢な態度に相応しく、その仕事振りは完全無欠な物だった。

彼女はラインの先頭で部品を止め処なく容赦ない速度で流して来る。

部品同士の間隔に一呼吸取れる程の遊びが持たされる事抔ない。

彼女の公休には代理の者が先頭を任される事になるのだけれど、僕はその方が作業を行い易かった。

一つの部品処理を終えた後、次の部品が流れて来るまでに空白が生まれる事があるからだ。

だからこんな風に数珠繋ぎで流されると僕はとても進行に追い付けなくなってしまう。

然し彼女の指先は意地とプライドを掛けている。

僕は処理に間に合わなかった部品をそのまま先に送る訳にもいかず、手元の際に留めていた。

そうして作業に空きが生じた瞬間に再び処理を行おうとするのだけれど、先頭が彼女なだけに隙が全く見付からないんだ。

彼女の厳格さと自分自身の無力さの狭間で僕は酷く蜿き苦しんでいた。




予鈴が昼食休憩へのカウントダウンを始め、漸く僕の心に安らぎが与えられる。

厳しい監視の許から解放された僕は社員食堂へと向かう。

例の彼女はと言えば、現場を離れたにも拘らず不機嫌さを隠し切れない様子だった。

彼女を煩わしくさせているのは、この僕なのだろう。

僕はなるべく彼女の近辺に触れない様に会社側から用意された弁当や茶を受け取りに向かっていた。

カップに茶を灌いでいると、後方から怪訝そうな眼差しが痛く突き刺さる。

「ねぇ、順番回って来るの遅過ぎない?」

「本当にね」

「きっと誰かさんがまた鈍間な事してるからなんじゃないの。ねぇ?」

同じ列で茶を待つ、あの彼女が嫌味を満々に含んだ言葉で相方に苦い笑みを見せている。







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