STORIA 11

今日これからするべき行動や、それらによって起こるだろう事柄を止め処なく考え始めたら遣り切れなさが襲って来た。

小さな体に存在する蟠り一つで冷蔵庫を開閉する音も、床を引く椅子の音や冷たく触れる朝の水音さえも哀しい物となって鳴り響いている。

一人で取る朝食はこんなにも淋しい物だっただろうか……。

だけどこれじゃまるで僕が母を必要としているみたいじゃないか。

憎まれ口を叩かれてもいいからそばに居て欲しいなんて言っている様なものだ。

きっと雪のせいだ。

儚げな雪の鼓動がその美しさとは対照に僕の心の芯までをも零下にし余計な感情すら引き摺り出して来る。

雪にはどうしてそんな想いを呼び寄せる力があるのだろう。




洗顔で少し濡れた額に掛かる髪を掻き上げ、鏡の向こうの空間に心を向けたまま流れる時の音に耳を傾けゆっくりと動く、風や雪の気配を感じていた。

頬に受けた風の中に蘭、君の面影はもう存在しない。

風に煽られ視界を遮る糸の様な飛雪に体を震わせ僕はコートの襟に深く顔を埋め歩いた。

蘭と過ごすあの優しい時間しか僕は要らない。

それ以外の時を誰かが削ぎ落としてくれればいいのに。

僕はこれから向かう先で人が変わった様に器が遥かに小さくなっている事だろう。

誰に何を言われても言い返せずに。

そんな姿、蘭には見せたくはない。

僕が翻す言葉の中に君がその状況を全て把握しているのだとしても、真実を実際に目にすれば蘭がどういう反応を示すのか考えると怖くて堪らないんだ。

だから出来るだけ自分を悪く見せない様に、厄介な事に巻き込まれない様に要領良く居たいと想うのだけれど。




人の心に触れる事を怯える時は常に当たり障りのない会話でその場を遁れる。

感情を抑え過ぎて荒波にのさばれ自分を苦しめる結果を生み出すと分かっていても。

でも僕はどうしたって要領良くその場を渡る事が出来ない人間な様で。

日曜日、今日も午前のコンビニでの仕事を終えた後すぐに工場の職場へと急ぐ。

昼間の勤務とは違う顔触れが機械音の中、僕を蔑む瞳で待ち構えていた。

挨拶を交わした直後、現場でベテランの従業員が仲間内と小声で語り合いながら僕の事を冷たくあしらう様に見ている。

この職場は皆、それぞれがグループを持ち休憩時にはいつも集団行動ばかりを繰り返しているんだ。

そして彼等が僕に挨拶する時は他と明らかに違っていた。

それは僕が頼り無いからだ。

"こいつ、いつになったら真面な働き振り見せてくれるんだよ"、なんて想われているのだろう。

僕はそんな事を悶々と考えながらラインを次々に流れて来る家電部品の組み立て処理を行っていた。

るといつの間にか僕の背後で様子を見ていたリーダーが素早く注意を払う。

「それさっき言ったよね。今日で何回目?」

ふと手元を見ると数個の部品に絶縁体を付けずにライン上に流してしまっていた。

「絶縁体は絶対に付け忘れないでくれって言っただろ?」








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