STORIA 13
彼女達が日頃、食事のネタに僕の失敗談を取り上げている事にも薄々気付いてはいたんだ。
現場の様な緊迫感はないと雖も休憩時間が心休まる物でなくなってしまう様な、そんな奇妙な感覚にすら陥ってしまっていた。
僕は学校の休日、コンビニでの仕事が終わった後、夕方五時から深夜零時までこの仕事に入る訳だけど最近では帰宅時間が深夜二時頃になる事が多くなっていた。
それはこの職場の従業員に足留めを喰らっているからだ。
僕の行動を阻む者、それは巻き髪の彼女しか居ない。
彼女は四つ程、僕より年上でリーダー同様他人のミスを片時も見逃さない社員の一人だ。
近頃僕の辛気臭い仕事振りが到頭、怒りの頂点に達したからなのか勤務時間終了後、僕を休憩所の片隅に呼び出し説教染みた言葉を投げ掛け始める。
僕がその日ミスった諸々の小言から意欲を問い責め立てる質問まで。
深夜十時を過ぎると課長や部長、事務所の人間などが一度に帰宅をし、僕は数人の鋭い視線が槍を射る中一人取り残された様に佇む空間が厭で堪らなかった。
就業後、緊迫した空気に息を呑む僕はまるで蛇に睨まれた蛙と同様だ。
唯でさえ学校と職場とを行き来している体は疲れて集中力を保つ事も儘ならない。
本来ならぐっすりと眠りに落ちる事が出来る筈なのに、能の神経がピンと糸を張ったまま僕の眼球に強い刺激を与えてしまっていた。
こんな事が毎日の様に続いて日々がストレスとの闘いで翌朝の学校の勉強にも当然影響が出て来てしまう。
だけどそんな僕でも見返してやろうじゃないかと強い衝動に駆られる事がある。
教えられた事柄を一から復習し、全てメモを取った上で初心に返って遣り直す気力で取り組む。
勿論、仕事中は余計な雑事は考えない様に努めた。
だけど確り成し遂げ様と想えば想う程逆効果だったんだ。
常に僕の行動を背後で監視するリーダーや、あの女性社員の視線がとにかく気になって仕方がない。
表向きは仕事に集中している積もりでも視界の片隅では今か今かと忠告の言語に怯えている。
体が妙にギクシャクして緊張による悪循環と自我的想い込みによって言葉の呂律も回らなくなっていた。
けれど僕は自分なりに頑張った。
自分に出来る限りの努力はしたと想っている。
二、三ヶ月後、寒さも和らいで来る頃には周りは誰一人何も言わなくなっていた。
認めてくれたのか、それとも単に呆れているだけなのか……。
仕事を終え、いつもの様にパソコンに退勤時刻を打ち込む。
「佐倉君」
僕が一番苦手とする女性が丁寧に捲かれた毛先を靡かせ近付いて来た。
"来たか……"、と僕は全身を恐縮させ話を聞く態勢に切り替える。
彼女には一瞬で僕を射竦める、他のどの威厳のある男子従業員にもない気迫の凄みが存在していた。
「ねぇ、これ好き?食べた事ある?」
彼女は箱ごと抱えていた指先で中を開けて僕に見せた。
どうやらミスタードーナツの新商品らしい。
「いえ、ないですけど……」
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