幕間その3 クレアを巡る人々の巡り合わせの数奇なること

「そんな……」

 メギドという地へ初めて訪れたクレアを待っていたのは、実に驚くべき真実の数々だった。



 クレア一行がラキアという名の老女の邸宅に夕方到着してから、もう随分と時間が経過しているはずだ。ラキアから語られるその話が、余りに想像を絶する内容であったため、同行していた中畑先生・佐伯麗子・遠藤亜希子はもちろんのこと、話題の当事者であるクレアはなおのこと驚いた。

 もはや、話が始まってから何時間経過したのか分からない。その部屋には時計がなく、ただ藍色の闇が窓の外から夜の更けゆく様を伝えるのみ。



 話の途中で、クレアは思わずほの暗い部屋の壁の中央に据えられた暖炉の上にある、二つの写真立てに目をやった。

 中畑先生が以前にこの部屋で見たモノクロの古い写真は、ラキアさんの母のもの。古いカラー写真のほうは、ラキアさんの若いころのもので、二人ともクレアに顔がそっくりだった。

 驚くべきことにラキアの一族にはかなり高確率で、クレアそっくりの顔の女性が誕生するというのだ。実はラキアの先祖は地球人ではなく……元はと言えばクレアの祖国、炎羅国の王家の血を引いているというのだ。

 なぜ、地球とは別の銀河系に属するほど遠い星である炎羅国の人間が、クレア達よりはるか昔に地球に来ていたのか? その謎が、これから語られようとしている。



 ラキアは、淡々と語り続ける。

「クレア。あなたも聞いているとおり、その昔炎羅国は黒死王との戦いに巻き込まれました。最初に攻められたのは、光の精霊が治める七波国でしたが、もしそこが負ければいずれ他の四国にも魔の手が及ぶのは分かり切っていたので、五つ国はすぐさま手を結んで戦ったのです。



 その戦いによって炎羅国は甚大な被害をこうむりました。戦力や資源などの国力だけではなく、その時代の国王その人自身が、討ち死によって命を落としたのです。

 その王の亡き後、誰が王位に就くかは、国に定められた法によって決められていました。しかし、黒死王との戦いの混乱に乗じて、不当に王位を乗っ取ろうとする者が現れ、そのクーデターは成功してしまいます」



「ちょっと待って。私は、国家の歴史上には善王だけが続いてきていて、王位継承に問題があったなんてことはない、って聞いたけど……」

 戸惑いを隠せないクレアの隣で、遠藤刑事は高級そうなアンティークの椅子の背もたれで上半身を反らせ、大きく伸びをした。

「まぁまぁクレアちゃん、歴史なんてそんなものよ。国はね、バレない限りなんでも都合よく捻じ曲げちゃうのよ……そもそも、善王だけが続く国なんて、私なんてひねくれているからさ、そこからして疑っちゃうけどね」



 ラキアはエヘンと咳払いをした。話の続きをしてもいいか? と問うように。

「……第十一代王・エスラジルは、表向きは税制改革において功のあった良い王とされています。炎羅国の学校では、もちろんそのように教えています。しかしその実は、黒死王との戦のどさくさに王位を乗っ取った、とんでもない王だったのです」

 普段は騒がしいが、この場ではこれまで物静かだった佐伯麗子が、おもむろに口を開いた。

「でもなぜ、王自らが戦死するような状況になったんですの? 『君子危うきに近寄らず』で、自分は母星にいて討伐軍に指示を出す、あるいは光の精霊を信頼して軍を預ける、というようなことはできませんでしたの?」



 その質問ははごもっとも、と言うような表情でラキアは麗子に顔を向けた。

「第十代王のジバルは、誠実でまっすぐな善王でしたが、多少融通の利かないところがございました。家臣が止めても『国の長たる私が戦場に立たないで、軍の士気が上がるだろうか? この私が安全な場所からただ指示を出すだけなど、命を張って戦ってくれる兵たちに申し訳が立たない!』と言って譲りませんでした。

 皮肉なことですが、その生真面目さのゆえにジバル王は命を落とし、みすみす悪意ある者に、王位を奪われてしまう結果となったのです」

「正直者がバカを見る、ですか。このことは遠い炎羅国も地球も変わらないなんて、なんか悲しいですね……」

 中畑先生は、そう言って深いため息をついた。このメンバーの中では一連の事件とは最も関わりの薄い部外者であり、たまたまクレアの学校の先生であったというだけの「一般人」という位置付けだが、彼だけがこのメギドへ訪れるのが二回目であり、もはや他人事は思えなくなっていた。

「で、ここからなのです。炎羅国の者が、遠く離れたこの地球にやってきた理由の核心は……」

 そこからのラキアの話を要約すれば、だいたい以下のような話である。



 王座を狙うエスラジルは、ジバル王の留守中に密かに動いた。

 現在の王ジバルに反感を抱く貴族階級と結託し、協力貴族の潤沢な財力で軍の数部隊と傭兵たちを買収した。動かせる軍の規模こそ大きくはなかったが、大部隊はちょうど黒死王討伐で留守であったため、クーデターは見事成功した。

 また、ジバル王が「自分の留守中に内部の誰かが裏切る」などという可能性を考えられないほどのお人よしであったため、完全に裏をかかれた格好となった。まさに、国を治める王はただよい人だけでは務まらない、ということの見本である。



 結果としては王位を奪われた上、その事実を耳にすることなく戦場で亡くなったジバル王であったが、決して最後まで悪いことばかりではなかった。

 人が良く正直すぎることで損をする一方で、その分家臣の中にはこの王を熱烈に慕う者も多かったのである。ジバル王の一族は捕えられて、成人男性は処刑、女子供は王宮に軟禁の上、国のために働くことを余儀なくされるところを、ジバルのためなら命も惜しまない、というほどの協力者の助力があり、一族は炎羅国を脱出した。

 現在の炎羅国ほどに科学は進んでいない時代とはいえ、宇宙航行はすでに実現されていた。星にもよるだろうが、科学というものはずっと右肩上がりで発展していくものではなく、生き物が「これ以上の快適さは逆に危険」だと感じるほどに極まってのちは、逆に自然と発展が停滞する傾向がある。



 宇宙へ逃げ延びたジバル王の一族は、もっとも近い星系の中で、炎羅国に近い環境のある星を探した。その結果、この地球に白羽の矢が立ったのだ。五つ国以外で、もっとも近い知的生命体の住む星が、数万光年も離れているとは! いかに宇宙の広いことか。

 クレアとリリス・そしてアレッシアが今回地球に逃げてきたものも、決して偶然ではないのだ。炎羅国の宇宙艇は、そのすべてが航行先データを共有するようなシステムになっている。一隻の宇宙艇がどこかの星へ行くと、そのことが即座に炎羅国すべての宇宙艇のコンピューターに履歴として閲覧されるようになる。

 ゆえに、アレッシアが逃亡先を脱出艇で検索した際、過去にジバル王の一族が行先に定めた地球のデータが残っており、閲覧されたものと思われる。



 さて、ジバル王の一族が地球に降り立った時、地球の歴史はまだ始まったばかりと言える時代であった。人間はまだこの時原始人であり文明といえるものは育っていなかった。むしろ人間よりも、地神や精霊たちが当たり前のように闊歩していた。

 どういう偶然か、ジバル王一行が着いた先は、のちの日本であった。

 これは余談であるが、まだ原始人同然であった地球の人間よりも先に言葉をもって生活を始めたため、彼らの……つまりは炎羅国の言語が後に普及し「日本語」となった。ちなみに、炎羅国がある星系にある『五つ国』は、皆同じ言葉を話す。このことは、地域によって多様な言語を話す地球では考えにくいことであるが、事実である。

「黒の帝国」でさえ、やはり言語は同じである。ただ、星々の距離が遠い分だけ、おのおのの星独特のアクセントや方言のようなものはあるが、驚くことにどの星へ行っても最低限の意思疎通には困ることがない。

 クレアとリリスが、宇宙から来たはずの影法師や紅陽炎と言葉が通じることを不思議に思ったことがあったが、その理由もここにある。



 さて、話を元に戻そう。

 ジバル王一行の地球到着より、遅れること約2年あまり経った頃。

 黒死王もまた地球に落ち延び、ヤマタノオロチという怪物と成り果てて、行く先々で破壊行為を始めた。

 オロチの降り立った先はどういう偶然なのか、やはり日本だった。

 ようやく日本での暮らしも落ち着いてきた矢先のことで、ジバル王一行がこれはどうしたものか、と思案に暮れている時、のちにヤマタノオロチと戦うことになるスサノオと出会う。

 逃げ延びたジバル王家の面々の中には、戦いを得意とするものがほとんどいなかったので、大勢でスサノオに協力することができなかった。とは言っても、自信過剰なスサノオは「俺一人で十分」と言って、助けを借りる気などさらさらなかったようだが。



 ただ、逃げ延びた王の一族の中に、強力な力を持った者が二人だけいた。

 それが、ジバル王の時代に「レッド・アイ」であった女性。そしてもう一人、「青の闇」の務めを果たしていた女性。

 この二人は、スサノオを助けようと戦った。しかし、精神的に子供のスサノオは、せっかくの助っ人二人を無視したようなスタンドプレーが目立ち、結局はそれがあだとなってスサノオは倒され、千年あまりの眠りに入った。

 しかしこちらも負け一方というわけではなく、レッド・アイと青の闇のおかげでヤマタノオロチがしばらくは(しばらくとは数十年か、はたまた数百年かは不明だが)満足に活動できないであろう手傷は負わせることができた。

 そして、傷の癒えた二者が再び相まみえ、因縁の対決をするまでには平安時代を待たねばならない。



 実はこの時、西洋世界より「メリエル」という名の天使が、レッド・アイと青の闇を『スカウト』しに来た。東洋を統括するアマテラス、西洋を統括するルシファー。この天界の二者が、地球の実質上のトップ2だった。

 ヤマタノオロチの脅威がいずれ西洋世界をも脅かすことを想定したルシファーの命によって、その右腕として働くアークエンジェル・メリエルがレッド・アイと青の闇を連れて行こうとした。

 それを察知し、異議申し立てをしたのはアマテラスであった。スサノオが頼りない今、この二人の戦力は東洋世界にとっても貴重だったからだ。二人とも連れていかれては困るアマテラスは、譲歩案として双方が一人ずつ選んで東洋世界・西洋世界の守りとすることをルシファーに提案した。

 その結果、メリエルはレッド・アイを選び、彼女をメギドへと連れていき、青の闇はアマテラスに選ばれ、そのまま日本に住み着いた。



 このことは話し手であるラキアは知らないが、そうして日本に居ついた青の闇の一族の末裔が、仁藤絢音なのである。そして、黒の帝国の魔の手から逃れてきた王女二人のもらわれた家の隣に、青の闇の血を引く絢音を住まわせたのは、謎の多い女ケリー・バーグマンである。

 ケリーは、青の闇が炎羅国の王女を守るための存在だと知っていて、絢音を双子の王女のすぐ近くに置いた。田中夫妻には、巧みに双子の養子縁組の話を持ち掛け、それが成功するやいなや隣家の『仁藤家』に、青の闇を仁藤絢音として住まわせた。

 もちろん、仁藤家の夫婦とその息子に一種の洗脳を施して。それぞれに青の闇のことを「長女」「お姉ちゃん」として認識させて。

 そもそも、仁藤絢音自身ももとはどこかの家庭に生まれた、名前も違うごく普通の少女だったのだが(もうその代では、自分たちが青の闇とやらの血統だということは伝承されていなかった)、ケリーはそこでも、絢音自身のそれまでの記憶を操作し、本当の両親のわが子の記憶に関しても消す必要があった。

 いくら使命のため、ひいては宇宙の平和のためとはいえ、ひとつの親子の絆を自らの手で消し去ることには葛藤を覚え、実行後ケリーは時々悪夢にうなされるようになった。

 彼女の一見ノーテンキな、天然な明るい言動の裏には、実は底知れない闇がもたらす苦悩が隠されていたのだ。



 そして一方、メギドへ連れていかれたレッド・アイの後の子孫に当たるのがラキア、というわけである。地球に長く住み世代交代が進むにつれ、レッド・アイとしての能力は次第に失われていき、特殊な戦闘能力を発動する者は、ほぼ生まれなくなっていた。それを証拠に、ラキアもその母に当たる人物にも、クレアのような力はなかった。

「私には魔物と戦う力なんてないんだけれども、たったひとつだけできることがあるのです」

 彼女が唯一持っている特殊な力。それは、「同じ血を受け継ぐ者を感知できる」ということ。その唯一の能力のすごさは、何も相手がそばにいなくても、例えば数千万キロ離れていても……分かるというところだ。

「だからクレア。十七年ほど前にあなたたち一行が地球に到達したことが、私にはキャッチできたわけなのです。いつかは、こうして合って話さねば、とずっと思ってきたのです」



 ここで長いラキアの話は、とりあえず一段落した。

 緊張の糸が長い時間張り詰めっぱなしだったその場の全員は、一息ついて体を伸ばしたり、紅茶に口をつけたりしていた。

「ここまでのお話で、今までバラバラだった情報が頭の中で繋がってきましたわ……ただそれでもまだ分からないことがありますの」

 ここの紅茶はまぁまぁですわね、と失礼な品評をしながら、佐伯麗子が口を開いた。ラキアに尋ねた、というよりはその場にいる全員に聞いている感じだ。

「美奈子ちゃん、のことはどう考えればいいんですの? クレアちゃんは分かるとして、あの子も『メギド・フレイム』と名の付く技を使ったんですのよ? ラキアさんのお話通りレッド・アイの血統がこのメギドの地だけで生きてきたなら、日本で生まれた美奈子ちゃんは地球のレッド・アイとは無関係、ということ?」



 ラキアは一瞬、狐につままれたような顔をした。

「日本に? レッド・アイの能力を発動する子がいる? もしかして、その子の苗字は『藤岡』ではないかしら?」

 ラキアが、会ったこともないはずの美奈子の苗字を言い当てたことに、クレアたちは唖然とした。

「どうして……分かったんです?」

 ずれた眼鏡を指で押しながら、本当に不思議だという表情で中畑先生は一同を代表する形で質問した。その質問に対するラキアの答えは、また新たな真実を一同に知らせるものであった。



「一族に代々伝わる伝承の中に、西暦千六百年頃に起きた事件のことがあります。日本では、ちょうど江戸時代、という時期だったと思います。スサノオとヤマタノオロチ、その因縁の対決の三度目があったのです。決戦の場は、日本の因幡の国(現在の鳥取県東)でした。

 その戦いの日がそう遠くないと推測した天界は、何としてもスサノオに勝たせるため、増援を考えたのです。

 ルシファーという神はあまりにも雲の上の存在で、下界に関わることはまずありませんが、その片腕であるアークエンジェル・メリエルという天使が、当時の私のご先祖のもとにやってきました。 何の用だったかというと、ご先祖に生まれたまだ5歳くらいの女の子をよこせというのです。

 いきなりやってきて、親に大事な子供を差し出せ、なんて普通はとうてい受け入れられる話ではありません。しかし、ご先祖様は結局その子をお預けしたのです。



 この頃になると、我が一族の炎羅国人の血は、度重なる地球人との婚姻でかなり薄まってしまいました。そのせいか、特殊能力をもつ者はほとんど出てこなかったのですが……この女の子だけは特別でした。まさしく、地球の創世期にヤマタノオロチと戦ったあのレッド・アイが生きていればまさしくこうだったのでは、と思えたそうです。

 なにしろ、その子は火が自在に使えたそうなのです。体のあらゆる部位から火を出すことができ、自身はやけど一つしない。その子がかんしゃくを起した時など、周囲に突然発火現象が起きたりして、親であるご先祖様もかなり子育てに手を焼いたそうです。

 この三度目の戦いで、何とか決着をつけたい。それには、戦力が多いに越したことはない。天界は、戦いの日までまだ十年は猶予があると推測していて、それまでにこの子を訓練して、戦士にしようと考えたようです。

 事の重大さが分かるだけに、子との別れがいかにつらくとも、ご先祖様には断るという選択肢はなかった。泣く泣く、その子を天使に託しました」



「……で、その三度目の戦いは…どうなったのですか」

 遠藤刑事の問いに、再びラキアは語り出した。この話はかれこれ2時間半は続いているが、その場の誰もが疲れを自覚するのを通り越して、緊張感のうちに耳をそばだてて真剣に話を聞こうとしていた。

「これは、天界のすることにしては意外に間が抜けていたのですが……戦いは予想より5年も早く実現してしまいました。フレイア、という戦闘術に長けた天使が天界から派遣され、その子に付きっ切りで教育と訓練を施したらしいのですが、その時点でまだ子どもの特訓が天使の納得いく水準に達していなかったのです。結局、戦士としての仕上がりが間に合わず、参戦できませんでした。

 でも、結果としては日本では最高の陰陽師だった安倍晴明の子孫、佐伯栖瀬里守が参戦し、辛くも勝利を収めました。勝ちはしたのですが、残念ながらシャドーを完全に滅することはできず、かつてのスサノオのように永い眠りにつかせただけでした」



「ちょ、ちょっと待って……佐伯って、まさか麗子さんに関係ある?」

 クレアは、素っ頓狂な声を上げて、ラキアの話の流れを止めた。自然に出た疑問だったのだろうが、この辺はまだまだ子どもだ。

 麗子は、フン、と荒く鼻息をついてから、しょうがないといった風にクレアの顔を見た。

「そうよ。彼女は私より前に、佐伯家の中で異能力者として生まれてきた人。佐伯家の人間でもあり、陰陽師でもあった」

 クレアは、ますます分からない、という顔をして頭をかいた。会ったことはまだないが、美奈子と定期的に連絡を取り合っている中で、『安倍夏芽』という陰陽師が仲間にいるということを聞いていたのだが——

「ええ? じゃあ安倍夏芽さん、っていう陰陽師は…佐伯家とはどういう関係なんだろう?」

「親戚」

 麗子は、面倒くさそうにそう言い放った。

「佐伯家の血統と安倍家の血統は、歴史のところどころで交差しているんですの。つかず離れずで、いわば親戚みたいなものですわ。ったく、あの小生意気な夏芽が私のいとこだなんて、やってられませんわ」

 そういう麗子さんだってたいがいですけど! とクレアは思ったが、さすがにそれを口にしないだけの分別は持ち合わせていた。

 クレアは美奈子から、はっちゃけキャラの麗子とクールな夏芽のふたりはまったく気が合わず、仲が悪いと聞いている。そんな二人が、SSRIという組織で一緒に働かなくてはいけないという状況の中で、なぜやっていけているのだろう? と疑問に思った。

 ……そりゃあ、年齢の割に大人な美奈子ちゃんが、いい具合に潤滑油としての役割を果たしているからかな。それとも、やはりクールで大人な夏芽さんが、麗子さんの口撃(こうげき)を華麗にスルーしていて衝突しないから? などと、今の話題と関係ないことをあれこれ考えるクレアであった。



「……それでは、話を続けましょう。スサノオとの戦いには参戦できなかったご先祖様の子どもは、用がなくなったのでメギドへ帰れる、というわけにはいきませんでした。というのも、アマテラスとルシファーがともに下した決定は残酷なもので、ご先祖様の子どもを日本に一生住まわせ、その地で子をもうけて子孫を増やすことを命じたからです。

 血統を絶やさず子々孫々にシャドーの監視の遺志を継がせれば、いつどの時代に覚醒されても早めに対処できる。

 アマテラスは酷な使命を課す代償として、日本で暮らすご先祖様の子どもの子孫たちが、どの時代にも必ず誰か一人は「特殊能力者」として生まれる者がいるように、天界からの祝福を与えました。

 かくして、その子は日本の地に住む男性と結婚して子をもうけ、世代を重ねるごとに一族の人数を増やしていきました。その子どもから増え広がった一族の多くが日本で名乗った苗字が、『藤岡』だったと聞いています。

 つまりは、藤岡の一族はシャドーが目覚めてしまった場合の、地球の『切り札』というわけなのです」




 ~幕間の章その5へ続く~

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