幕間その2 陰陽師が天使を味方につけたこと

「誰ですか。人間なのに天界に呼びかけようとする者は……」



 覚悟を決めて異界への扉をくぐったはずだが、それでもあまりの苦しさに、心がくじけそうになる。

 人間界は、宇宙物理的常識の範囲で変化する世界だ。そこに適合する存在としての人間が、まったく別の世界である異世界に紛れ込めば、普段水の中に住んでいる魚が陸に打ち上げられるのと同じで、存在していること自体が苦しくなる。

 下手をすれば、私自身があとかたもなく消滅する危険すらある。



 でも、私はやらなければならない。たとえ私自身が安全だとしても、住まうこの世界が外宇宙の敵や魔物の手によって滅びてしまったら、何のための命だろうか。多少生き長らえたところで、どれほどの意味があろうか?

「私だ。己の分限をわきまえず、本来干渉し合うべきでない異世界に干渉している非礼はお詫びする。しかし言わせてもらうが、今私の住まう人間界だけでなく、そちらや他の異界も巻き込みかねない『危機』が訪れていることは、承知か?」



 私に呼び掛けた声の主の姿は見えないが、何やら私の言葉に対して思案しているかのような間が空いてから、返答があった。

「もちろん、承知しています」

 先祖からの伝承では、天界の住人は意思疎通に「言語」というものを用いないらしいと聞いている。だから聞こえてくるこの言葉は、天界の者が私たちに合わせたコミュニケーションをしてくれている、ということだろう。



 天界とは、その言葉から連想されるように「心清らかで善であり愛である存在」の住まう美しい世界ではない。確かに「善」は志向するが、自分たちが優れていることを自負し、同時に他の世界に対しては「見下す」傾向にある。

 そういう存在が、無視せずに私に語りかけてきた。しかも、意思疎通の方法までこちらに合わせてくれる、という最大の譲歩付きで。

 ……ということは、天界側でも今回の「神殺し」の術が人間界で使われたことに、相当の危機感を持っている、とも考えられる。



「普通の人間なら、この天界に呼び掛けるなど、まして出向いてくるなど不可能。なぜそんな真似が可能か不思議に思いましたが……謎が解けました。あなたは、安倍晴明のゆかりの者ですね。違いますか?」

「いかにも。晴明様は私の先祖——」

「……でしょうね。あの方も、やはり今のあなたのように、複数の異世界を巻き込むような危険を知らせにいらっしゃいました」

 それはどんな事件だったのだろう? 先祖から伝わる伝承の中に、その記録はなかった。

「よければ、そのことについてこちらの情報を与えましょう。そうでした、人間の生身の体でこの次元世界の空間は辛いはず。今、それを軽くして差し上げましょう」

 これは何とも、気の利くことだ。私が晴明様の子孫だと分かってから、露骨なほどに待遇が良くなった。気に入らないが、このことを利用しない手はない。

 明らかに呼吸が楽になって、心臓の過剰なバクバクも収まった。だが、それで喜んではいられない。

「もちろん、情報もいただくが、こちらの大事な用も済ませねばならぬ。葉隠月葉、という外宇宙から来た神を救いたいのだ。彼女は、脅威に対する数少ない味方。何とか生かしたい」



 しばらく、天界の者からの返事が途切れた。

「……で? 我々があなたがた人間界の危機を救ったところで、こちらに一体何のメリットがあると言うのです?」

 声のトーンが、先ほどの歓迎口調から一転して、不機嫌なものとなった。しかし、私は動揺しなかった。先方が明らかにこちらを「試そうとしている」ことが分かったからだ。

 なぜなら、先の会話で相手は「天界をも巻き込む可能性がある危機」について認めている。だから、協力し合うことで互いに「利」があることは明らかなのだが、それでも向こうが不機嫌をよそおって何の得があるのか? と聞いてくるということは……むこうはこちらを『値踏み』しているのだ。

 私が、天界が手を貸して「恥にならない」ほどの器なのかどうか。かつて天界が認めたほどの人物、安倍晴明ほどの価値が私にあるのか。分の悪い賭けにはなるが、私は下手に出るのをやめて、むしろ相手を挑発してみる冒険に出た。



「普段お高くとまっている天界の者たちにも、恐れるものがあるだろう?」

「何を馬鹿なことを。我らには、恐れるに足る者など——」

「シャドー」

 その名前をこちらが出した途端、相手の言葉が少しの間途切れた。

「……その名を知っているとは。分かりました、以後はこちらも体面など気にせず、あなたを対等な立場として、正直なところをお話しすることにしましょう」

 賭けは、こちらの勝ちと出たようだ。

 その後、安倍晴明様とシャドーに関して情報をもらったが、だいたい次のような話であった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 天照大御神(以下、アマテラスと省略)が、イザナギ・イザナミと共にこの地球を創造した時、外宇宙から来た怪物が、地球の片隅に陣取り、勝手に棲みついた。

 それこそが、神話に『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』として記録されている最悪の魔獣であり、その正体はさらに意外なものであった。クレアとリリス、という今地球にいる外宇宙の星の王女たちがいた星系で、遥か昔にその世界を滅ぼそうとした『黒死王』だというのだ。



 その黒死王は、闇の力を借りてまでその世界の善側の神である『光の精霊』を倒そうとして成功はしたものの、刺し違えのようになり自らも死んだ。ただ、力を貸した「闇」の側はそれで納得せず、黒死王をただでは死なせず都合の良い「傀儡」として利用しようとした。

 そうして、闇の勢力によって精神を支配され、姿かたちまで変えられてしまったものが、ヤマタノオロチというわけである。



 地球を創造した際、神々が世界をふたつに分け、それぞれの重要拠点を決めた。

 一方がアマテラスを筆頭とする東洋世界で、日本という島国を拠点とした。もう一方はルシファーという神を筆頭とする西洋世界で、現在の中東の『メギド』という場所を拠点とした。

 ちなみに、純粋に天界出身の神はイザナギ・イザナミ・アマテラスとルシファーのみで、その後大量に生まれる神は、すべて人間界で誕生しその世界のみしか知らない「地神」たちである。

 私たちの住む世界では、ルシファーという名は神ではなく、神に仕える『天使』として知られている。後に神に反逆し、もとは天使だったがサタン、つまり悪魔となったと伝えられている。ならば、地球に流布しているこの神話は誤りなのか?



 須佐之男命(以下、スサノオと略)はアマテラスの弟に当たるが、力は強かったが自分勝手で、精神年齢はまるで子供だった。イザナギ一家が自らの拠点である日本を創造していた最中、スサノオだけは手伝わず、酒を喰らいながらブラブラしていたということである。その散歩の最中に偶然出会ったのが、外宇宙から誕生間もない地球に流れ着いた元黒死王・ヤマタノオロチであった。

 スサノオは確かに強かった。しかし、もとはひとつの宇宙を支配しかけ、その世界の神を殺したほどのヤマタノオロチの敵ではなかった。スサノオはこてんぱんに負け、死にはしなかったものの、千数百年にわたって活動不能状態に陥った。

 ちなみに、スサノオはアマテラスの弟に当たるが、天界出身ではなく人間界にて誕生した最初の神様である。



 そして、好戦的な上に「根に持つ」タイプのスサノオが、永い眠りから目覚めて最初にしようとしたことは、言うまでもなく「ヤマタノオロチへのリベンジ戦」であった。ただ、そこには大きな問題があった。

 スサノオが眠っていた千年以上の間、ヤマタノオロチとてただボーッとしていたわけではない。その間にも着実に力をつけ、さらに強大な存在となって、当時の人間界を脅かしていた。当時の日本において、平安京という都が陰陽道に則って魔をうまく封じる構造になっていたのも、そのヤマタノオロチ対策のためだと伝え聞いている。

 平安時代のヤマタノオロチは、スサノオが最初に戦ったときのような怪獣の姿ではなく、どのような姿にでもなることができるほどに進化していたため、非常にたちが悪かった。動物や人間の姿にも化けることができ、一度などは美しい貴族の女に姿を変え時の帝の宴の席に呼ばれることに成功し、近づいた際に帝を殺害している。

 単細胞のスサノオがまずぶちあたった壁は、ヤマタノオロチの居場所がそもそもつかめない、ということであった。先に述べたように、もはやいかにも怪獣です、という目立つ姿をしていないため、探すことは困難を極めた。

 このことで家族に協力を求めようにも、その時点でイザナミとイザナギは地球創生を終えたのち天界に帰っており、唯一人間界にとどまっている姉のアマテラスには愛想を尽かされ、会おうとしても無視されている状況だった。



 仕方なく、スサノオは人間界で特別な力を持った存在である「陰陽師」に目を付けた。それこそが、安倍晴明様であり、彼ならヤマタノオロチの居場所をつかめると思い、頼ろうとした。

 晴明様のほうでも、平安京を統べる帝から、妖怪や悪霊などの魑魅魍魎から都を守る密命を受けており、特に知性が高く、抜け目なく悪事を重ねるヤマタノオロチは、晴明様にとっても頭痛のタネであった。双方の利害が一致し、晴明様とスサノオはタッグでいにしえの怪物に挑むこととなった。

 結果から言えば、晴明様とスサノオは勝てなかった。

 スサノオは敗走、そののち行方知れずとなった。晴明様も同様に表向きには行方不明、しかし人々の間ではその戦いで命を落とした、と噂された。

 私が聞いている安倍家の伝承によれば、晴明様は命は助かったものの陰陽師としての力は失ってしまった。しかし一度戦いを挑んだ経験を活かし、ヤマタノオロチ対策について後世に伝えようと書物を書き残すことに余生を費やしたらしい。

 しかし、残念なことにその書物は現存していない。これから述べる、スサノオと佐伯栖瀬里守(江戸時代に生きた私のご先祖で、陰陽師)がヤマタノオロチに挑んだ二度目の戦いの後、ある事情から焼き払われてしまうのだ。



 どの神々もその行方を知らなったスサノオが姿を現したのは、江戸時代中期の日本だった。場所は出雲の国(現在の島根県)、そこに、ヤマタノオロチもいた。

 それまで誰にも知られず修行でもしていたのかは知らないが、スサノオはすさまじく強くなっていた。もうスサノオはただの筋肉バカではなくさすがに成長もしていて、自らの強さを過信して単騎で挑もうとはせず、当時先祖である晴明様の敵討ちのために立ち上がった佐伯栖瀬里守と協力して、敵を殲滅せんとした。

 勝つには勝った……のだが、ヤマタノオロチの息の根を完全に止める、というところまではいかなかった。スサノオがかつてそうされたように、相手を一定期間の活動不能状態に追い込んだだけとなった。



 スサノオの場合は千年と少しだったゆえ、江戸時代に封じられたヤマタノオロチが再び目覚めるとしても、もっと先のことになるはずだった。しかし、天界の話によればつい最近、ヤマタノオロチらしき存在が、活動を開始したらしい形跡が認められたというのだ。

「なぜ、オロチはそんなに早くに復活することができたのか……」

「おそらく、別の宇宙から来た者の協力があったものと思われます」

 天界の者は、私が思わず口にした疑問に対して、即座に返答してくれた。きっと、クレア・リリス姉妹の事件に絡んでいる「敵」の誰かの仕業だろう。

「そして、あなたもご存知の通り、今はヤマタノオロチ、という名ではなく——」

「シャドー」

 私も、間髪を入れずそう口を挟んだ。

「そう。その名はあなたたちにとってだけでなく、正直なところこちら天界でも少々やっかいの種となりつつあるのです」

 プライドの塊りとも言える天界の者が、弱みを正直に話すとは、これは相当の事態だと見てよい。助力を頼みたいこちらとしては有利な展開だが、それだけその先に待ち受ける戦いがとんでもないほど熾烈なものになる、ということは覚悟せねばならない。



「ヤマタノオロチの復活に合わせるように、我が弟のスサノオもまた、活動を始めたようなのです。今の地球でこの二者が戦いでもしたら……戦場となった場所は数百年は復興すらままならない状態になるでしょう。天界は基本的に地球がどうなろうが感知しませんが、私は創造した主の一人として、そこは心が痛みますから」

 ……ちょっと待て。この天界の者は、今何と言った?

「スサノオが弟? 地球を創造した? ということは、あんた——」

「申し遅れました。私は天界の三大首長の一人、アマテラスです」

 さすがの私も、びびったよ。人間の相手をするなど、天界の下っ端の使いかと思いきや、まさかトップが出てくるとは!

「安倍晴明の子孫であるあなたを見込んで、頼みがあります」

 天界のトップが、人間にごときに頼みごとをしなければできないことがあるとは、驚きだ。

「……何だ」

「わが弟スサノオを、助けてほしいのです。共に、三度目の正直で今度こそヤマタノオロチを退治していただきたいのです」

 晴明様、佐伯栖瀬里守、そしてこの私。

 仮に私が今回協力したら、皮肉なことに三度にわたるスサノオの戦いすべてに、陰陽師がかかわるということになる。

 もちろん、手を貸すと言えばいいのは分かっている。しかし、ヤマタノオロチ、すなわちシャドーが何者かを知る私としては、今回ばかりは慎重にならざるを得ない。



「……悪いが、ちと考えさせてはくれまいか」

 ここで手を貸すと言えば、私は天界対シャドーという、人智を超えた戦いに身を投じることとなり、人としての生活をしばし犠牲にせねばなるまい。私はそれでも構わないが、どうしても美奈子や月葉たちの顔が目に浮かぶ。

 異星人の襲撃問題もあるというのに、私がこちらにかかりきりになれば、彼女たちをサポートできなくなる。

 普段は感情などというものには判断を惑わされぬ私だが、こと美奈子のことに関しては、どうしても判断が甘くなる。

「もちろん、この件に関してイエスと即答できる者など、この天界にだっておりません。お察しいたします。しかし、我々も急いでいるのです」



 これまでは、アマテラスの声だけが響いてきて、姿は見せなかったのだが、ここにきて遠方から光に包まれた女性の姿がスーッとこちらに近づいてきた。アマテラスの姿は、子供向けの「古事記」の絵本の挿絵にあるような日本の神様の姿ではなく、どちらかというと仏教で言う「観音様」に似ていた。

「冷たいようですが、あなたがオロチ退治に協力できないと言うなら、こちらも助力はできません」

 さすがに、それは困る。慎重に事を運ぼうとするあまり、駆け引きを誤ったか?



「こちらとしても、ヤマタノオロチ退治に手を貸したいのはやまやまだ。しかし、そちらの内輪の問題だけでは済まされないのだぞ。今の地球の危機は、ヤマタノオロチだけじゃない。異星人という別の脅威もまた、この星を襲いつつある。そのどちらの脅威に対しても、同時に手を打たねば、片手落ちになる」

 そこをどう考えているのだ? と、逆にアマテラスを問い詰めた。無礼は百も承知だが、言うべきことは言っておかねばならぬ。あとで後悔するからな。

「物言いは多少気に入りませんが、おっしゃることは確かにその通りです」

 アマテラスは、意外にも譲歩してきた。

「分かりました。では条件を変えましょう。スサノオへの助力の件はとりあえず保留として、あなたには人間界のある人物をマークし、その様子を逐一報告していただきたいのです。命の危険があるようなら、守ってもいただきたいのです」」

 頼みごとの難易度が一気に下がった気がして、私はホッとした。しかし、天界がなぜ人間風情に興味をもつ? 逆に、アマテラスにマークしてくれと言わせるほどの人間とは、いったいどんな大物なのだろう?

「……彼女です」

 アマテラスは、その人物のこの瞬間の地球での様子を空中に映し出してくれた。ああ、彼女ならつい最近——



「分かった。その人物の様子を探り続けて報告し、危ない時は助けさえすれば、月葉を助けてくれるのだな?」

「ええ、助けはしますが……その月葉という神には、今後人間として生きてもらいます。つまり寿命があり、戦いようによっては途中で死ぬこともある、ということですが」

 私は悔しくて、ギュッと唇を噛んだ。アマテラスなら、その気になれば月葉を神のまま永らえさせることなど朝飯前のはず。確かに、最初の条件を呑まなかったのは私だが、それにしても……ケチ、というにもほどがある。

「月葉、という自分を強いと勘違いしているような神には、少々お灸を据える必要があります」

 アマテラスは、そう言って目を伏せた。

「永遠の命、を持ったままでは強くなれぬ部分もあるのです。彼女には今回、人として生きる中でそれを学んでもらいます。もし、この戦いを彼女が死なずに生き残ることができたなら、その時こそ彼女は今まで以上に強くなるでしょう」

 なるほど。死なぬ者には得られぬ「強さ」か……。確かに、これまでの月葉は分かっておらぬだろうな。限りある命だからこそ、死が恐ろしいからこそ得られる『強さ』というものを。

 そこが、死ぬ恐れのなかった「剣神」の、唯一の泣き所だろう。アマテラスは、そこまで考えた上で、あえて完全には助けず人間にする、ということか。

 これは、月葉に説明しても今は理解できないだろうな。しばらくは、「天界の者が冷たかったからこうなった」ということにしておこう。



「あえて聞くが、どうしてその人物が重要なのだ? 彼女に、お前たちにとって何か特別なところでもあるのか?」

 答えてもらえないことを承知で、そう聞いてみた。彼女は、何ということもない普通の人間で、今回のグリフォン戦においても、ただ巻き込まれて少々関わり合いになった、というに過ぎず、特別に何かの能力のある者だとは思えない。

「それは、今の時点では申し上げられません。でも、時が来ればそのわけを嫌でも知ることになるでしょう。それより、今後のあなたの戦いが熾烈になることが予想されますから、こちらから戦力をお貸ししましょう——」

 アマテラスのその言葉が終わらないうちに、遠くから大きな鳥がこちらに飛翔してきた。それがこちらにかなり接近してきた時点で、それは鳥ではなく、翼の生えた人のようなものだと分かった。私も鳥人間のような式神を使役するが、これは明らかにそれとは違う。

 姿形からして、『天使』と言われる存在だろう。



「晴明の子孫よ。この子を連れて人間界にお戻りなさい。きっと、あなたの役に立ってくれるはずです」

 アマテラスに紹介された天使は、金髪で目の青い、いかにも西洋人というような顔をした若い女性だった。不思議なかわいらしさがあり、年齢は地球人で言う二十代にも見えるし、背の低さもあり十四・五歳だと言っても通用するかもしれない童顔でもあった。

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」

 ……どこかで聞いたようなセリフだが?

 私は、ガックリと脱力した。これまで、地球の命運を左右するレベルのことを話し合って気が張っていたというのに、この能天気キャラの乱入で、すっかり緊張の糸が切れてしまった。

「これ、フレイア! まったくあなたっていう子は……もう少し上品に振舞えないのですか?」

「エヘッ」

 アマテラスにたしなめられて、ペロッと舌をだした。目が笑っているので、心から反省などしていないことは明らかだ。

「……私、天軍第64師団のアークエンジェル見習い、フレイアと言いますぅ! 今後ともよろしくですぅ」

 フレイアとかいう天使は、私の手を握って見境なくガクンガクンと上下に振るものだから、つられて私の頭も揺さぶられて、首の筋が痛くなった。

「あわわ、あわわ……」

 ちょっと、やめてくれない? と言いたかったのだが、頭が揺れたことで舌を噛みそうになり、間抜けな音声しか出せなかった。

「あら、どうされたんですか? もしかしてゲンゴショーガイ、ですカ?」

 ……お前のせいじゃ。このバカ天使め。

「まぁまぁ、さっそく打ち解けたみたいですね……では、私はこれで」

 アマテラスは、フレイアというお荷物をこちらに押し付けることができて、ホッとしているようにも見えた。

 そしてもう用は済んだとばかりに、その姿は消えてしまった。




 気が付いてみたら、私は見慣れた近所の公園に立っていた。

 先ほどまでの出来事が、あまりにも現実感のないものだったので、もしかして全部夢だったか?なんて思った。しかし、ふと辺りを見回すと、これまでのことが全部夢などではなかった、と思い知らされるあるモノが近くにいた。

 あの、能天気な天使フレイアが、にっこりと満面の笑みをたたえてブランコなどこいでいたのだ!

「ご主人様~これからどうなさいますぅ?」

 …誰がご主人様じゃ、誰が。




 それよりも、その背中から生えてる派手な羽根をしまえないもんかね?

 目立ちすぎてしょうがない。




 ~幕間の章その3へ続く~

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