episode 3 リリス

 お姉ちゃんは、悪くない——



 私の口癖くちぐせは、それだった。

 口癖と言っても、実際に口にする「口癖」ではなく、口に出すことはあり得ないけど、自分のために、自分自身に向けてそっとささやく言葉。

 心の口癖、思考の口癖と言っていいんだろうか。



 双子らしいので、クレアとの間に年齢差はない。でも捨て子だったので、「どっちが先にお母さんのお腹から出てきたから、そっちがお姉さん」だとか言ってくれる親はいない。

 だから、どちらが姉とか妹とかどうやって決まったかというと、まずは性格。クレアは明るく社交的で、リーダーシップも発揮できる。私はというと、消極的で臆病で、外で友達と遊ぶより家の中で本を読むほうが性に合っている。

 いや、もしかしたら「友達ができないから」、その状況に順応するために、本好きになったのかもしれない。そう考えると、ちょっと自分がキライになる。

 性格に加え、クレアは健康そのもので、運動神経も抜群。私は多少ぜんそくの気があって、一時期はこじらせて大変だったけど、今では少々落ち着いている。とはいえ、この年代のフツーの女の子の基準からいうと、健康面では恵まれていない。

 性格面でも健康面でも、クレアは私より恵まれている。そりゃ、向こうが「姉」にもなる。物心ついた時には、自然と姉妹の役割区別は決定していた。私たち二人に初めて会う人は誰でも、クレアが姉で私が妹だとイメージするはずだ。



 いつだって私は、心配される側。

 いつだって姉は、私を気遣う側。

 もちろん、有り難いんだということは頭では分かってるよ。

 クレアのことは、本当のところでは大好きなんだと思うんだ。この世で、たった一人の「身内」なんだもの。田中夫妻も優しいけど、血のつながった家族はクレアただ一人。

 でも、姉に気遣われるたびに、そこに素直になりきれない私を発見する。

 で、「ありがとう」の一言が言えなかったり、ムシの居所の悪い時には邪険に追い払ったりもしてしまう。そういう時、姉の慰めよりも一人になれることのほうがありがたかった。



 姉も、そんな私を最近では持て余し気味になり、あまり近づいてこなくなった。

 小学校高学年くらいまでは、病弱で友達もいない私を気遣って、あえてそばにいてくれた。社交的で人気者の姉は、遊ぶ友達に事欠かないはずなのに、それでもそっちを断ってくるのか、しょっちゅう家で私と遊んでくれた。

 本当は、ありがたいことなのだ。これは自分では悪かったと思っているんだけど、当時そうやって優しくされることでかえって卑屈になってしまい、私はあえて楽しくなさそうにふるまってしまった。

 アンタが構ってくるから、仕方なく相手してるんだ。私は別に一人でも平気なのに、余計なことを……。そんな感じが伝わるような『塩対応』(最近テレビで知った言い方)をしてしまった。

 ホント、自己嫌悪。

 それを、高校生になった今でも大人気なく続けているわけで、ダメだと分かっていつつも、こればっかりはどうにもならない。

 私たち双子の心が、再び通い合うことはあるのだろうか。まだ16年程度しか生きてないのに大げさだと言われるだろうけど、それを考えてしまう。





 ~episode 4へ続く~

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