第35話
家族全員での話を終えて、尊と美朝は彼の部屋に戻った。
二人共、両親にもみくちゃにされて疲れ果てていた。
「つ、疲れたね」
「仕方ないですよ。お兄様の初めてですから、喜びはすさまじくなっても仕方ないです」
二人はソファに、深く寄りかかって並んで座る。
そして、深くて大きなため息を吐いた。
「ありがとうね。美朝が僕に向けられた注意をそらしてくれたおかげで、まだ楽に出来たと思う」
「そんなことしていませんよ。お兄様の考えすぎです」
「それなら、お礼を言うのをやめておくよ。あーあー、話すぎて喉が痛くなりそう」
両親との話は、あれから数時間にも及んでいた。
ほとんど尊と美朝が話をしていたので、喉がガラガラになった。
そこを抑えながら、尊は顔をしかめる。
「どうぞ。前に調合していたものですが、よく効きますよ」
「ありがとう」
それを見て美朝は、ポケットの中から小さな缶を取り出して渡す。
その中には、ミントグリーン色の飴玉が入っていた。
彼は一つ取り出して口に含む。
「ん、美味しい。それに喉も随分と楽になってきた」
「効果はありますけど、食べすぎは良くないですからね。それはあげますけど、食べるのは一日一個にしてください」
「ありがとう」
口の中でコロコロと飴玉を転がしながら、彼は目を細めた。
舐めていく内に、喉がどんどん楽になっていくのを感じている。
彼女も、渡す前にとっておいた一つをなめる。
薬草の香りが鼻を抜けて、上手く作ることが出来たと口角を上げた。
「……そういえば、お兄様は獲物を上手く消せたんですよね。羨ましいです」
「どうしたの? 急に」
無言で飴を撫で続けていたのだが、なくなりかけた頃に美朝が口を開く。
「いえ、大した話では無いのですが。いつか私にも、そういった人が現れるかと思ってしまったら。上手く消すことが出来るのか、不安になってきたので」
彼女は何てことないように言う。
無言の空間の中で、何か会話の種を探した結果だった。
「何を言っているの、美朝。そんなこと許すわけがないだろ」
「お、お兄様?」
しかしその何気ない会話は、尊にとっては地雷だと彼女は知らなかった。
彼は彼女の肩を掴んで、勢いよく自分の方に顔を向けさせた。
そして少し前みたいに、顔と顔を近づける。
彼女はあまりの近さに後ろに体をそらそうとしたが、掴まれた肩が痛くて出来なかった。
「美朝が獲物を選んで、その人に関心を向けるってことでしょ。僕の時みたいに、しばらく関わらないようにするなんて。そんなの耐えられるわけがない。絶対に無理。だから許さない」
「お兄様……自分のことは棚に上げて……いっそ清々しいですね」
彼女の言う通り、彼の言っていることはわがままな子供のように、自分しか考えていないものだ。
自分は仕方ないけど、彼女が離れようとするのは許せない。
彼の要求をまとめると、こういうわけだ。
彼女が呆れるのも、当たり前の反応だった。
「分かっているよ。僕がわがままだってことは。それでも我慢できない。美朝は僕のものなんだ。産まれた時から大事に大事にして、ここまで来たんだから。他の誰かに、髪の毛一本でも渡したくはない」
「そうですか。お兄様の意見は、よく分かりました。分かりましたけど……」
「痛っ! 何するんだ、美朝!」
「黙って言うこと聞くと思ったら、大間違いですよ」
息継ぎの暇がないほど言葉を重ねていって、闇墜ちをしかけている尊を彼女は頭突きをもってして止めた。
強烈な痛みに、尊は涙目になりながら額を抑えて離れる。
しかしそのおかげで、瞳から消えていたハイライトが戻った。
「仮定の話をしただけなのに、どうしてお兄様はそうなるんですか。未来のことなんて、まだ分からないでしょう。これから先、私にそういう相手が見つからない可能性もあります。それか見つかった時に、お兄様は私に興味を持っていないかもしれません。その時にならないと、何が起こるかなんて分からないでしょう」
「僕が美朝に飽きることなんて絶対に無い」
「あくまでも仮定の話ですから、そう怖い顔をしないでください。お兄様は普段は冷静なのに、どうしてたまに思考回路が幼稚園生レベルに落ちる時があるんですか」
「美朝が意地悪を言うから! 僕のことを良く知っているはずなのに、どうしてそんなに意地悪ばっかり言うの?」
「お兄様は、からかい甲斐がありますから。つい」
彼女が頭突きをしたおかげで、二人の会話は微笑ましいものになる。
美朝が冷静に話をして、尊が感情的に返す。
それを彼女が冷静に分析して、また返す。
内容には可愛らし気が無いが、二人の表情、そして周りをまとう空気は穏やかだった。
それから二人は夜が更けても、話を続けた。
たくさんの時間はあったが、話題は尽きなかった。
そうして同じタイミングで寝落ちをするまで、会話が途切れず続いた。
ソファで眠ってしまった二人の姿を、様子を伺いに来た美夜が見つけた。
久しぶりに見た仲のいい様子を微笑ましく思いつつ、帝手伝ってもらいそれぞれのベッドに運んだ。
一緒に並べても良かったのだが、さすがに年齢も年齢なのでやめておいた。
次の日の朝、それぞれ目を覚ました二人は隣に誰もいないことにすぐに気が付いた。
隣に温もりが無いことに寂しさを感じたのは、どちらだったのか。
案外、いつもは素直になれない方だったのかもしれない。
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