第24話



 クラスメイトの女子からの評価がさらに下がった美朝なのだが、彼女が何も行動していないわけではなかった。


 彼女がさっさと家に帰ったあと、すぐに尊と姫華のクラスもホームルームが終わって昇降口にいた。

 靴を取り出すために下駄箱を開けた姫華は、靴の上に何かが乗っているのに気がつく。

 それは折りたたまれた紙だった。


「あはは。子供かよ」


 不審に思いながらも手に取り中身を読むと、馬鹿にした顔で笑う。


『周りをよく見て行動しろ。下手に刺激をするな。後悔する』


 紙には綺麗な字で、そう書かれていた。

 差出人の名前はなかったが、そこは彼女にとって問題ではなかった。


「刺激しまくるに決まっているでしょ。目立たないなんて嫌。私はいつも一番じゃなきゃ」


 小さな声で呟き、手紙を丁寧に畳みカバンの中にしまうと、先に靴を履いていた尊の元へと駆け出した。


「ごめん、お待たせっ!」


「全然待ってないから、そこまで急がなくても大丈夫だよ。慌てて転んだ時の方が、大変だからね」


 待っていた尊は、駆け寄ってくる彼女に転ばないように注意をする。

 その細かな気遣いに、彼女の心はときめいた。

 顔が一番好きだが、性格の方も好きになってきている。


 自分のための道具に見ていたはずなのに、尊自身にも好意を抱き始めているのだから、彼の魅力はどんな人にでも効くという証拠だ。


「そういえば靴を履くのに時間がかかっていたけど、何かあった?」


 手紙を読んでいたせいで思ったよりも時間がかかっていたようで、少し気になっていた尊が尋ねる。

 姫華は自然とカバンの方に手が伸びそうになったけど、もう片方の手で止めた。


「ううん、何にもないよ。ちょっと忘れ物をしていないか、確認していただけだから心配しないで」


 そして手紙のことは、彼には伝えなかった。

 別に、心配させたくなかったからではない。

 まだ出すべきではないと、考えたからだ。


 ここでよりも、きっといいタイミングがこの先あるはず。

 そういうわけで、姫華は気づかれないように手紙をさらに奥にしまった。


「そう? それならいいけど。帰ろうか」


「帰ろう帰ろう!」


 彼女は楽しそうに笑う。

 何が起こったとしても、彼女がピンチにはならないはず。

 その自信が、さらに彼女を強くしていた。


 もちろん、手紙を入れた犯人は美朝である。

 素直に言うことを聞くとは思っていないが、一応の警告として隙を見て入れた。

 彼女の思惑がどのようなものかは、本人にしか分からない。

 しかしおそらく、良い方向には向かっていないはずだ。


「尊君! 今日、時間があるなら街の案内もして欲しいな!」


「街の案内? いいよ。今日は特に用事がないから」


 彼女は周りに聞こえるぐらいの声量で、爆弾を投下した。

 そこからの阿鼻叫喚は、彼女の気分をさらに高まらせるものとなった。


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