第23話
大体このぐらいの時間に、ようやく美朝は家を出る。
学校に向かっている途中で、すれ違う生徒に普段とは違った種類の視線を向けられて、少し戸惑っていた。
「私、何かしたかしら?」
悪意というよりも、多少の怒り。
一人で学校に行っているのに、向けられている意味が彼女には理解できなかった。
正確には何かをしたのではなく、何もしていないからだとは夢にも思っていない。
答えが分からず微妙な気分のまま、学校についた美朝はクラスメイトが妙に騒いでいるのに気がつく。
うるさい女子はさらにうるさく、あまり声を荒らげない女子でさえも、興奮気味に叫んでいた。
騒ぎの中心が女子なので、美朝は深くため息を吐く。
「一体、何をやらかしたのやら。私がいなくなってから、一日も経っていないのに」
女子が騒ぐ原因は、この学校では一つしかない。
気まずい関係に現在なっているので、問い詰めたりしに行かないが、彼女の頭は痛くなっていた。
一日でここまでなってしまうのなら、これからそう時間が経たないうちに、周囲が爆発するだろう。
そうなった時に被害を受けるのは、彼女である可能性が高い。
女子をおさめるのに使う労力を考えると、無駄なことはあまりしたくない彼女にとっては良くない状況だった。
しかし関わらないと彼女から尊に提案してしまっていたので、苦言を呈することも出来ない。
「私が直接どうにかすることは出来ないわけね。そうだとしたら、お父様かお母様か……それとも……」
彼女が何もしないわけが無いので、どうしたら一番自分に被害がかからないか考える。
初めは両親に頼ろうとしたのだが、すぐにそれは違うと思った。
両親に頼るぐらいだったら、面倒なことをやる覚悟でいた。
そういうわけで、頼るという選択肢は無くなったのだが。
「何もしないのは、さすがにね。黙っていたらなめられるだけだから。ふふふ」
自分の席に座って笑う彼女を、クラスのみんなは遠巻きに眺めた。
しかし女子は姫華に対して何かをしてくれると、期待の眼差しを向けていた。
何かをするとは決めていたのだが、昼休みになっても彼女は動かなかった。
席に座って外を眺めて、ボーっとしているだけ。
一度教室から出たが、行き先は昇降口だった。
こんな風に特に何かを行動している気配が無いので、やきもきしているのは期待している女子達。
「何でボーっとしているの。さっさと尊様のために行動しなさいよ」
「そうよそうよ。あんたの役割は、そのぐらいしかないんだから。いつも変なことばかりしているなら、パパっとできるでしょ」
自分達は行動しないくせに、好き勝手に悪口を言いまくる。
その顔のあまりの醜さに、男子達は美朝の方が言動はおかしいけれどマシではないかと思った。
そんなわけで本人の知らないところで、色々な人の感情が変化し続けた一日が終わり、美朝は帰る準備を始める。
特に行動したようには見えないまま、彼女は帰ってしまった。
あとに残ったのは、期待するだけして肩透かしをくらった女子と気配を消していた男子だけ。
「やっぱり、魔女は魔女ね!」
怒りを込めた誰かの言葉に、みんなが同調した。
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