第17話



 昼休みの終わる時間ギリギリに、教室に戻ってきた二人は席に座る。

 そして尊は、ごそごそとカバンの中をあさり始めた。


 その様子を眺めていた姫華の前に、彼は何かを差し出す。


「何、これ?」


 彼の手に載っている、それを見た彼女は首を傾げた。

 差し出されたのは、銀色の金属で細工された何かだった。


 とても綺麗なのだが、同時に嫌なものが憑りついているような感じがする。

 だから戸惑って、彼女は受け取れずにいたのだが。


「これは、僕の家に代々伝わるお守りなんだ。持っているだけで良い、って言われている。今日、仲良くなった証に渡そうと思ったんだけど。……やっぱり、いらないか」


 彼女のリアクションを見て、眉を下げた彼はそれをしまおうとする。


「あっ、待って。ごめん。とても綺麗だから、見とれていたの。仲良くなった証、欲しい!」


 しかし慌てて彼女が手に取れば、パッと顔を輝かせた。


「大事に持っていてくれると嬉しいな。家に伝わっているものだから、肌身離さず大事にね」


 それを目線の高さにまで上げた彼女は、光にかざして笑う。


「本当に綺麗。……ありがとう、大事にするね」


 そして、実はこっそりつけていたネックレスを取り出して、ついていたチャームを外す。

 その代わりにもらったものを、チェーンに通した。


「……どうかな? チャームみたいだったから、ネックレスでつけられると思ったんだけど」


「うん。すごく似合っている。それなら失くすこともなさそうだし、いいと思うよ」


 通し終わったらネックレスをつけ直し、少し不安そうに感想を聞く。

 返ってきた答えが好意的なものだったので、ほっとした彼女は演技ではない笑顔を浮かべた。


「嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ」


 そんないい雰囲気を醸し出す姿も、当然周りに人がいるのだから見られている。

 しかし誰も、雰囲気をぶち壊すような行動に出ない。

 間に入るのはためらわれるとか、勇気がないとか、そういう理由ではない。


 今現在、目の前で起こっている事態を、現実として受け止められず、脳みそがパンクしているからだ。

 ある者は空を眺めながらブツブツと呟き、ある者は教室の壁に何度も頭を打ち付けている。

 大体の人がそんな行動をしていて、場はカオス状態だった。


 尊からプレゼントを渡された人なんて、今までに見たことが無い。

 それなのに、とても綺麗な銀細工のものを渡されている。


 そんなことが、現実にあっていいのか。

 誰もが信じられないまま、現実逃避を続けていた。

 先生が授業を始めるために、教室に来るまでずっと。


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