第15話
そうしてようやく昼休みを迎える頃には、女子は腕の中に顔を埋めて突っ伏していて、男子は何も見ないようにと目を閉じていたり居眠りをしたりしていて、顔を上げているのは尊と姫華だけだった。
そんな学級崩壊に近い状況の中で授業を行っていた先生は、次回も同じ内容をやろうと決めて深くため息を吐いた。
校長に言われたので注意せずにいたのだが、これが続くようであれば学力が低下することは間違いない。
次のテストは、悲惨な事態になってしまいそうだ。
それは安易に想像出来て、先生はこれから降りかかるであろう重圧に胃が痛くなった。
これは尊の妹がいるクラスの担任に、あとで胃薬をもらわなくては。
いつも胃をおさえていた姿を思い出し、絶対に持っているだろうと確信していた。
しかし実際は、美夜の手によって胃痛は改善されているので、現在は持っていないのだが知る由もないことだった。
色々な人間にダメージを与えた授業が終わり、回復できるかと思えば、そんな都合よくいくわけはない。
「み、尊君。一緒にお昼食べない? その方が案内するのに、楽だよね」
「ああ、そうだね。それじゃあ屋上行こうか」
「いいよ! ……この学校、屋上に行けるんだ。凄い。前の学校は駄目だったから、楽しみだな」
授業が終わったにもかかわらず、姫華と尊の距離の近さが変わらなかった。
腕を組みそうなぐらいで、はたから見ている人がハラハラしてしまうぐらいだ。
女子のメンタルは、もちろんゴリゴリと削られている。
しかし削られるだけではない。
授業が終わり、スマホを自由に使えるようになっていた。
だからトークアプリで、彼女が来てから授業が終わるまでの一部始終を事細かに説明した。
そうすれば、すぐにトークアプリは荒れて通知が鳴りやまなくなる。
それぐらい尊に関することは、みんなが興味を持っているのだ。
そしてそんな彼に近づいている姫華は、今日をもって全員の敵に回った。
二人で話しをしながらお弁当の用意をしている間にも、近くのクラスの女子が廊下に集まりだしていた。
尊をたぶらかそうとしているのは、一体どんな顔をしているのか。
それを確かめる人達は増えていき、教室の外はいつしか人であふれかえっていた。
「屋上の場所が分からないから、連れてってくれるかな」
「そうだね。それじゃあ、行こうか」
しかしその騒ぎに気付いていないのか、あえて無視しているのか。
用意を終えた二人は、人だかりについて何もリアクションをすることなく、人をかき分けて屋上へと向かった。
「今の季節なら、太陽がポカポカしていて気持ちいいだろうね。そんなところでご飯を食べたら、美味しいだろうな。今日は腕によりをかけておかずを作ったから、楽しみ!」
「僕も屋上では食べたことが無いから、楽しみだよ。確かに暖かくて、ご飯を食べたら眠くなりそうだ」
この仲良しな会話を聞いてしまった人は、ショックを受けてその場にしゃがみ込んだ。
その為、二人が歩いた後の道には大量のうずくまった人の姿が残されていた。
ここまでの出来事も、もちろんトークアプリで共有されて、姫華という人物の危険度が全員の中で更に高まった。
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