第4話
迎えた体育の時間。
いつも顔が青白く染まっている彼女は、先生の計らいから見学をさせられていた。
別に体育を受けたいわけでは無かったので、彼女は特に何も言わずいつも見学している。
いつものように彼女は、同級生達が楽しそうに動いているのを冷めた目で見つめた。
本当はこうして学校のために外に出ていることさえも面倒に思っているのだけど、学校には一応真面目に通うように言われているので、仕方なく我慢していた。
「……ね、ねえ。黒闇さん」
体育なんて生ぬるいことをしていないで、もっと本格的なものをしてくれるのならば参加するのに。
子供だましの様な時間が早く終わらないか、そう考えていた彼女の肩を、誰かが叩いて恐る恐る話しかけて来た。
「……何?」
それは、同じように見学していたクラスメイトだった。
見学は初めてだからか、勝手が分からず何故か近くに座っていた奇特な存在。
しかし話しかけても来ないから、完全に放置されていた。
そんな子が急に彼女ぐらい真っ青に顔を染めて、震えているくせに更に距離を詰めてくる。
「い、いつも、体育見学しているよね。退屈じゃない? やっぱり体を動かした方が、楽しいよね」
「退屈? そうね。今、ものすごく無駄な時間を過ごしている気分よ。もう少し面白いことをしてくれるのなら、喜んでやるけどね」
彼女は遠回しに皮肉を言ったが、相手には全く通じていなかったみたいだ。
間の抜けた顔をしているかと思ったら、話を理解していなかったようで別の会話をし始める。
「く、黒闇さん、知っている? この学校の敷地に、呪われた井戸があるって」
「……いえ、知らないわ。それは、どこにあるのかしら? あなたは知っているの?」
そして、その会話は彼女の興味を引いた。
だから彼女にしては珍しく、身を乗り出す。
その勢いに押されて、クラスメイトは後ろへと下がった。
「え、えっとえっと。あ、あのね、裏庭の木がたくさんある所の、奥の奥だって。み、みんなは行かないから知らないだけ。ま、迷い込んだ人は、そのまま生きて帰ってこられなくなるの。こここ怖いでしょ」
「ええ。とても興味があるわ。もしもそんなところが、本当にあるのだとしたらね」
彼女に話しかけるたびに、言葉を詰まらせるのは何なのか。
しかし、それに気を遣うほど彼女は優しくない。
体育の時間が終わるまでは、まだまだ時間があった。
井戸に行って帰ってきても、充分間に合うだろう。
そう逆算すると、彼女は詳しい場所を聞く。
そして、先生の注意が他の生徒に向いているのを確認して、気づかれないように静かに座っていた場所から移動し始めた。
どんどん小さくなっていく彼女の後ろ姿を見ていたクラスメイトは、大きく息を吐いてそっと視線を外す。
「わ、私は、ちゃんとやったわよ」
授業を受けていた生徒の一人とアイコンタクトをかわすと、ようやく肩の力を抜く。
彼女はじゃんけんで負けてしまったから、呼び出し係という大役を任されてしまい緊張していた。
演技は大根だったけど何とか目的の場所に誘導する事が出来たので、安堵する気持ちに包まれている。
「本当、気味の悪い人」
忌々しげに言った言葉は、空気に溶けて消えた。
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