第3話

 学校へと向かっていた二人だったのだが、時間が時間だったせいで何人かの生徒に見られてしまっていた。


「あ、尊さんと魔女だ。いくら家族とはいっても、何で一緒にいるのかな。尊さんが可哀想」


「本当だよね。あんな魔女みたいな真っ黒な衣装。気味が悪いわ」


 こそこそとしているみたいだが、声が大きすぎて聞こえている。


 それでも美朝は、特に気にしていなかった。

 わざわざ制服を改造して真っ黒にしているのは事実だし、むしろ魔女というあだ名で呼ばれることを喜んでいた。


 だから尊と距離を置きながらも、内心では笑い転げている。

 表には、一切出さないが。


「美朝のことを魔女というなんて」


 もちろん、話し声は尊の耳にも届いていて、彼はその綺麗な顔を歪める。


「馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、意外とセンスがあるんだね」


「全くだわ」


 美朝は彼の言葉に同意すると、そのままさっさと歩いていってしまった。

 尊は、彼女の後ろ姿を見ながら呟く。


「それでもまあ、美朝と僕を引きはがす気なのなら、対応を考えなきゃいけないけど」


 その顔は、とても歪んだ笑みを浮かべていた。

 ちょうど誰も見ていなかったことが幸いするほど、恐ろしいものだった。



 学校に着けば学年が違う為、教室も二人は別々だ。

 そして尊は周囲を人で囲まれ、美朝は教室の隅で一人本を読むという、正反対の学校生活を送っていた。


 それでも美朝がいじめられていないのは、彼女の不気味さと尊に嫌われたら困るという理由だけだった。


 授業中にもかかわらず教科書ではない本を読んでいる彼女は、いつも使っているノートを取り出しものすごい勢いで書き殴っていく。

 そこに書き出されていくのは、普通の人では到底理解できないような奇怪な文字の羅列。


 たまたま近くを通ってしまった生徒は、それを見てしまい恐怖から震えながら逃げ出した。

 ノートを真っ黒に埋め終えると、それを顔の高さに掲げて笑う。


「そうね。足りなかったのは、きっとこれだったのよ。帰ったら、すぐに試さなきゃ。……でも、待って。それなら、もう一つも試してみるべきかしら。そうだとしたら、また生き血をとりにいくのね。少し面倒だわ」


 完全なひとり言だったのだが、運悪く聞いてしまった生徒は涙目になって震えた。

 先生も気づいているのに、彼女の事が怖くて注意が出来なかった。


 それを一瞥した美朝は、すぐに興味が無くなってノートに視線をうつす。

 この一部始終を遠くで見ていた他の生徒は、眉間にしわをよせながら相談を始め出す。

 そして結論が出ると、悪い表情に変わって頷き合った。


 もちろん、それは美朝の目にも入っていたのだが、特に気にすることなくノートに書くのを止めずにいた。

 何かろくでもないことを考えていたとしても、自身には関係が無いと思って放置する方が楽だと考えたからだ。


 しかしそれは、相手を少し見くびっていたことになる。

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