第2話
黒闇家の食事は、一家全員でとるものだと決まっている。
だから四人が使うのには大きなテーブルを囲み、用意されている食事を最低限の会話をして食べる。
「美朝、今日も実験をしただろう。片付けが大変なのだから、ほどほどにしなさい。……とは言わない。ありったけのものを使って、好きなように実験すればいい。実験体が欲しければ、すぐに用意するから」
「ありがとうございます、お父様」
「そうね。実験をたくさんして、面白いものを作りなさい。良かったら、私のノートも見てもいいわ」
「ありがとうございます、お母様」
この屋敷の主である黒闇帝と、その妻である美夜は美朝の返事を聞いて意味深に目配せをして笑った。
それを脇で見ていた、長男の尊はげんなりとした顔をしつつ何も言わなかった。
そのまま静かに、和やかな感じで食事の時間は終わる。
全員の皿に何も残っていないのを確認すると、帝はスプーンでグラスを軽く二回叩いた。
軽やかな音がその場に響くと、静かな気配が部屋の中に入ってくる。
しかし地下室の時と同様に、その姿は見えない。
気配は軽やかにその場を動き回ると、ものすごいスピードでテーブルの上は片付けられていった。
「いつも、ありがとう」
そして何も無くなると、帝は何も無い様に見える空間に向かってお礼を言う。
次の瞬間、軽やかに動いていた気配が躓く音がした。
どうやらお礼の言葉に照れて、動きが乱れてしまったようだ。
恥ずかしがっているのか、部屋を出て行く時もいつもよりバタバタとしていた。
その可愛らしい一連の行動に、四人はくすくすと好意的に笑う。
「……あら、こんな事をしている場合ではないわ。あなた達、そろそろ学校に行く時間でしょ」
そうしている間にも、時間は過ぎている。
美夜が壁に欠けられている時計を見ると、二人の子供達に対して注意をする。
「ああ、本当だ。それじゃあ行こうか。美朝は、もう準備出来ているんだろ?」
「ええ、出来ているけど。……別に一緒に行かなくても、良いじゃないの? お兄様には、一緒に登下校する友達がいるでしょ」
「そんな冷たいこと言うなよ。友達とは学校で会えればいいから、一緒に行くのは構わないだろ」
兄弟の仲はいい方で、どちらかというと好きな割合は尊側が傾いているように見える。
美朝は面倒くさそうに溜息を吐いて椅子から立ち上がると、あらかじめ用意していたカバンを背負った。
「あまり学校の人がいる時間に行きたいから、さっさと行きましょう」
「あ、ああ。分かったよ。分かったから、置いていかないで!」
なんだかんだ言っても、仲良く部屋を出て行った二人。
それを、微笑まし気に見ていた帝と美夜。
「ふふふ。仲が良いのは、素晴らしいこと。……きっと、あれも喜んでくれるはずね」
「そうだな。それまでは、内緒にしておかなくてはね」
そして部屋に誰もいないのをいい事に、軽く口を合わせた。
夫婦になってから、もう何百年も経っているのに、いつまでも新婚のようにラブラブである。
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