第四十一話 暗器
「お前がそんなデカい事やらかすタマには見えねぇが、九尾と手を組んだんならそんくらいのことはやりたくなるよなぁ。分かるぜ、一か八かの賭けって気持ちいいもんなぁ」
「……あんたのおかげで大体の話の流れは分かったよ。最後にもう一つだけ聞きたいんだが、俺に懸賞金がかかってるってことはもちろん九尾の方にもかけられてるんだよな? 参考までにいくらくらいか教えてくれないか?」
知らぬ間に大きな罪を背負わされていたと知った大黒だったが、九尾という単語を聞き全てのことに合点がいった。
そして今後やるべきことと、その覚悟を決めるため、大黒は男に最後の確認をとる。
大黒の問いに男は、ナイフを親指の付け根に挟んで両手を開きこう言った。
「生き死に問わず報酬は十億。どんだけ危険でもやる価値がある仕事だ」
「そうかい、ありがとよ。おかげで、やる気が出てきた」
大黒は木刀を構え直し、目前の三人を叩き伏せるために体に霊力を纏わせる。
もはや逃げるという選択肢は無くなった。ハクに危害を加える可能性があるものは徹底的に排除する。
そんな大黒の気合が伝わって、針を持った女は大きくため息を付いた。
「はー……、あんた本っ当に余計なことしてくれたわね。どうすんのよ。前座のあいつには労力を割かないって話だったのに、これじゃあ長引きそうよ」
「いいじゃねぇか、何も知らないまま殺されるなんて可哀想すぎるだろ? それに勝負ってのは難易度が高いほうが楽しいもんだ。勝ちが決まってない方が勝った時に盛り上がれる、ギャンブルと一緒だ」
「知らないわよ、ギャンブル中毒の考えなんて。
「嫌」
「はぁ!? 何でよ!」
「さっきから二人でばっかり喋ってて私とは全然話してくれない。そんな人の命令なんて聞きたくない」
「あーもー! 相変わらず面倒ねあんたも! 何でこっちはこんな自分勝手な奴しかいないのよ! 私もあっちが良かったわ!」
女は頭を抱えてヒステリックに叫ぶ。
その隙に大黒は三人の元に護符を投げつけ、呪文を唱える。
「生成、可変結界。……圧縮」
三人を囲むことに成功した結界は、大黒の言葉を合図に収縮を始める。
そのままだと三人を一つの肉塊に出来ればベストだと大黒は考えていたが、誰よりも早く大黒という高額賞金首を討伐しに来た傭兵の実力は伊達ではなかった。
「……皆、起きてきて。仕事の時間」
黒い少女の袖から大量の式符がばら撒かれていく。
それらは大黒の結界が完全に縮み切る前に実体化し、結界をその場に押し止める。
大量の式紙を一度に実体化出来る技量も目を見張るものがあったが、何よりも異質だったのは実体化された式紙の姿かたちであった。
通常、陰陽師が使う式紙は小さく動かしやすい動物や昆虫の形で実体化されるか、イメージのしやすい本人自身の姿を取ることが多い。
だが、少女が実体化した式紙は年齢や性別に共通点のない一人一人別々の人間、さらには妖怪らしき姿をした式紙も何体か混ざっている。
ここまで非効率的で複雑な実体化をする意味が分からず、大黒の意識は一瞬式紙に対する考察に向けられた。
結界の収縮が弱まったその一瞬を少女は見逃さなかった。
「今、割れる」
「おっけぇい!」
少女が指示を出すと同時に男がナイフで結界を突いた。
男のナイフには結界を壊せるだけの十分な威力があり、結界は粉々に砕け散ってしまった。
そこから飛び出してきたのは、ずっと叫んでいた派手目な女。
距離を取る暇もないスピードで女は大黒に肉薄してきた。
(手に武器はない……! 何で攻撃してくる……!?)
最初に大黒を襲った時に持っていた針はすでに女の手には無く、だからといって徒手空拳で戦うタイプにも見えない相手。
そのため何が来てもいいように大黒は急所となる箇所だけは防御しようと木刀を縦に構える。
だがそれはこの相手に限っては逆効果となる行動だった。
「ふっ!」
「……! 鎖分銅!?」
女が手を払う仕草を見せた後、大黒の木刀には両端に鉄の重りがついた鎖が巻き付いていた。
女は大黒から武器を奪おうと鎖を引っ張り、大黒は奪われまいとその場でとどまる、綱引きのような様相を呈していた。
(こいつ……! こんなキャバ嬢みたいな見た目しといて暗器使いかよ……! くそっ! 面倒くせぇ!)
警戒する事が増え、大黒は内心で舌打ちをする。
そして状況を打破しようと考えを巡らせるが、アイデアが思い付く前に女の方が動き始めた。
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