第四十話 法律
(軽く煽って情報を引き出そうとしてたのに何なんだこいつら。隙を窺うまでもなく隙だらけだし、これも罠の一つなのかただの馬鹿なのか……。演技には見えないし後者の可能性の方が高そうだな)
大黒は服の内側から木刀と護符を取り出して臨戦態勢を取る。
その間も相手の二人は激しい言い争いをしていて大黒に注意が向く様子はなかった。
(抱えた感じあの黒いのも肉体派じゃなさそうだし、逃げることは簡単そうだ。問題は伏兵の存在とあいつらが俺を狙う理由、後は俺のことをどこまで知ってるか……。さっきあの女は『皆』って言ってた。つまり最低でも仲間は後二人以上はいると考えたほうがいい。そしてそいつらも多分近くにいる、はずだ)
大黒は自分に出来る範囲で感覚を研ぎ澄ませるが、目の前の三人以外に人の気配は全く感じられなかった。
だが自分の感知能力では隠形が上手い相手を捉える事は出来ないと分かっているため、それで警戒を解くことはしない。
(まあだとしても逃げるだけならきっと出来る。まさか全員が現地民ってわけじゃないだろうし地の利はこっちにある。けど逃げたところでどうするって感じだよなぁ。俺の行動範囲なんて限られてるし、ここで逃げても絶対にまたどこかで待ち伏せされる。そうなると説得か排除が望ましいけど……、十中八九こいつらは傭兵だ、墨縄や水盛にしちゃあ雰囲気が軽すぎるし。なら、まだ話が出来る余地もある。一度探りを入れてみるか)
自分の中で考えをまとめた大黒は、次の手を打つために相手に質問を投げかけることにした。
「なあ、一個聞きたいことがあるんだが」
「あぁ、なんだよ? ……ってお前いつの間にか武器持ってんじゃねぇか!」
「何よ! そっちもやる気ってわけね! いいわ、かかってきなさいよ!」
「………………」
「………………」
敵の武器の携帯にも気付いていなかった二人の緊張感のなさに、大黒とさらに黒い少女も呆れ返る。
黒い少女はその呆れを一切隠さず表情に出していたが、大黒は交渉のためにぐっと我慢して表情を引き締める。
「……これは自衛のために持ってるだけだからそんな構えないでくれ。こっちは訳も分からず殺されかけたんだ。これくらいの警戒はしてもいいだろ?」
「はんっ、なーにが訳も分からずだ。カップルに偽装してた俺らの奇襲もあしらっといてよぉ。自分が殺されるかもしれないって自覚がある証拠じゃねぇか」
「自覚、ね。まあ命を狙われる心当たりは幾つかあるけどな。その答え合わせをしたいから依頼人の名前でも教えてくれないか? 多分だけどあんたら傭兵だろ?」
「……ああ、そういやお前協会からは抜けてるんだっけな。いいぜ、冥土の土産に教えてやる」
「ちょっと」
針を持った女が男を諌めようとするが、それで男の口が止まることはなかった。
そして、男の口から出てきたのは大黒の予想の斜め上をいく答えだった。
「大黒真。お前の首には協会から懸賞金がかけられてんだよ。生きて捕らえりゃ三億円、殺しちまったとしても殺した証拠を協会に渡せば二億円。大妖怪を相手でも見ない金額だ、傭兵としちゃあ見逃せない事態だろ?」
「…………は?」
大黒の反応を見て男はナイフを振り回しながらニタニタとした笑いを浮かべる。
「ははっ、そりゃあ驚くよなぁ? 俺だって自分の首にそんな値段がかけられたら死ぬほど驚く。……ま、てなわけで俺達に依頼人なんていねぇ。協会からも依頼されたわけじゃねぇしな。お前の扱いは賞金首と一緒だ。誰が殺すか早いもの勝ち、情報が
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺も色々やらかしてきたかもしれないけど、そんな陰陽師全体で追い詰めてくるような真似される覚えはないぞ。」
「覚えがないわけはねぇだろ。表のけーほーでは内乱予備罪だかに当てはまるって話だぜ?」
「はぁ!?」
陰陽師協会は一般的に定められている法とは別に、協会独自の法を陰陽師という職に就いている者に対して定めている。
似たような罪状が刑法にあったとしても、協会においては罰の重さがまるで違ったりすることもしばしばある。
男が言った内乱予備罪に対しての刑罰は本来なら一年以上十年以下の禁錮となるが、陰陽師協会という特殊な環境ではさらに罪の重さが増す。
そして内乱予備罪とは文字通り、国家に対する反逆を準備していた者に適用される法である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます