第十九話 殲滅

「その半妖はまず、半妖達と契約している陰陽師を皆殺しにした。そして半妖達に二つの道を提示したんだ。一つはこのまま陰陽師から離れて自由に生きていく道、もう一つは全ての陰陽師に復讐をする道」

「結果、半妖達が選んだのは復讐というわけですか」

「ああ。しかも大多数が復讐を選んだっていう訳じゃなく、一人残らず全員が復讐の道を選んだ。それから始まったのが陰陽師と半妖の全面戦争、それがいわゆる陰りの日だ。戦争には当時の主力な陰陽師が多数参加し、その内八割の陰陽師が戦死した」


 大黒は空中に指で8の文字を描く。


「ほぼ殲滅の域ですね……。いくら半妖の数が増えたといっても、陰陽師の半分もいなかったはずですよね? 半妖なんてそう簡単に産まれるものでもありませんし」

「もちろん。俺も教科書レベルでしかそのことを知らないからなんとも言えないけど、多分半妖の数は五十もなかったんじゃないかと思う。逆に今の衰退具合を見るに、陰陽師の方は五百人くらいで戦いを挑んだんだろうな」

「大体十倍くらいの差があったんですね……。それで、陰陽師は半妖を滅しきることが出来たんですか?」

「いや、三体だけ逃がしてしまったらしい。半妖も陰陽師も全員が満身創痍だったみたいでな、お互いに一旦態勢を立て直す必要があったんだろうよ。それから陰陽師の間では半妖の話がタブーとなった。それまでに妖怪と婚姻関係にあった者は一人残らず殺されて、妖怪と恋仲になりかけている男女がいれば厳しい罰が与えられた。……陰陽師はさ、自分達の行いに問題があったんじゃなくて半妖という種族に問題があったからこそ陰りの日が起こったって考えたんだ。だからそれ以降、半妖が産まれないように徹底して今に至るってわけだ」

「……貴方の妹が最初に私を見た時にあれほど過剰に反応したのはその辺りが原因ですか。まあ、あの性格なら貴方に近づく女には全てあのような対応をしていたかもしれませんが」

「おいおい、人の妹を地雷みたいに言わないでくれ。あの時はきっと九尾っていう伝説の存在を目の当たりにして緊張がマックスになっただけだと思うしさ」

「貴方は本っ当に妹に対して盲目的ですね。妹でそれなら娘が出来た時はどこまでも娘を溺愛する駄目な父親になりそうです」


 ハクにジト目で睨まれた大黒は照れくさそうに笑うだけで特に否定をすることもなかった。

 そんな大黒を見たハクは大きくため息をついて、藤の日記のページを捲る。


「とりあえず、戦争が起こるかもしれないくらいに陰陽師界隈が逼迫していることは分かりました。この記述があってから半年経った今でも状況に変化がなさそうなことを考えるとただの噂なのかもしれませんが……」

「その可能性は低いだろうなぁ……、誰もが触れたがらない半妖の噂が出回るってこと自体が既に異常事態だし、それで実際は何もないなんてことはほぼあり得ない。……だから改めて聞きたいんだけど、ハクが転生してから俺と会うまでの間に半妖と話したこととかも本当になかった?」

「うーん……」


 ハクは目を閉じて記憶を辿るが、やはり思い当たることは一つもなく怪訝な顔をする。


「やはり分かりませんね……、半妖は大昔に見たことがありますが気配が独特です。だから近くにいたら確実に気がつきます。ですが、その気配を感じた心当たりすらありませんし……」

「……じゃあこの半妖と手を組んでる九尾っていうのはハクとは別の九尾かそれとも案外ただの狐妖怪を九尾と勘違いした奴がいるのか……。その先になにか続き書いてたりとかは?」

「特にないですね。先程のページの続きで私達に関係がありそうなのは……『大黒家長男が九尾と共に協会を転覆させる計画を企んでいる……、という噂を耳にする。この大黒家長男とはもしかして乙哉の事だろうか。もしそうだとしたら乙哉も半妖と組んでいる? ……それは考えにくい。だが、年月は人を変える。万が一もあるしまずは乙哉を探すことにしよう。きっと半妖よりかは簡単に見つかるだろう』……、この乙哉というのは貴方のことですか?」

「あー……、まあ、そうだな。俺の昔の名前だ。にしてもこいつ俺のこと大分舐めてるな。自分も追われる身の癖に『簡単に見つかるだろう』だなんて……」

「でも実際簡単に見つかったようですよ? 今の記述の二日後には貴方を見つけているようですし」

「さすがに早すぎない!?」


 藤が探索を得意としているのは知っていたが、大黒自身も協会に見つからないように最低限の隠蔽工作はしていた。

 それなのに探し始めて二日で見つけられたという事実に驚きとショックを隠せなかった。


 

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