第5章 スモレンジャー・コスモルームにて

 室内にはなんとも言えない重さが圧し掛かっていた。もちろん、本当に重力があるわけではないが、誠はその重力を持ち上げるように大きく伸びをした。

「あーあ、全くどこに飛ばされたんだよー、徹の奴。」

「本当に徹の術気は出てないのか?」

誠と真の言葉に部屋の中央に置かれた阿修羅の像が悲しみの表情のまま告げた。

「あぁ、全く出ていない。まるでこの世界にいないみたいだ。術気爆発でもしてくれれば別だが、」

「タイムラグーンも一緒に飛んで行ったから、たぶんそのうちするとは思うんだけど。」

阿修羅の言葉に誠はのんびりとした調子で返しながらも、このやりとりもいい加減飽きているのか長いすに横になった。

「そのうちでは、遅いのだ!!」

一人輪から外れていた雅が、文机を叩いて勢いよく立ち上がった。心を落ち着けるための写経は全く進んでいない。

「雅、」

「・・・私が、悪いのだ。あの時タイムラグーンを追いかけようとしたばかりに徹を・・・あやつに何かあれば、私の・・・せいじゃ・・」

思いつめたような顔で、泣き出しそうな雅に翔がそっと寄り添った。小さな体で全てを抱えてしまうリーダーの頭を優しく大きな手が撫でた。

「大丈夫だって、雅。徹はそんなやわじゃないって。」「そうだ。前に俺と敵の結界に閉じ込められたときも、あいつだけはぴんぴんしてただろう?」

上から降ってくる優しい低音に雅は小さく笑った。

「確かに。真は術気の使いすぎてへばってて、それで徹が半べそだったもんなぁ。真さんが、死んじゃいますうう、って。」

「同じ位術気を使っていたはずなのに、あいつは平気だったからな。驚いたんだろう。」

「徹は術気が多いんだ。操るのは下手だが。」

「言えてるな、あいつ未だに変身しないと出せない技があるんだから。」

「まぁ、だからその分使い魔をたくさんもっているんじゃ。」

「あれも、術気が多いからこその利点だな。」

「確かに。俺と誠なんて大変だったよなぁ。な?誠。」

翔は長いすで眠ってしまいかけていた誠に尋ねる。寝ながらも聞いていたらしい誠は目を開けずに楽しそうに笑った。

「死ぬかと思った。クロまで出せないし、翔もアカすら出せなくなって、体は重いし息は苦しいし周りの人は襲い掛かってくるし。もう、どうしようかと思ったよね。それでも少ない術気使って、最後は俺の術気切れで意識不明ね。」

「本当に。俺このまま誠背負って死ぬのかと思った。」

「誠は術気を操るのがうまいかわりに、少ないんだ。徹とは正反対だな。」

阿修羅の言葉に翔と誠はまた笑った。

「確かに。そうだな、何もかもが正反対だよな。」

「それって、性格もってこと?俺、傷ついたぁ。」

大丈夫、よくあるピンチだ。何も心配はいらない。

翔と誠のやりとりに雅はほんの少し和んだようだった。翔はそんな雅の頭を今度は少し乱暴にぐしゃぐしゃと撫でた。

「あんま根つめんなんよ、お前のほうが倒れちまうからさ。」

「翔、」

「お前に倒れられると困る。」

翔の笑顔は安心する。翔の手は安心する。翔の声は安心する。雅がしっかりと頷いた。

「なー、阿修羅。結界に閉じ込められてるってことはないのー?」

長いすから勢い良く起き上がると誠は阿修羅の前まで歩き、尋ねる。

「・・・・ないとも言い切れないが、タイムラグーンの邪気すらないところをみると・・うーん。」

阿修羅像の全ての顔が一斉に首を傾げた。誠は少しだけ真剣な顔をして雅と真を見た後、いつものように口元に笑みを浮かべた。

「一体どこに飛ばされたんだ、徹は。」

「本当じゃ。」

「まさか、別世界とか?」

誠の言葉に、真が笑う。

「ありえないだろう。」

「いーや、この前テレビでさブラックホールはホワイトホールとかっていう向こう側の世界と繋がっていて、そこは自分たちそっくりの別人が住んでいるって、やってたの!!」

「あぁー・・なんか、見たなぁ。それ。」

誠の熱弁に全員が阿修羅像の周りに集まる。

「だから、もしかしたら徹も、」「!!徹の術気を感じた。・・・場所は、」

何かを言いかけた誠に阿修羅の声が重なる。そうして阿修羅の目から壁にどこかが映しだされた。

「・・どこだ、あそこ。」

見覚えがあるようでない町並み。その中で見慣れたコスモスーツに身を包んだイエローがタイムラグーンと戦っている。

「あ、徹だ。」

そして、その後ろで見守るように、怯えるようにその戦いを見ているのは見慣れた顔。

「なぁ。あれ・・・俺?」

「ちょっ、ちょっと待て。アンビリーバボーだ。そっくりだぞ。」

全員の問いかけに答えるように阿修羅ははっきりと告げた。

「どうやら誠が正解だ。場所はホワイトホールの向こう側だ。」

「えええっ!?」

驚く三人とは裏腹に誠が嬉しそうに叫ぶ。

「マジで、別世界!?」

いつものように楽しそうに笑顔を浮かべた誠を無視して雅が命令を下す。

「なんでもよい!衛月城で出発じゃ!!」

どんなに遠く離れても、想いは一つ。

君を助けるために。


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