第一章 ホワイト・ミヤビ編

 はふーっと溜め息を吐いて机に突っ伏して黒い髪が机に広がる。

「ミヤビ、今日はずいぶんとブルーじゃん。どうしたの?」

「あぁ、七海。いやいや、大したことじゃないよ。」

ポニーテールがトレードマークの七海のキツネみたいにつり上がった目が私の頭を横から覗き込んできた。普段はこうしてポニテでつり上がっているけど、彼女の目は本当は可愛いタレ目だったりする。うん、ポニテミラクル。私も真似してポニテにしているけれどあんなに綺麗にはならない。七海のポニテは本当に理想的なポニテなのだ。

「あ、わかった。出張、なんでしょ。おばさん。」

「うぐ、本当に七海はすごいなぁ、私のことなんでもわかるんだ。どうして?そのポニーテールにはレーダでもついてるの?」

「うんうん、実はね、このポニーテールは、ポニレーダーで・・って、違うよ。ミヤビの悩みなんておばさんの出張とそれに伴う何かしかないでしょ。」

それじゃぁ、私が単純でノーテンキな奴みたいじゃんか。ひどい言われようだけど、その通りだし七海に悪気があるわけじゃないから口には出さない。かわりにもう一つ溜め息を

「はふー」

「ミヤビってば、本当に。おとーさんって呼べばいーじゃん。呼べないならいいって言われてるんでしょ?何でそんなに悩むのさ。良い人じゃん、おじさん。」

「だからだよう。もう、もーう!!」

机に顔を押し付けて、私はどうしたらいいのかわからない悩みにイライラしていた。

 七海の言うとおりだった。

呼びたいなら呼べば良い。呼びたくなければ、呼ばなくてもいい。そんな風に言ってくれているとてもいい人だ。ただちょっと無口で無表情なだけ。そう、それだけなのにそこが決定打。

「パパとは、違う。」

おしゃべりでお話し好きで百面相みたいにころころと表情を変えていたパパとは、全然違う人。私のパパと違う人をどうしてパパと呼べるだろう。

けれどもあんなにいい人なのに、どうしてパパと呼べないのだろう。

まるで天使と悪魔みたいに私の心の中で誰かが言う。

あぁ、もううるさい。

もう、黙っててよ。

わかってる、わかってるよ。

「・・もう、全部わかってるってば。」

小さく誰にも聞こえないように呟いた。言えば世界は変わるのか、とも思ったけど。誰にも聞こえないように言ったんだから、何もない。ただ目の前にいた七海が私を見て少し首を傾げただけだった。なにそれ、可愛い。

「なーんでもない。そっちで桜乃たち何の話してたの?」

「あ、、ミヤビちゃん。これだよ、カケルくんの新しいドラマの話をしてたの。」

「あぁ、桜乃ちゃんカケルくん大好きだもんね。」

「うん!!」

何も考えないように私は、七海と一緒に桜乃ちゃんが話してくれるカケルくんの話しに聞き入った。

 お母さんは、今日から出張だといっていた。そうすると、私はまた信さんと一緒に数日、あの家で過ごさなくてはならないということになる。

「・・あの家って、」

なぜ自分の家をそんな風に呼ばなくちゃいけないのだろうと、どこからきたのか分からない苛立ちをどこにもやることができずに

「あーぁ、前は、お母さんが出張の日はお泊り会みたいでドキドキしてたのになぁ。」

一人で留守番をしていた頃、一人残された家は少し心細くはあったけどそれ以上にまるでお話の中にいるようなふわふわとしたドキドキ感があったというのに、最近ではまるで真逆のまるでつまらない他人のような顔をするようになってしまった。原因はわかっている、一つしかない。

「あー、もう、本当何なのこれ。」

げしげしと地面を何ども踏んで苛立ちを抑える。そりゃぁ、良いって言ったよ。あの時は良いって思った。これまで一人で頑張ってきたお母さんが見つけた好きな人だし、応援してたし。何回か会ったあの人はとても優しい人だった。

「あー・・もう、もう、何が嫌なんだろう。私ってば、」

今も前も、あの人は変わらず優しくて良い人だ。そう、変わってしまったのは私の方だ。一緒に暮らせば暮らすほどにわからなくなる。嫌になっていく。お母さんの大切な人なのに、大切に出来なくなってしまいそうで、

「はぁー・・うわぁっ!?」

こつんと当たった何かに危うく躓きそうになる。何とか体制を整えて足元を見る。

落ちていたのは、手だった。

「・・え、手・・わ、人だ!?」

人が倒れていた。それも変に黄色い服をボロボロにした人。体も傷だらけなんだろう、あちこちから血が滲んでいる。どうしたんだろう、この人。もしかして轢かれたのかな、あれでも、歩行者通路で?あ、自転車かも?

誰もツッコミのできない心の中でミヤビはパニックになっていた。

「・・・生きてる、よね。」

目の前でぐったりと倒れている少年をまじまじと見て、浮かんだ疑問に一瞬、ぞわりと心が騒ぐ。慌ててしゃがむと軽く少年の頬を突いた。ふにふにとしたマシュマロみたいな感触のほっぺただった。

「んん、あ、れ・・?」

少年は、ぱちぱちと瞬きをして目を開けた。開くと大きな瞳だった。そんな大きな瞳がミヤビを映して、それから辛そうに体を起こした。

「あ、だ、大丈夫ですか?」

「あ、うん、大丈夫だよホワイト。僕あれからどうなったの?他のみんなは無事だったの?タイムラグーンは?あれから、どうなってるの?」

「は、はい?あの、いえ」

怒涛の質問。答える暇が見つからない。

そしてしっかりと掴まれた肩をがくがくと揺すられて、男の子が近づいたり遠くなったり。そのうちにいつの間にか、彼の質問バルカンは止まっていた。

「あ、あのすみません。私は、ほ、ホワイト?とかじゃないです。」

「え?何言ってるの。どこからどう見てもミヤビだよ?」

「あ、確かに私の名前は雅美ですが、」

「でしょ?でも、あれ・・何でそんな格好してるの?ミヤビ、戦い難いからスカート苦手じゃなかった?」

「はい?いえ、スカート苦手じゃないですし、というより、私スカート履いていると戦い難いような戦闘はしたことないですけど、」

「もー、何言ってるのさ!そんな冗談面白くないよ。」

ケラケラと軽やかに笑う見たところ私とそんなに歳は違わないような顔立ち。同級生にいたかな、全然見覚えないんだけど。

「あの、すいません。本当に身に覚えがないんですけど。失礼ですが、どちらさまですか?」

「え、本当の本気で言ってるの?それ。」

「はい。」

途端、どんどん蒼白になっていく彼の顔。

「僕だよ、僕!!ガモン トオル!君の仲間のと・お・る!!イエローのトオルだよ?」

「いや、仲間って何の仲間ですか。イエローって何の色ですか。トオルって名前も携帯に登録されていませんし、あ・・ガモンもない。」

携帯の画面を見せてやると彼は、そんなあと情けない声を上げてへたりこんだ。

「確かに喋り方とか、仕草とか普通の女の子みたいで変だと思ってたけど。やっぱりミヤビじゃなかったんだ。っていうか、ここ自体どこなんだろう。僕こんなとこ知らないよ。」

困ったように今にも泣き出しそうな表情をしたまま、彼はあたりを見回した。こういう場合はどうしたら良いのだろう。私まで何だか泣きたいような悲しいような気持ちになってくる。

「あ、あのう、ガモンさんは、その・・どこからきたんですか?」

こういう場合はだいたい過去とか未来とかだったりするなぁ。なんて昔パパから聞いた話が思い出されてワクワクしてくる。私は今でも小さい頃にパパが毎晩話してくれていた作り話が大好きだった。夜の闇の中を宇宙人と走ったり、地下の住人と決闘したり、ドラゴンと温泉を掘ったりしたパパも私が小学校に入って二回目の春に事故で死んでしまった。ドラゴンの炎も宇宙人のレーザービームも跳ね返したパパの体は階段を踏み外して頭をぶつけただけで、あっけなく壊れた。お母さんはだははと笑いながら、「パパらしいね。」と言って泣いた。笑いながら泣くお母さんは器用な人だ。

「どこからって言われても・・・あぁ、杉の木広場だったかな。」

ガモンさんの答えでわくわくしていた心が現実に戻る。杉の木広場とは、またとてもピンポイントな地名だ。しかもネットで調べたら百件くらいヒットしそうな平凡な名前だし。

「ガモンさんは、宇宙人とか、地底人とかじゃないんですか?」

思わず尋ねた私の言葉に彼は大きな目をもっと大きくしてびっくりしたように首を振った。

「え?・・う、うん。違うかな。」

「そうですよね。すいません、変なこと聞いちゃって。」

「ううん。いいんだ。」

ガモンさんはそう言うと優しく笑った。その笑顔はどこかパパに似ているような気がした。別に顔つきとかとういうことじゃない、けれどどこが似ているのかわからない。

「あ、何時代とか、日付とか?は・・」

「あ、うん・・あっと・・確か、五月十二日だった。時間はお昼を食べた後だから・・二時・・くらい?」

五月十二日二時。それを聞いておやおやと時計を見て驚く。いやいや、そんなはずないよ、だっておかしいよ。

「今、十五分です。」

「うん?うん、十五分?」

「はい。今、五月十二日の二時十五分です。」

「あぁ、じゃぁ、もう十五分も話して、たの?」

少なくとも十五分じゃないにしろ十分くらいは話していたはず。だとしたら、彼は五分圏内の場所にある杉の木広場から飛んできたもしくは運ばれてきたんだろうことになる。けれども、そんな近くに杉の木広場なんて名前の公園はないのである。つまりは、ひょっとすると、

「・・ガモンさん、やっぱり別の世界の人?」

「は?ええ?」

確かにこんな個性的な服はそうとしか言いようがない。そうするとやはり、どう考えてもそうなのだ。

「すごい、私は今、異空間人と会っているんだ!!」

「うん?うん、ミヤビちゃん?」

雅美の思考回路が別な次元に飛んでしまっている間に徹はあたりの様子を探ることにした。まず、軽く見回したそこいらは知らない場所だった。ちっとも見たことのない場所。そして、見覚えのあるのに全く他人だという目の前の少女。思い出してみる、あの時のことを。

「そうだ。タイムラグーン。あいつも一緒にあの穴に・・」

だとしたら、この世界(違う世界なのか、どうなのかは後で考えるとして)にタイムラグーンもきてるんだ。どこかで暴れたりしていないだろうか。

「とにかく情報が欲しいなぁ。」

「あ、だったら家にきてください。テレビもラジオもネットも、それから新聞もありますんで。」

「い、いいの?ありがとう。」

ふわり、ガモンさんの笑顔はまるで、

「じゃぁ、つ、ついてきてください。」

押して行こうとした自転車をガモンさんはすいっと手から取ってひょいっと乗った。それから、私を見てまた笑う。

「じゃぁ、案内をお願いします。」

「え、う、うん。」

いつもは空っぽの自転車の後ろの場所。パパが生きていたときはいつもここに乗って買い物に行っていた。パパの力強い足がぐんぐんと漕ぐスピードが好きだった。

そんなことをふと思い出した。

雅美はそっと徹の後ろに乗り、自転車はゆっくりと動きだした。

「あの、ガモンさん。」

「トオルでいいよ。何かその姿でそんな他人行事にされるとちょっと寂しいから。」

「と、とおる、さん。」

小さく呼んで背中に頭を預けた。優しい風に乗って彼の匂いがした。男の子、の匂いで何だかドキドキと心臓が苦しくなった。


「お茶、どうぞ。」

「あ、ありがと。」

「いえ。」

ど、どうしよう。さっきは何かパニックになっててあんまり何も考えずに家まできちゃったけどこの子は雅ではないわけで、ここには阿修羅もみんなもいなくて。だけどたぶんタイムラグーンはいるわけで。

「・・うぅ、僕一人で大丈夫じゃないよぉ・・」

家についた途端に正気に戻ったらしい徹は一人悶々と考え込むようにソファで頭を抱えている。それを見ていた雅美は何かないだろうか、と家の中を見回す。とりあえず、さっきは情報が欲しいと言っていた。だとしたら、

雅美は机の上にあった新聞を徹に渡す。

「はい、あの、と、とりあえず新聞です。」

「あぁ、ありがとう。」

新聞を見てもわかることなんてあるかな。だって僕がきたのは今日なのに。なんてことを考えながら開いた新聞の一面はどうやら数日前からの続き記事らしい。

殺人犯、依然逃亡中

そんな見出しと共に大きく掲載されている写真。それはついさっきまで一緒に掃除をしていた見覚えのある個性的すぎる髪の色。そして、そして、

「・・ぶ、ブラック、・・あきら?」

そんなはずはない、そう思いけれど記事は間違いなく殺人事件の犯人があきらであることを確信している。あぁ、殺っちゃったのか、ブラック!!お前はどう考えても黒だ。やらかしたのか、ブラック!!

「え、が・・トオルさん、この人のこと知っているんですか?」

「いや、知っているというか。知らない人というか・・あー・・」

何て言えばいいの。だって、何て言えばいいの。絶対、違う人なんだろうけど(だって誠じゃなくて明ってなってるし)でもこの顔の人は知っている人で、でも、だけど、確かに

「・・ぶ、ブラックに、似てるんだ、仲間に。」

「えぇ!?ぶ、ぶらっくって、また何の色だかわからないけど、あ、確かトオルさんが、黄色の・・」

「うん、黄色じゃなくてイエローね。イエロー」

「そ、そうですね、それって何の色なんですか?」

くりくりの瞳がキラキラしてる。雅美があんまり見せてくれない表情が妙に新鮮だ。

「え・・っと、僕らは五人いるんだけど、コスモの戦士なんだ。それぞれ僕らはカオスの中から選んだ自分の色と属性を使って戦うんだ。」

こんな説明で大丈夫だろうか、雅美に僕に説明してくれたときはもっとわかりやすくて詳しかったんだけど。あぁ、あの時雅美はどんな風に言ってたっけ。

「それが、その・・五色で・・・さっきの色で、だから、えっと」

「まず、とおるさんには四人の仲間がいて、それぞれに色と属性があるんですね。ふふ、何か戦隊物みたい。」

「え!?知ってる?五行戦隊コスモレンジャー!!・・なんだけど・・」

「え?」「え!?」

本当にヒーローだった。何これ、ど、ドッキリとか?で、でも、それにしては傷がリアル・・あぁ!!

「そうだ、傷!!とおるさん、怪我してるじゃないですか!!手当てしないと!」

「あ、あぁ、忘れてた。そういや、さっきから痛いと思ってたら。パニックでわかんなかったんだね。」

バタバタとどこかに行った雅美の背中を見送り、徹は着ていた服を脱いだ。自分では気づかなかったけれどかなりボロボロになっていた。

「戦っていたときの傷、じゃないなぁ。タイムラグーンと穴に入ったときに何かダメージを受けたのか・・・だとしたら、タイムラグーンも傷を負って・・」

意味もなく服に開いた穴に指を入れて徹は考える。そこに雅美が救急箱を持って戻ってくる。しかし、徹の姿を見てすぐに二階に向かった。

「服!!あの人ので、サイズ・・・私の方がいいかな。」

どう考えてもあの姿のままではまずいし、かと言ってあの人の服ではいくら何でも大きすぎる。確か前にサイズが大きすぎて着ていない服があったはず。

「うーんと、あ、これこれ。ふふ、ちょうど黄色だ。」

引き出しから出した黄色いパーカー。正面に大きく可愛い犬が書いてある。上下セットだった。そう、セットだったのだ。

「と、とおるさんなら、大丈夫。・・・顔、かわいいし、うん・・うん。」

雅美は自分に言い聞かせるように頷いて服を持って階段を下りた。


「とおるさん、とりあえず傷の手当をしますね。それから、服も持ってきたので後で着替えてください。」

「あ、ごめんね。ありがとう、」

そうは言ったものの、私は傷の手当てなんてパパが死んでからは絆創膏にもそんなに触れていないくらいしていない。パパが生きていた頃は毎週のように休みの日に公園やアスレチックで怪我をしたパパの看護婦さんをお母さんとしていたのに。

「なんか、懐かしい。」

とおるさんといるとパパのことばかり思い出す。もうずっと忘れていたパパのこと。

「ミヤビちゃん、手当てに慣れているんだね。すごい。」

「あ、いえ。でも、あんまりひどい傷はないみたいで良かった。」

とおるさんの着ていた服はとりあえず洗濯することにした。下着はまだ少し残っていたパパのを、貸すことにした。彼は私の持ってきた服を可愛いね、と言ってけれどズボンはしげしげと見つめて困ったように笑った。

「これ、半ズボンじゃないよね。なんていうんだっけ。」

「キュロット、です。すいません、それしかなくて。」

「・・・うん、だ、大丈夫。半ズボンだと思えば、なんとか。」

「あ、私、なにか、洗濯しに行ってきます!」

「うん、わかった。」

じゃぁ、その間に着替えてるね。そう言ってとおるさんはやっぱり困ったようにキュロットスカートを見つめていた。

 コトン、と机にテレビのリモコンとラジオを置いて、徹の前に出した雅美はほんの少しだけ笑うとすぐに口元を引き締めた。

「す、すごく似合います。全然、大丈夫ですよ。」

「絶対、嘘だよね。だって、今ミヤビちゃん笑ってたもん。」

「ち、違います。似合いすぎてビックリして笑ったんです。」

本当かなぁ。明らかに疑いの色を声に含ませながら、徹はお茶を口に運んだ。

パーカーもキュロットも本当にぴったりなのに、髪がベリーショートだからちぐはぐな感じになっちゃってるんだ。あと、もう少し髪が長ければなぁ。

雅美は、徹を見つめてそれから、慌てて話題を戻す。

「あ、それで。さっきの話だと、トオルさんには四人仲間がいるんですよね。私と殺人犯と・・あとは?」

「いや、必ずしも誠は殺人犯ではないんだけど・・・・あとは、レッドとブルーだね。」

徹は呟いて雅美の視線から自分のこの格好を外させようと、テレビをつけた。

「レッドとブルー・・名前は?もしかしたら、知っている人かも。」

「あぁ、レッドは、翔だよ、」

『美味しくって、癖になる!!じゃがぽっぽ!!』

「のーーーーーーーーっ!!!」

テレビの画面に映し出されたコマーシャルに徹は危うくお茶をひっくり返すところだった。突然、大声を出した徹に向かいに座っていた雅美も驚いて目を丸くする。

「ど、どうしたの?」

「れ、レッドが、レッドがじゃがぽっぽを!」

「えぇ?じゃが、い、今の人?」

もう、映像は変わってしまっているけれど見なくても、つい数時間前に聞いて分かっている。そして、何よりも名前だ。雅美は慌ててカバンから桜乃に渡された写真集を出して、徹に差し出した。

「こ、この人だよね。今、人気のアイドル・・カケル。」

「・・ア、アイドルデスカ?」

思わず片言になってしまうほどの衝撃。差し出された写真集には、見慣れた人目を惹きつける顔。

うわわ、あの翔が、何かすっごいエロかっこいい表情でこっち見てる表紙だよ。ななな、見てるこっちが恥ずかしくなってくる。まさか、嘘だ・・・・翔が爽やかスマイル?アイドルスマイル?

「本当にこの人がレッドなの?す、すごいね。トオルさんの仲間って。有名人ばっかり。」

「う・・・僕の知っているみんなは、フツーの一般人なんだけどなぁ。」

こうも有名人ばっかりとは、あぁ、でもコスモレンジャーもある意味では有名人なんだけど。

「どうしよう・・僕、頭がおかしくなりそう。」

「あ、じゃ、じゃぁ、ブルーは?ひょっとして、首相レベル・・」

「あぁ。そうだね、真さんならあり得るかも。」

「え」「・・え?」

キョトンと雅美と徹は、見つめ合ったまま。どちらも次の言葉を口に出せない。思いつかない。

「雅美、帰っていたのか。」

ガチャ、その沈黙を破ったのは、二人ではない第三者。

「間宮、さん・・」「!!」

「お客さん、か?」

高い背から降ってくるような低い声にどう見ても見覚えしかないような顔つき。いや、正確にはさっきまで一緒にいた人よりもだいぶ歳を重ねた感じはある。

「み、ミヤビちゃん・・こ、この人って、」

「あの・・私の、父親。間宮 信さん。」

「マ ジ デ 」

the父親。あはは、雅のおとーさん拓美さんじゃなくて真さんらしいですよ。わー、確かにねぇ。真さん、お父さんみたいだもんね。うん、わかるーははは。

「夢なら、早く覚めてほしい。」

「え?・・もしかして、」

「うん。ちょっと威厳のあるブルーを発見した。」

軽く頭を抱えたい。もう、戻れないかもしれない、あの頃には。

「う、うそ・・ちょっと、まって。」

あなたのパパがブルーです。

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