第3話 裏技とラスボス

「敵補給基地を確認。周囲にフェイザー砲台3基、短距離ミサイルランチャー3基」

「敵射程まで25秒」


敵の武器は短距離のみ、しかし長距離ミサイルを撃っても迎撃される可能性が高い。まずは敵の防御力を削がないといけない。


「よし、突っ込むぞ。減速して攻撃態勢。前方のシールドを強化してくれ。美月は、フェイザーでミサイルランチャーを破壊しろ」

「了解、防御シールドを前方に展開、出力100%」

「フェイザー、敵ミサイルランチャーにロック」

「敵、短距離ミサイル発射確認」

「このままいくと射程に飛び込んじゃうよ!」

「ジャミングできるか?」

「短距離レンジでジャミング開始」

「回避行動」


ジャミングが効いてくれれば、ミサイルはこちらの回避行動に追従できないはずだ。だが、なぜかミサイルが追従してくる。


「なんで、ジャミングが効かないのよ」

「くそっ、自律型だ。逃げ切れるか・・・・」


俺は急旋回でミサイルを一旦かわしたが、ミサイルはまた方向を変えて俺たちを追いかけてくる。こうなればチキンレースだ・・・。


「美月、フェイザーはロックしてるな。射程に入ったらすぐに、ミサイルランチャーを撃ってくれ。これで前から狙われたらアウトだ」

「わかったわ。任せて!」

「ケンジ、敵のフェイザーにあまり近づくとシールドが持たないぞ」

「わかった。美月、短距離ミサイルを砲台にたたき込め。迎撃されてもかまわないから」


そうだ、しばらくでも敵の砲台がミサイルに対応してくれれば、その間に・・・・


「了解。短距離ミサイル照準、敵フェイザー砲台3基、発射!」


短距離ミサイルが連続して数発、敵の砲台に向けて飛び出す。


「射程に入った。フェイザー斉射」


美月のフェイザー斉射で敵のミサイルランチャーが吹き飛ぶ。しかし、俺たちはまだおしりに火が付いた状態だ。ミサイルは少しずつ距離を詰めてくる。もう敵基地のある小惑星は目前。


「ケンジ、衝突しちゃうよ!」

「まだだ・・・もう少し・・・・」


そう、これはチキンレースだ。俺は、敵基地目前で一気に機体を旋回させる。これは、このSF2Aじゃなきゃ出来ない荒技だ。思った通り、敵のミサイルは、追尾できず、そのまま敵基地に突っ込む。


「よし!」

「すごい、やっちゃったよー」

「敵補給基地、破壊を確認」


これで4つ。残る敵基地はあと一つだけ。しかも、長距離ミサイルはまだ9発も残っている。だが、最後の奴は相当難敵に違いない。


「最終目標を確認、方位210,120、距離120万キロ」

「了解、コースセット。攻撃態勢だ」


敵は目と鼻の先。こうなれば、突っ込んで派手に暴れてやろう。そう思った直後だった。

パチッ!、と音がして、一瞬目の前が光った感じがした。次の瞬間、サラウンドモードが途切れて、薄暗いコックピットに俺たちは連れ戻されていた。


「何が起きた?」

「セーフモードに落ちたな」

「故障かな?」

「ちょっと待ってくれ、システムに何か電磁的な負荷がかかったみたいだ」

「まさか、磁気嵐? 木星磁気圏からはまだ遠いのに? シールドは?」

「EMP機雷・・・」


サムがつぶやくように言う。EMPつまり電磁的な衝撃波を生み出す機雷が敷設されていたということのようだ。こいつは、近くで食らうと最強レベルの磁気嵐以上のダメージがある。おまけに、船の磁気シールドを中和するような位相で磁気パルスを発生させるので、シールドも無効にされてしまう。そう、1年前のシャトル事故の時と同じように、本来ならば、俺たちはインターフェイスのオーバーロードに陥っているはずだが、これはシミュレーションなので、そこまでの影響はない。


「ひゃぁ、本物だったら死んでたかもね」

「だな。あの時と一緒だ」

「例のシャトル事故の時もこんな感じだったの?」

「そうよ、あの時は本当に死ぬかと思ったわよ」

「でも、ゲームオーバーにならないところを見ると、命は助かったみたいだな」

「あの、皆さん。今、私と美月さん以外はみんな気絶してる状態なんですけど」


とマリナが悲しそうな声を出す。どうやらシミュレーションのVMI上では、そういうことになっているらしい。たしかに、俺もシステムへのインターフェイスを拒否されているようだ。美月のDIユニットは安全重視の特別製。例の事故の時も、そのおかげで助かったのだが、シミュレータはそのことをきちんと認識しているようである。


「だめだ、こりゃ。復旧作業もできないや」


ジョージがつぶやく。


「ちょっと待ってください。順次、ケアしますから」


そうだ、ここはメディカルの出番である。本来なら俺たちは気絶してるのだから、おとなしくしておこう。だが、あまりゆっくりは出来なさそうである。EMP機雷の爆発で、おそらく敵はこちらの位置をつかんでいる。いつ攻撃が来ても不思議じゃない。


「マリナ、ジョージを優先してちょうだい。システム復旧が先よ」

「わかりました」


そうだ、パイロットは美月がいる。ジョージが動けるようになれば、とりあえず行動は起こせる。シミュレータでは実際に治療を行う訳ではないが、VMIから得た情報で、治療手段を検索し、指示を出せばいい。それが正しければ、治療対象は行動可能になるだろう。


「ジョージ君、ちょっとシステムに繋いでみてください」

「了解・・・、うん大丈夫みたいだ。急いで、システムを再起動しないといけないな」

「ジョージ、急いで、ミサイルが来る。火器管制を先に復旧して!」

「うん、今やってる」


おいでなすった。早速、敵基地から長距離ミサイルを撃ってきた。美月はそれを打ち落とすつもりらしい。機関やフライトシステムの復旧には時間がかかるから、それは正しい判断だろう。こういう時に美月が残っていると、使える情報量が多い分、有利ではある。もちろん、美月がそれを使いこなせての話だが、システムが全復旧すると、ちょっときついかもしれない。それまでに俺が戻れていれば、なんとかなるんだが。マリナの判断はどうだろう。気絶中の俺が口を出すのは反則だから、ここはマリナの判断に任せるしかないのだが。


「よし、火器管制と長距離、短距離センサーを復旧。引き続き、エンジンとフライトシステムを再起動するぞ」

「了解、フェイザーを敵ミサイルにロック、迎撃開始」


間一髪、間に合ったようだが、どんどん飛んでくるミサイルを一発でも打ち漏らしたらおしまいだ。美月の腕を信じるしかない。とりあえず、美月は今のところ、手際よくミサイルを打ち落としてはいるが・・・。


「ケンジ君、どうですか?」


と、マリナ。やっぱり彼女は、そのあたりを心得ていてくれたようだ。俺のインターフェイスも復旧している。


「OK、戻った。俺も大丈夫だ。操縦系統をチェックする」

「ケンジ、フライトシステムはかなり損傷を受けてる。各部のサブコンピュータがいくつかやられてるけど、バックアップシステムでなんとかなりそうだ。エンジン起動にもう少しかかるから、先にフライトコンピュータを見てくれるかな」

「了解、フライトコンピュータ自己診断シーケンスを開始」

「ケンジ、そろそろヤバイわよ。ここから動かないと袋だたきにされそう」


しかし、相手は長距離ミサイルを撃ち尽くすつもりだろうか、立て続けに撃ってくる。このままだと美月の集中力も限界だ。それに・・・フライトコンピュータにもちょっとエラーが出ている。


「ジョージ、フライトコンピュータも、ちょっとまずそうだ」

「ちょっと待ってくれ、今チェックしてる・・・・。まずいな、プログラムが一部消えてる。再起動してバックアップをロードしないといけない」

「やってくれ、エンジンはどうだ」

「エンジンはもうすぐ起動できそうだ」

「わかった、しばらくマニュアルで飛ばすから、その間になんとかしてくれ、たのむ」


またしても、初物でマニュアル操縦。今回は大気圏に突っ込む心配がないからいいいのだが、それでも姿勢の制御が格段に難しくなるのは確かである。だが、ここにとどまっていれば、狙い撃ちだから、いたしかたない。


「よし、エンジン始動。マニュアルで行くぞ」


俺は、スロットルをぐっと押し込みながらスティックをひねる。そのとたんに機体がスピンしながら予想もしなかった方向に飛び始めた。


「ケンジ、何やってんのよ。照準が合わないじゃないの」

「うわ、酔いそうだ」


美月とジョージが叫ぶ。最悪だ。姿勢制御がここまで難しいとは・・・。確かに、TS5の時とはスピードは段違いだ。幸いにも、この挙動にはミサイルも追従できないようで、撃ち漏らしたミサイルも外れてくれたようだが、このままじゃどこに飛んでいくか分からない。なんとか体勢を立て直さないと、どこかの小惑星に突っ込みそうだ。


「すまん、ちょっと待ってくれ・・・」


そう、スティックだけじゃなく、各部のスラスター制御もやらなくちゃいけない。重力エンジンの引っ張る方向は機体から見て前方だが、機体がスピンすると、軌道がめちゃくちゃになる。


「ケンジ、一度スティックを中立にしてから、スラスターで姿勢を整えるんだ」


ジョージが叫ぶ。俺は言われた通りに操縦スティックから一旦手を離し、それからスラスターで姿勢をまっすぐにする。


「よし、それでゆっくりとスティックを動かして、コースを変えて見てくれ」


俺は言われたようにやってみる。今度はスピンすること無くコースが変化する。しかし、機体の挙動が落ち着くと同時に、またミサイルに追いかけられることになる。俺は機体が暴れないように、慎重にスティックを動かしながら、ランダムにコースを変えて、どうにかミサイルを回避する。だが、これじゃ、きりがない。


「ケンジ、これなら照準が合わせられるわ。敵の基地に向かって!」


美月が叫ぶ。


「了解、頼むぞ」

「方位、076,113に!」


お、ケイも復活したようだ。俺は指示された方向に機種を向ける。心なしか、機体の反応が良くなっている気がする。前からはミサイルがどんどん飛んでくるが、美月が片っ端から破壊していく。だが、この集中力が途切れた時が怖い。


「ケンジ、直線じゃ無くて少しジグザグに飛んで見てくれ」


ジョージが言う。俺は美月の照準が外れない程度にジグザグ航行を試みる。なんだか進路を変えるごとに、機体の反応が良くなっていく気がする。


「よし、ケンジ、そろそろ好きにコースを変えていいよ。スティックがきちんと反応するようになってるだろ?」

「ああ。でも、これって・・・」

「機体がケンジの操作を学習したのさ。言っただろ、各部の制御をやっているサブコンピュータが自律系を作れるって」

「そうか、これが・・・」


もう、機体はフライトコンピュータのアシストがあったときとそれほど変わらない挙動をしてくれるようになっている。まだちょっと操作がピーキーだが、それは問題じゃない。


「よし、ターゲットに突っ込んでやっつけるぞ」

「待って。前方にまた複数の機雷。コース変更002、001」

「了解」


サムがいいタイミングで復活してくれたので、さっきの二の舞は避けられた。危ないところだ。


「目標を解析。破壊には3ヶ所への同時攻撃が必要。各2発ずつのミサイルヒットを要する」


最後だけに難易度が高い。しかも単純に長距離ミサイル6発を使うことになる。予備は目標に対して各1発しかない。敵の火力からして、相当数の迎撃ミサイルも持っているだろう。それを全部打ち落とさないと、ターゲットは破壊できない。


「美月、長距離ミサイルを2発ずつ、ターゲットにロックしろ」

「了解。ロックしたわ。いつでも発射できる」

「よし、カウント3で全部発射だ」


俺はスティック握りしめるとスロットルを押し込む。


「今だ、発射しろ!」

「了解。ミサイル11番から17番まで発射」


立て続けにミサイルが6発飛び出していく。俺は、速度を上げてミサイルを追う。こんな芸当もこの機体でしかできない。俺はミサイルの後方から少し外れた位置に機体をつける。ここなら飛んでくる迎撃ミサイルを狙い撃ちできる。


「敵、迎撃ミサイル多数」

「美月、全部打ち落とせ」

「全部って、あんたね。でも、やるしかなさそうね」


美月はフェイザー連射で近づいてくる迎撃ミサイルを全部打ち落としていく。


「距離、40万キロ」

「よし、このまま突っ込むぞ」

「そろそろ敵のフェイザーの射程圏内に入るわ」


そりゃ、やばい。フェイザーはミサイルじゃ迎撃できない。


「美月、短距離ミサイルは?」

「あと3発しかない」


3発か、、これじゃ足りないのは明らかだ。どうする・・・。この船だって、シールドがまだ不完全だ。狙われたら危ない。


「よし、システム復旧できたぞ。フライトコンピュータ接続、防御シールド、前方に集中、最大出力」


ぎりぎり、間に合った。だが・・・


「サラウンドに変えるか?」

「たのむ!」


視界がまたサラウンドビューに変わる。これで一気に視界が良くなった。よし・・。俺は、機体を加速して飛んでいくミサイルの前に押し出す。ミサイルの先を飛ぶなんて芸当はだれもやったことはあるまい。フェイザー相手ならこいつのシールドでぎりぎりまで防げる。またもやチキンレースだが、フェイザーにシールドを破られる直前に短距離ミサイルを撃ち込んで離脱できれば・・・。


「ケンジ、どうするつもりよ!」

「ぎりぎりまで、こいつのシールドでミサイルを守る。シールドを破られる直前に離脱するから、その時に残った短距離ミサイルを撃ち込んでくれ」

「わかった」


敵のフェイザーがシールドに当たってはじける。だんだん攻撃が激しくなって、シールドが負荷にあえぎ始めた。サラウンドビューの視界が少し揺らぎ始めている。


「ケンジ、そろそろ限界だ」

「よし、カウント3で離脱。3,2,1、今だ!」


俺は、スティックを思い切りひねる。ほぼ同時に美月が短距離ミサイルを発射。かなりきわどい・・・。機体ははじかれたようにコースを変え、ミサイルが敵に向かう。敵は、それを迎撃するが、その直後から追いかけてきた長距離ミサイルが着弾。


「ミサイル全弾着弾。目標破壊を確認!」

「やった」

「すごい、コンプリートじゃん」

「すごいな、やれば出来るもんだね。機雷を食らったときは、正直ダメかと思ったけど」

「さて、とりあえず戻りますか」

「基地に帰投する。オートパイロットスタンバイ。ケイ、座標入力たのむ」

「了解、火星ステーションの座標セット、オートパイロットに移行」


ミッション完了だ。これで、ターゲットを全部破壊したのは俺たちが最初に違いない。機内はちょっとお祭りムードになっている。


「なんか、おなか空いてきたよ。終わったら、メシいこ、メシ」

「そうですね、私もちょっと気疲れしました。あまりお役にたてませんでしたが」

「いや、マリナがうまく処置してくれなかったら、最後のターゲット前で終わってたよ」

「全員の力だね。やっぱ、このチームはパワーがすごいな」

「美月もすごかったな。ヒット率90%越えてるじゃないか」

「実力よ、実力」

「・・・何か、来る・・・」

「え、?」


サムの一言。そして、次の瞬間、全員が固まった。


「何よ、あれ」

「なんだか、やたらデカくないか?」


サムが画像を拡大する。それは・・・・・!


「じゅ、巡航鑑!?」


全員が声を揃える。


「これって、まだ終わってなかったってこと?」

「えー、ターゲットは5つだったわよね」

「ちょっと待ってくれよ・・・、やっぱり延長戦があったのか」

「延長戦。しかも、巡航鑑相手に戦えってか?」

「ムリムリ、そんなの。勝てっこないよ!」

「冗談でしょ」


そんな会話をしている間に、巡航鑑はどんどん近づいてくる。艦載機も、うようよ出てきた。しかも、こっちと同じSF2Aだ。こりゃ、艦載機だけでも勝ち目がない。


「さて、と。対策しといて正解だったかな」


とジョージ。


「対策?」

「言っただろ、ラスボス対策しておいたって」

「ラスボス、じゃこれが?」

「そう。無敵のラスボス。普通じゃ絶対に勝てない・・・。だけど・・」


ジョージはいったい、どんな方法でこいつに勝とうというのだろう。


「それは・・・反則」

「だってさ、こんなのが出てくること自体が反則じゃないか。こっちも楽しませてもらわないとね」


サムはもう手の内を知っているようだが、いったい何を・・・。


「残った長距離ミサイルの18番、19番を自動点火にして発射してくれないかな」

「でも、即迎撃されちゃうわよ」

「いいから、撃ってみて」

「わかったわ、長距離18番、19番、自動点火にセット、目標、敵巡航鑑。発射!」


ミサイルが敵に向かって飛んでいく。


「一度セーフモードに落とすよ」

「え?」


と言う間もなく、ジョージはシステムをセーフモードにしてしまう。また、暗いコックピットが戻ってきた。


「どうする気だ、これじゃ狙い撃ちだぞ」

「大丈夫だよ。3,2,1」


巡航鑑の手前で爆発。モニターの視界にざっとノイズが入る。


「え、何よ、これ」

「OK、システム再起動」


また、サラウンドビューが戻ってくる。驚いた、敵の巡航鑑の周りの艦載機が全部浮遊して機能停止してるじゃないか。


「EMPなの?これ」

「そう、さっきのお返しさ」

「でも、あと一発しかないけど、全部は無理なんじゃ」

「いいから、撃ってみてよ。あ、それから撃ったら全速離脱ね」


え、そんなヤバい代物なのか、最後の一発。


「じゃ、撃つわよ。目標ロック、20番、発射」

「全速で離脱!」


ミサイルと巡航鑑があっという間に遠ざかる。そして、一瞬の後にまばゆい閃光が・・。


「これ、まさか・・・」

「そう。反中性子弾頭」

「えー、そんなものどうやって積んだのよ」

「だから反則」


そりゃ、反物質弾頭の中でも最も強力な反中性子弾頭をまともに食らったら、巡航艦隊だって、ひとたまりもない。たしかに反則な裏技だ。でもまぁ、これで本当にコンプリートだ。


「とりあえず、帰投コースをセットするよ」


オートパイロットに切り替えてから、俺たちは全員でハイタッチする。なんだか今日結成したばかりのチームだなんて事も、すっかり忘れてしまっていた俺たちだった。本当に、これは最高のチームだ。


さて、ミッション完了のご褒美は何だろうか、などと考えていたその時だった。いきなりアラーム音が・・・・。


「え、なになに?」

「何よ、もう終わりじゃないの?」

「あ、やばい・・」

「油断大敵・・・」


次の瞬間、目の前に大きな小惑星が出現、あっという間に衝突だ。目の前に、大きくGAME OVERの文字。


「何が起きたんでしょう」

「ゲームオーバーかよ、いったい何なんだ、これは」


なんか理不尽な結末だ。スクリーンに最初に出てきたスペースガードの士官らしい男が映し出される。


「君たちは、勇敢に戦い、我々を勝利へと導いた。君たちの名は永遠に刻まれるだろう。我々は君たちを忘れない。どうか安らかに眠って欲しい」


弔いのメッセージかよ。


「そんなの反則よ!」

「いや、まぁ先に反則やったのはこっちだからな」

「反則には反則?」

「いやぁ、やられちゃったな」

「自業自得」


そんな感じで、どうやらゲームオーバーらしい。でもまぁ、とりあえず十分楽しんだから、よしとしよう。まぁ、このチームのいい点と悪い点は、これではっきりしたわけだ。調子に乗ったらどこまでも行けるけど、調子に乗りすぎて油断してしまうのが難点だ。

「ま、これが実機だったら、全員死んでるからな。気をつけようぜ」

「ケンジ、何を悟ったみたいな事言ってんのよ。もっと悔しがりなさいよね」

「ま、全員死亡はリーダーの責任だしね。反省の弁は必要だよ。うんうん」

「おい、俺の責任なのか?」

「まぁまぁ、そのほうが丸く収まるじゃないか」

「同意」


なんか理不尽だ。


「でも、残念ですよね。頑張ったのに」


マリナはやっぱり優しい。彼女がいてくれれば、俺は頑張れるかもしれない。とりあえず、俺たちはゲームセンターを出て街を歩き始める。


「おなかすいたよー、何か食べに行こうよ」


ケイが言う。たしかに、ちょっとエネルギーを使ったかもしれない。でも、俺はもう帰って寝たい気分なのだが・・・・。それに晩飯にはまだちょっと早い。とりあえず、俺たちは、また元のカフェに戻ることにした。


「でもさ、このチームって、楽しそうだよね」


と、ケイ。


「うん、なんか、すごく、しっくりくるっていうか、いきなりあそこまで行くとは僕も想像できなかったな」


ジョージもこのチームが気に入ったみたいだ。


「でも、ちょっと不思議な感じがします。なんだか頭がすごく冴えていた気がするんですよ」

「わかる、それ。なんか先がずっと見通せる感じ?」

「みんな同じだったのか。俺もそうだ。というか、去年の事故の時と同じか、それ以上だな。美月はどうだった?」

「あたしも同じ。去年の時よりも、自分の情報処理能力が上がった気がする」

「興味深いチーム。使える情報が多くて楽しい」


なるほど、全員、普段とは違う何かを感じていたらしい。サムじゃないが、これは興味深いかもしれない。


「でも、最後が悔しいよね。普通、オートパイロット中でも、障害物は回避行動ができるくらいの余裕で発見できるよね」

「いきなり現れた、というのが正しい」

「そう、僕も思っていたんだけど、なんとなく外部から介入されたような気がするんだよね」

「反則技使ったから?」

「反則とか言わないで欲しいな。でも、介入されたとしたら、ゲーセンの中からじゃ無いかもしれない」

「それじゃ、いったい誰が?」

「おお、天才ハッカー、ジョージ君の上前をハネるような奴がいる?」

「外部回線経由の通信」

「あのシステムって、どこかに繋がってるんだっけ?」

「ああ、あのシミュレータのプログラムはアカデミーから提供されてるんだ。本物のシミュレータのパラメータをいくつか変えて、操作しやすくしているのと、データはアカデミーのセンターコンピュータのデータバンクから定期的に更新されるんだ」

「じゃ、アカデミーに繋がってるのか?」

「そう。だから、何かできるとすれば、アカデミーの誰かということになるね」

「でも、どうしてアカデミーがそこまでゲーセンに肩入れするわけ?」

「戦術データの収集」

「そうなんだ。今の宇宙艇のシステム、特にペガサスⅡみたいな最新機種は、自律制御ネットワークの調整に実際の操作データが大量に必要になるんだ。システムは、実際に行われた操作を整理して、戦術として再構成する。これは、センターコンピュータの仕事なんだけど、そこで作られた戦術テンプレートは船の戦術コンピュータにダウンロードされて、そこから各部の自律制御系にも送られるんだ。最近じゃ実戦はそれほど多くないし、どうしても実戦だとリスキーな戦術は取りにくい。その点、ゲームは気楽だから好き勝手できるだろ。奇想天外な戦術や、追い詰められた時にしか考えられない戦術を収集するにはいい環境なのさ。実際、これで遊ぶのはアカデミーの学生も多いからね」

「ねぇ、ジョージってどうしてそんなに詳しいわけ?」

「あはは、実はそのデータをちょっと拝借しようと思って調べたんだ。うまく行きかけたんだけど、ダウンロードする直前に見つかっちゃってね」

「そっか、それで謹慎3日ってわけね」

「だから、それは言わない!」

「じゃ、今回の俺たちのデータもペガサスⅡのシステムに反映されるのか?」

「まぁ、それはセンターコンピュータが有効だと判断したら、って話だけどね」

「ま、でも反則技は実際には使えないよね」

「そうとは限らない。宇宙艇一機で巡航鑑に対応する状況は貴重」

「でも、あれは実戦だったら、ほとんど自殺ミッションだろ」

「だから貴重なのさ。実際にそんなシチュエーションになったら、EMPと反物質弾頭の組み合わせは有効だと思うよ」

「あんな物騒なものは、そんなに都合よく配備されてないだろ」

「まぁね。でも、最悪は船の反物質リアクターの燃料カートリッジを使うって手もある。まぁ、それで失敗したらもう後が無いけど」

「そんな状況には陥りたくないわね」

「そうですよ。平和な宇宙が一番です」


そんな会話をしながら、俺たちは少し時間をつぶして、その日は解散した。

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