第2話 ゲーセン攻略

昔、コンピュータゲームが発明された頃は、ゲーム機械を人間が手で操作していたそうだが、今は、すべてインターフェイス経由で操作する。しかも、かなりリアルな仮想現実感があるので、ゲームの中で様々な体験も出来る。いわゆるロールプレイングゲームなどは、本当に自分が冒険の旅に出ている感覚になれるから、時々、帰ってこない奴まで出てしまう。これはある種の現実逃避にも使えてしまうわけだ。まぁ、ゲームセンターにはそういう奴を現実世界に連れ戻す、専門のカウンセリングスタッフも常駐しているのだが。


そんなわけで、ゲームセンターと言っても、昔とはずいぶん様子が違うらしい。フライトシミュレータのような大物は別として、個人プレイのゲームは、それぞれブースが用意されている。そこに入って座ったら、好きなゲームと繋がって遊ぶわけだ。VU経由で遠隔地の仲間とチームプレイも出来るし、見ず知らずの相手と対戦も出来る。チームプレイ専用のブースもある。


シミュレータものは、それぞれの規模に応じた小部屋があって、その中で仮想現実を使って、実際に乗り物を動かしているような感覚を楽しむことになる。宇宙艇のフライトシミュレータも、実際の船のコックピットくらいの部屋の中でプレイするのである。


俺たちは受付をすませると、フライトシミュレータ用の小部屋に入る。がらんとした何もない小部屋だが、機種を選ぶと、その機種に応じたシートの配置や、仮想現実感による機器類のパネルなどが用意されることになる。


「さて、どの機種にする?」


と、ジョージが機種選択パネルを見ながら言う。


「TSシリーズのシャトルだと、パイロット専用だから、やっぱ小型クルーザークラスよね」

「まぁ、順当なところで、ST1Bあたりじゃないか? 実習にも使う船だし」

「うーん、STシリーズはちょっと物足りないんだよなぁ・・、あれ、こいつ、ペガサスⅡが入ってるじゃないか。いつ入ったんだろ」


とジョージ。


「ペガサスⅡって、SF2A? 最新型じゃない」

「面白そうじゃん、やってみようよ、それ」

「いきなりファイタークラスって、ちょっと難易度高くないか?」

「ケンジ、あんた何言ってんのよ。失敗したってどうってことないんだから、難易度高い方が面白いに決まってるじゃない」

「そうですね、面白そうだし」

「よし、決まり! ペガサスⅡで行こう」

「支持!」


はぁ、やっぱりこのチームはこういうノリか。ちょっと先が思いやられるのだが、まぁ、ここは美月の言うとおり、楽しむことを優先するとしよう。


「じゃ、エントリーするよ。みんなDIユニットの準備はいいかな」


ジョージがパネルを操作すると、室内が一瞬またたいて、宇宙艇のコックピットに変わる。この船は、小型の哨戒・戦闘用宇宙艇で、ちょうどこのチーム構成で飛ばせる船だ。この景色の多くは仮想現実だが、本物と寸分違わない。シートのような物理的に力がかかるものも、特殊な力場を使って作られているので、座り心地などは、本物と変わらない。こうした仮想現実感を伝送するには、アウトバンドでは容量がたりないため、通常は「ダイレクト・インターフェイス」つまり、外部信号を受信して、直接神経系とインターフェイスする方式が使われる。このために使われる装置がDIユニットで、多くの場合アクセサリーや時計のような形で身につけられている。

「うわー、かっこいいねぇ。さすが最新型。えっと、ナビシートはそこかな」


ケイが真っ先に自分の席に着く。


「やっぱ、すごいな、このシステムは。これもTS5と同じで、自律制御系が組み込まれてるんだよね。だからメインのコンピュータシステムには、かなり余力があるはず。まぁ、シミュレータだから、機能は制限されてるんだろうけど」


ジョージはエンジニアリング席につくと、早速システムのチェックを始める。俺と美月は操縦席、サムは通信コンソールに座る。マリナは、一番後ろのメディカルモニターコンソールだ。彼女はここで、全員の体調などを監視する。


「ほら、あんたがリーダーなんだから機長席でしょ」


美月はそう言うと、副操縦士席に座る。


「よし、システムはOKだ。各自接続チェックを」

「了解」


ジョージの声に全員が応える。まずは、各自、自分の担当のシステムに接続して機能確認をする。


「機長席操縦系統チェック・・・OK」

「副操縦士席操縦系統チェック・・・OK」

「ナビゲーションシステム接続チェック・・・OK」

「通信及び情報処理システム、接続チェック・・・OK」

「メディカルモニター接続チェック・・・OK、全員のVMIアクセス許可を確認、数値正常」

「システムすべて正常、接続チェック完了。それじゃ、情報共有テストいくよ。各自共有モードに」

「了解」


ジョージの声で全員が一斉に共有モードに切り替えた瞬間・・・・。


「きゃっ、何、これ・・・・」

「うわっ、こりゃすごいな」

「情報氾濫・・・」

「なんだか、目がまわりそうです」


はぁ、やっぱり起きたか。俺の目の前にもありとあらゆる情報が表示されていて、酔ってしまいそうだ。これは、美月が持っているインターフェイスから俺の意識に流れ込んでくる雑多な情報だ。他のメンバーにも同じことが起きているはず。でも、俺の感覚もまたあの時のように研ぎ澄まされているわけで・・・。


「だから言ってるのよ、あとで後悔しないでねって」

「ちょっと待ってくれ、今なんとかするから」


とりあえず、あの時のように・・・・乱雑な情報を一旦整理して、それから不要と思える情報を消して・・・と。


「おお、ケンジすごいね。こういうことが出来ちゃうんだ」

「だいぶ見やすくなったね。これならどうにかなりそうだな」

「どうなるかと思いましたけど、大丈夫そうですね。皆さん、かなり血圧が上がっちゃってますけど」

「びっくり、でもこれすごい。こんな情報量、見たことない」


さて、とりあえずどうしようか、これでもまだ少し情報過多かもしれない。二人だけの時と違って、他のメンバーからの情報もある。


「ケンジ、ここからはちょっと僕に任せてくれるかな。システムで情報の振り分けをやってみる。各担当に必要な情報だけを渡せるようにするから」


とジョージ。


「全部、全部欲しい」


とサムが言う。全部って・・・・大丈夫なのか?


「そっか、サムの処理能力だと、このデータは逆に役に立ちそうだからね。それじゃ、サムの所は、一旦フィルタを外すから、自分で必要な情報を取り出せるかな」


「やってみる」


なるほど、チームで動くと言うのはこういうことなんだ。二人だけでやってた時に比べると、ずいぶん選択肢が増えるんだな。


「サンキュー、完璧だよ、ジョージ。これで私も仕事が出来る」

「私の所も大丈夫です。あとは、こちらのシステムに整理させますから」


俺の前の情報も、その種類や重要度ごとにパネル化されて整理されていく。俺がやるより、ずいぶん見やすくなった。


「すごい、信じられない。今までこんな事、絶対無理だと思ってたのに」

「やっぱ、チームってすごいよな」


美月も信じられないという顔をしている。もしかしたら、フランク先生は本当に最強のチームを作ってくれたのかもしれない。


「よし、それじゃ、最後のチェック。サラウンドモードにするよ」

「了解」


さて、これが一番のお楽しみ。サラウンドモードは、機外の景色すべてを、全員の意識に投影する。不思議だが、目では一度に見えない範囲も同時に見えている感覚になれる。つまり後や上下にも目がある感覚だ。想像できないかもしれないが、例えば目を閉じると周囲の気配が感じられるように、人間の脳内には全周のマップが存在する。聴覚や皮膚の感覚はこのマップ全域を使えるが、通常、視覚は見ている範囲のマップだけしか使わない。このサラウンドモードは聴覚同様に、外部映像や長距離、短距離の様々なセンサーの情報をたばねて全周マップに投影してくれる。


「わ、すごい」

「綺麗ですね」


サラウンドモードに切り替わった時、俺たち6人は地球の周回軌道上に浮かんでいた。足元には青い地球。頭の上には太陽、宇宙を漂っているというか、この世界全部を見渡せる、神様にでもなった気分だ。


「大丈夫そうだね。特に異常はないかな」

「OK!」

「それじゃ、一旦切るよ」


俺たちは次の瞬間、またSF2A型機のコックピットに戻ってきた。


「さて、リーダー。シナリオはどうしようか」

「そうだな、まずは基本的な離着艦手順でもやるか」

「ケンジ、なにつまんないこと言ってるのよ。ランダムモードに決まってるじゃない」

「おい、いきなりかよ」

「いいんじゃない? 面白そうだし。最悪でも機体が壊れたりはしないんだしさ」

「賛成」


おいおい、こいつらみんなちょっと危なすぎる。


「よし、じゃランダムモードで行くよ。で、レベルは?」

「そりゃ初心者レベルからだろ」

「試しに上級レベルでやってみたら?」


とケイが言う。


「それ面白そう」


と美月。こいつら、シミュレータだからなのか、それとも、実機でもこんな感じになるのか・・・俺は不安だ。


「よし、じゃレベルは上級にセット。モードはランダム。最初のミッションは、テロリスト基地の破壊か・・・じゃ、ブリーフィング開始だ」


俺たちの前に、スペースガードの士官らしい画像が現れ、ミッションの説明を始める。どうやら、俺たちは火星基地所属の攻撃隊で、アステロイドベルトに潜むテロリストの基地を発見して叩くことが任務のようだ。基地は5ヶ所あり、いずれも対空砲や誘導ミサイル、戦闘艇などによって防衛網が敷かれている。ミッションは、最低3ヶ所の基地を破壊して、戦闘宙域から離脱すること。なかなかエキサイティングな設定だが、上級モードだから簡単にはいくまい。


「それでは諸君。ミッションの成功と無事の帰還を祈る。以上だ」


ブリーフィングが終わると、外部画像が火星軌道ステーションの射出用カタパルトに変わる。これは、惑星間宇宙艇射出用の高速マスドライバーである。


「よし、射出前チェックだ」

「了解、チェックシーケンス開始・・・・OK、異常なし」


ジョージが答える。


「目標コースセット」

「ナビゲーションマップ接続、コースセット!」


とケイが叫ぶ。


「サラウンドモードに移行するよ」


とジョージ。


「OK、頼む」


視界がサラウンドモードに切り替わると、俺たちはチューブ状の射出カタパルトに浮いた状態になる。


「射出シーケンス、カウントダウン開始」


前方のメインスクリーンの端に数字が現れ、射出のカウントダウンが始まる。カウントゼロになった瞬間、かなりきつめの加速感があって、周囲の景色が一気に流れた。まるで絶叫系のマシンにでも乗った気分だ。ちょっと酔いそうになる。


あっという間に打ち出されて、後方に火星ステーション、そして空の半分ほどを火星が覆っている。そして、それが、どんどん遠ざかっていく。前方には美しい星空、そうした映像に加えて、コースを示すマップと、近傍の小天体の位置が表示されている。


「OK、目標宙域までのコースに乗ったよ。予想到達時間は3分」


とケイ。


「指向性磁場による加速を終了。自律航行開始するわ」


と美月。火星ステーションと周辺の加速ステーションを使った外部加速が終了して、いよいよ、自前で飛ぶことになる。


「エンジン始動、加速は正常」


ジョージはエンジンその他、船のシステムをモニターしてくれている。


「索敵開始します」


サムが長距離センサーのデータをマップに重ねてくる。まだ目標は表示されていない。既に出発点に対する相対速度は秒速3万キロ、光の速度の10%という、惑星軌道間では、かなりの高速だ。実際に、この船は小型だが、高出力の反物質リアクターと重力エンジンを備えている。その気になれば、通常航行でも光速の半分近くまで加速することが可能だ。オプションで、ワープドライブ用のアタッチメントも装着できる。使えるエネルギーには限界があるので、あまり遠くまでは行けないが、レベル12程度のワープ速度は出せるので、近場の恒星系くらいまでならひとっ飛びだ。スペースガードでさえ、まだそれほど多くは配備されていない最新鋭機である。


しかし、このメンバーは・・・・、いや俺もだが、どうしてこんなにこの最新鋭機を使いこなせるのだろう。もしかすると、俺と同じことが全員に起きているのだろうか。


「そろそろ小惑星帯に突入するよ」


ケイが注意を促す。


「ジョージ、偏向シールドを展開できるか?」

「OK、偏向シールドを前方に展開。出力50%」


このあたりから、石ころ程度から岩の塊くらいの微少天体が多くなる。この速度では避けようがないので、前方に力場を発生させて、向かってくる物体を逸らす必要がある。それが偏向シールド、もしくはデフレクターと呼ばれる防御装置だ。


「あと1分で目標宙域に入るよ」


「OK、各自戦闘態勢。美月、操縦は俺が代わろう。お前は火器管制をたのむ」

「わかったわ。任せなさい」


そう、こいつの性格だと、攻撃に回す方が間違いがないからな。派手に撃ちまくってくれるだろう。


「あと30秒」

「サム、対空監視よろしく」

「了解、今のところ攻撃の兆候はない」


ミッションエリアに入ったとたんに何が起きるか分からない。しかも、これは上級モードだから、たぶんミサイルとか対空砲が雨あられと飛んでくる。たしかにエキサイティングだが、ちょっと寿命が縮みそうだ。


「あと10秒」

「よし、自動操縦解除、行くぞ」


さて、ここからだ。何は起きるか。


「目標宙域に入ったよ」


そしていきなり、甲高いアラーム音。


「長距離ミサイル確認、方位030、102から3発、方位348、020から3発、着弾まで20秒」


ほら、おいでなすった。マップ上に赤い点が3個ずつ、二手からこちらに向かってくる。


「火器管制、セーフティロック解除。迎撃ミサイル発射!」


すかさず、美月が対応する。


「防御シールド最大出力」


ジョージが叫ぶ。俺はコントロールスティックを握りながら(と言ってもこれも仮想現実なのだが)迎撃ミサイルの行方を追う。黄色い点が、赤い点と接触する。


「ミサイル5機消滅、1機残存」


1機打ち漏らしたか。迎撃ミサイルをもう一度撃つ余裕はないな。


「回避行動、ショックに備えろ」


俺は、スティックをひねって、急角度で進路を変える。もちろんミサイルもそれについてこようとするから、連続して回避行動を続けなければいけない。感じる加速度は実際のものではないとはいえ、かなり目が回る操縦だ。本来、自由落下状態で加速度が発生しない重力エンジン装備の機体においては、この加速度自体が平衡感覚を保つための仮想現実なのだが。しかも、サラウンドモードだから、余計にきつい。あんまりやるとクルーの体調が心配だが、そこはマリナがモニターしてくれているから、問題があれば教えてくれるだろう。


「フェイザーキャノン、照準ロック」


美月が叫ぶ。フェイザーってのは、量子波動干渉ビームのことだ。このビームは一種の空間振動波で、狙った相手に当たると、素粒子よりもさらに微少なレベルにあるストリングの振動に干渉する。これにより、相手は素粒子レベルで崩壊してしまうのだ。弱点は、宇宙船の防御シールドによってかなりの部分を反射出来ることと射程があまり長くない点だが、近距離でのミサイル迎撃には有効だ、。美月が勢いよくフェイザーを連射する。


「ミサイル破壊確認」

「攻撃目標複数確認、優先目標、方位203、158」

「よし行くぞ」


俺は、サムが指示した方向に機首を向ける。


「防御シールドを前方に集中」


ジョージが叫ぶと同時に、前方からフェイザーの連射が来る。小さな小惑星に設置された防衛線だ。間一髪、シールドが跳ね返す。同時に、美月がフェイザーを連射して撃破。


「ひゃぁ、危なかったねぇ。ジョージ、美月、グッジョブ」


ジョージが親指を立てて笑う。だが、まだまだ油断はできない。フェイザーがダメなら、次は短距離ミサイルの嵐だろう。早めに基地を叩かないと、危ない。


「美月、ここから基地を狙えるか?」

「たぶん・・・、やってみるわ」


前方に敵基地の拡大図が表示される。サムだ。


「ここが最適な攻撃ポイント。リアクター施設。シールドが強固なので、ミサイル3発ヒットが必要」


戦闘時のC&Iは、各種の情報に基づいた攻撃指示もこなさなければならない。


「了解。照準ロック、長距離ミサイル1番から3番発射!」

「美月、迎撃を考慮してあと2発たたき込め」

「わかったわ。4番、5番続けて発射!」


マップ上を目標に向けてミサイルが飛んでいく。


「優先目標破壊を確認。第二目標、方位080、238」

「080、238、了解」


どうにか、最初の目標は撃破したが、まだまだ先は長い。今度は何が来るのか。

「前方にSクラスの小惑星。回避コース、002修正」

「002修正、完了」


ここは小惑星帯だ、小惑星帯と言っても、映画みたいに、所狭しと小惑星が並んでいるわけじゃない。間隔は地球と月の間よりもずっと広い。だが、このスピードだと、それも一瞬だから、注意しないと小惑星に激突して、あっという間にゲームオーバーだ。とりあえず、ケイのナビゲーションで衝突は回避できる。


「後方注意!敵前哨基地」


サムの声。なんだ、もしかして今の小惑星の裏側に・・・。俺は、急いで回避行動に入る。俺たちの脇をフェイザーの青白い光がすり抜けていく、危ないところだ。シールドは前方に展開しているから、後ろからやられたらひとたまりもない。


「ジョージ、シールドを全体に広げてくれ」

「了解、でもパワーがちょっと不足気味だ。ヒットするとダメージを受けるかもしれないから注意してくれ」

「一発で落とされるよりはマシだ。たのむ」


敵は立て続けに撃ってくる。こっちはかわすので精一杯だ。この動きの中じゃ、こちらもフェイザーキャノンはロックできないだろう。


「美月、短距離ミサイルに攻撃座標をセットできないか」

「たぶん。でも、この火力だと迎撃されるわよ」

「かまわない、自律追尾でセットしといてくれ」

「わかったわ、短距離ミサイル、自律追尾にセット、ターゲット座標入力」


俺は、機体を急反転させると攻撃をかわしながら、小惑星の裏側へと回り込む。幸いにも裏側に砲台はないようだが、こちらも攻撃ができない。だが・・・。


「美月、カウント10でミサイルを撃て」

「了解、でもターゲットが見えないわよ」

「いいから、たのむ」


俺は小惑星の裏側を回り込んで、また表側に進路を向ける。そして敵の砲台が見える直前・・カウントゼロ。


「今だ!」

「発射」


ミサイルが飛び出す、ミサイルはまだ目標にロックされていない。だが、自律追尾にセットされたミサイルは、ターゲットを自動的に捕捉する。俺たちの船より少し先に、ミサイルが小惑星の陰から飛び出し、標的をとらえた。ミサイルは進路を変え、敵の砲台に真横からヒット。


「やった」

「敵砲台及び前哨基地の破壊を確認」

「ケンジ、お見事。すごい作戦じゃないか」


これでターゲットは2つ破壊した。あと一つ。


「コース復帰、本来の第二目標へ、080,275、射程到達予想は20秒」

「コースセット」


いきなり、またアラームだ。


「敵戦闘艇5機を確認。方位、030,358」


おいでなすった。今度はドッグファイトか・・・。


「敵戦闘艇、機種はSF1B2機、SF1A3機と推定」


相手は旧型だ。一対一では、こちらの性能が圧倒的だが、5機相手だとかなり大変だ。


「短距離センサー帯域にジャミング開始」


とサムの声。そうだった、この機種は電子戦機能も備えているんだ。このジャミングで敵は短距離ミサイルをロックできなくなる。だが、こちらのミサイルも同じだ。こうなると減速して接近戦しかなくなる。だが、5対1はちょっと分が悪い。そう考えている間に、敵の5機が散開しはじめる。攻撃態勢だ。まずい。せめて相手が2,3機ならば・・・。


「ケンジ、反転して引き離せ。スピードだったらこっちはずっと上だ」


たしかに、しかし、後ろを見せたら総攻撃を食らう可能性が高い。ならば・・・。俺は、コースそのままでフルスロットルに入れる。


「ケンジ、何してるのよ、反対・・・」


いや、この機のスピードなら・・・。


「美月、長距離ミサイルを敵の1番機から3番機にロックだ」

「長距離って・・・いいわ、ロック完了」


一気に加速した俺たちの機体は、あっという間に敵の戦闘艇の間をすり抜ける。そして一気に距離を広げた。俺はそのまま機体を後ろ向きに宙返りさせる。


「よし、撃て!」

「長距離ミサイル6番、7番、8番発射」


敵との距離は既に短距離ミサイルの射程を超えている。しかし、長距離ミサイルは十分に届く距離だ。しかも、長距離ミサイルのセンサーは短距離ジャミングの影響を受けない。ミサイルが敵の1番機から3番機を撃墜する。さて、あと2機。この体制で反転して攻撃に入ろう。


「敵、4番、5番反転。軌道から戦術を分析。加速が弱い。やり過ごして反転攻撃する作戦」


敵の戦術や意図の分析もC&Iの仕事だが、分析が恐ろしく速い。しかし、この距離だとこちらも十分に加速できないから、さっきのように振り切るのは難しい。どうしたものか。考えている間に敵はどんどん近づいて、フェイザーを乱射してくる。まだ射程外だが、目くらましにはなる。


「ケンジ、そのまま、右側の奴に突っ込んで」


美月が叫ぶ。突っ込めってか? 何をするつもりだ。いや考えててもしかたがないここは美月を信じるとしよう。


「ジョージ、シールドお願い」

「ほいな。防御シールドを前方に展開」


敵は明らかに戸惑っている。そりゃそうだ、いきなり相手が突っ込んできたわけだから。慌てて進路を変えようとするその脇をすれ違いざま、美月が側面にフェイザーを打ち込む。


「敵4番機、機関部破損、戦闘能力喪失」

「ケンジ、上昇反転よ」

「了解」


俺は、機首を思い切り上げて宙返りをかける。まぁ、この上下という感覚は相対的なものだが・・。宙返りを終えたあたりで反転しつつある敵機が視野に入ってきた。


「サム、ジャミング解除を」

「了解、ジャミング解除」


サムが言うのとほぼ同時に美月が短距離ミサイルを2発発射。敵は慌てて逃げようとするが、もう遅い。ミサイルが敵機に吸い込まれる。


「敵5番機撃墜」

「美月、やるな」

「SF1Bは側面の防御が弱いって聞いたことがあるのよ。ちょっと賭けだったけど」


さて、次は・・・


「目標、240、183」

「了解、コースセット」

「長距離ミサイル射程まで15秒」


今回もサムが敵の弱点をサーチして指示してくれる。


「ターゲットロック!」

「よし、長距離9番、10番発射、続いて11番発射」


美月が長距離ミサイルを発射。今回の目標はあっけなく破壊。防衛は戦闘艇に頼っていたのだろう。


「さて、これで3目標。ミッションは一応、成功だけど・・・」

「どうする?いっちゃう?」


とケイ。


「どうせならコンプリートしようよ」


とジョージ。やはりこのチームは危険かもしれない。


「長距離ミサイルはあと一発しかないのよ。どうするつもり?」

「それは僕に任せてくれよ」


おいおい、ジョージ、何をする気だ?


「ジョージったら、またインチキするわけ? 懲りないわね」

「インチキとはひどいな。本来SF2Aは長距離ミサイル20発を搭載出来るんだよ。なのに、このシミュレーションでは12発しか積んでいない。そっちのほうがインチキだよ」


どうやら、ジョージはシミュレータをハッキングしてミサイルを増やそうとしているようだ。まぁ、これはゲームだから、裏技ってことにはなるんだが。


「よし、できた」

「驚いたわ。長距離ミサイル残数が9発になった」

「ついでに、ラスボス対策も入れといたから」

「え、ラスボス対策って?」

「それは後のお楽しみさ」


こいつら、楽しんでるな。いや、これはゲームだ。そうだ、俺も楽しめばいいじゃないか。


「皆さん、ちょっといいですか?」


とマリナが後ろの席から声をかけてくる。


「ちょっと皆さん、ストレスのレベルが上がってきてるので、あまり無理はしないほうがいいですよ。集中力が10%ほど低下してきてますから」

「大丈夫だよ。マリナ」

「そうそう、マリナちゃん、心配性なんだから」


おいおい、メディカルの忠告は無視しちゃいかんだろ、お前ら。


「わかった。それじゃ、続行するが、マリナがこれ以上無理だと判断したら撤収するぞ。いいかな」

「ほーい、了解。さて、お次の目標は?」

「探索中・・・弱いけど、それらしい反応を確認。方位、165、090、距離1800万Km」

「標準速度で1分ってとこかな」

「コースセット、いくぞ」


俺たちは、戦闘を、というかこのゲームを続行することにした。だが、ここから先はたぶん、一気にレベルが上がる。ゲームオーバーにならなきゃいいんだがな。

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