侵入者 三


―― 誰よりも強くなりたかった。


 まだ立ち上がることもできない赤子だった俺の顔を、一人の女が覗き込んで来た。


 その青い瞳は、まるでとびきりの宝物を見付けたような、無垢な喜びに輝いていた。


―― それが無性に癇に障った。

 

「お前の目、竜みたいだな!」


 視界の中の景色が変わった。

 高く、高く。

 女の腕に抱え上げられて、今度は俺が女を見下ろしていた。


―― 不快だった。


―― それが何か分からず、ただただ不快だった。


―― もし言葉を吐けたなら、力の限りに女を罵倒していた。


「決めた! お前はアタシの子だ!!」


 女の姿が、俺を捨てた誰かと重なった。

 

―― ああ、結局。


―― 俺は……。


* * *


 引き金を引いたのは五人。

 吐き出された弾丸は、しかし魔力で強化した流威の皮ふを貫くには至らず。


「!?」 


 顔と腹に拳を打たれた五人は水平に飛んで地面を跳ねて、泥まみれで止まった後は、死体のように動かなくなった。


「イッテ~。流石さすがにちょっと近過ぎたか」


 えぐれ、赤く、血のしたたる両手の甲をペロペロと赤髪の少年はめる。


 その無防備な隙だらけの姿に。


 今撃てば殺せると男達は思い。


―― 空気に混じる冷たい殺気ナニカ


 引き金に掛ける震える指を誰も、動かすことができなかった。


「く、くくく。いい、いいなぁ、お前」


 一人が楽しそうにわらう。


 その男へと目を細めた流威は、口の端が釣り上がる前に、一応は戯言ちゅうこくを告げることにした。

 

「もしかして気付いていないかもしれないが、ここは私有地でお宅らは不法侵入者。ここでゴメンナサイって言うなら、警察への通報と、後日の損害賠償と慰謝料で勘弁してやる」

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サラマンダア×マンダラ ~ 神代に在りし最強の魔龍は、現世に人となりて惑う ~ 大根入道 @gakuha

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