第2話 マソドラゴラとの出会い
この学院の種苗研究室は、実家が山持ち、薬草園、毒草園持ちの者が多い。
いずれ跡を継ぐ者、継がなくとも実家で扱っている商品について詳しく知りたい者が集まる。
かく言う僕も、祖父の代からの薬草園持ちで、父が二代目、僕自身は三代目を予定している。
今回卒論を書くにあたり、ニポソ産マソドラゴラに着目したのは、子供時代のある出来事からなる。
いわゆる西海の……つまり、本来マソドレイクと呼ばれるものは、主にマソドレイク気候で多く産出される。
気候は年間を通してカラッとしており、温度も比較的一定である。
そちらで採れるマソドレイクは、陽気で、引き抜かれる際も【悲鳴】ではなく【歓声】をあげ、拍手するものも多いと聞く。
転がる岩石を聞かせて引き抜くと、手拍子と口笛も吹くとか。
対して、ニポソ産マソドラゴラは。
小さい頃、僕は実家の薬草園のすぐ裏にある山でよく遊んでいた。
ここの山だけでなく、実家から見える範囲の山は、全て僕の実家が所有している。
ある日、いつものようにすぐ裏の山へ向かい、ちょっとした冒険心で、禁止されている他の山へ入り込んでしまった。
はじめは気分が高揚していたが、だんだんと薄暗いところに差し掛かり、不安が芽生えてきた。じめじめとして、日が当たらない、暗い場所。
急に風が吹き、体が冷え、ぶるりとした僕は、引き返そうとして、誰かの声が聞こえるのに気付いた。
「……ここの面を……もう少し……あっ、飛ぶんじゃない、降りるんだよ……」
何かぶつぶつと言っている。
僕は怖さ半分、好奇心半分、おそるおそる近付いた。
そこは斜面の暗がりに、ぽっかりと穴が空いている場所だった。
何やら呟くものは、ヒトの形をしているが、頭からツヤツヤした緑の草と紫色の花が咲いていて、体は暗い紫と茶色が入り混じった色をし、ヒトではないとすぐにわかった。
「……あっ! ジャンプだって! キノコ取らなきゃ! ……ああっ!」
三角座りで座ってじめじめと暗い場所で独り言をぶつぶつ言っている、、、変わった色のマソドレイク。
よく見ると、手元に何か持っている。
あれは……旧い魔導具?
「……はあ。ダメだ……。また7ー4面で死んだ……はあ……」
溜息をつき、動きが止まる。
僕はそっと忍び寄り、挨拶してみようと思った。
「こんにちは! 何してるの?」
「……はあ。ついに妄想の声が……って、ぎゃあああああ?」
まずい。引き抜いてないのに叫ぶと思わなかった。
が、どうやら大声を出しただけで、魔力は発動していない。
「まさか……人間……か?! テンセイしてから初めて会う……!」
耳がまだキーンとしていて、マソドレイクとの第一声は、何を言ってるのか分からなかった。
その日はマソドレイク……名前はタケルと言うらしい……と、簡単な自己紹介をして、薄暗くなる前に家に帰った。
持ってたおやつのリソゴの実を分けると、「りんごだ……」と、喜んで食べていた。
ちなみにタケルが持っていたのは、げえむ機、と言うものらしい。
よく分からなかった。
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