第20話 判決と準備

 1月8日――。


 祐介の3回目の公判が始まった。

 が―――。


 「検察官、追起訴があるそうですが?」

 「あ、そのつもりでしたがなしの方向で…」


 と言うわけで、なんとこの日は全く何もせず終わった。

 来る時間と待ち時間合わせてざっと3時間はあっただろう。

 それがまるまるムダになったのと、傍聴していた家族を始め、その他の人たちも


 「は?」


 みたいな雰囲気で祐介を見ていたが、


 (いや、これは俺のせいじゃないぞ)


 と思った。

 


 そもそもこの追起訴するっていうのもS警察署での誤認逮捕の件だから、祐介の自供が得られない以上やった、という証拠もない訳でこの件だけに焦点を当てるならば検察側に勝てる見込みはなかった。


 それなら最初から追起訴するなんて言わなきゃいいのに。


 とにかく何もせずに帰る訳だが、これで全ての工程は終わり、ついに結審した。

 検察側は祐介に対し


 「懲役4年を求刑します」


 と、言った。

 裁判官は次の判決の日までにこの求刑を元にして祐介の処分を決める。


 基本的に求刑以上の刑になることは無いし、どっちかと言うと減刑されることの方が多い。

 そして初犯ならばだいたい執行猶予がつく。

 祐介は初犯だから誰もがそのつもりである。示談していればなおさら。


 だが祐介は示談が取れなかった。

 祐介は被害者やその家族に謝罪の手紙をしたためた。

 示談とは基本的にお金を包む。いわゆる慰謝料。

 すみませんでしたという気持ちをお金で表すことが一般的である。


 だが、祐介の場合示談金は受け取って貰えなかった。

 手紙は受け取って貰えたようだが、こういう性犯罪の場合だとやはりもう関わりたくないと思うのが被害者の心情の多くであり、謝罪の機会すら貰えない場合も多々ある。


 そういう事もあり、正直なところ執行猶予がつく確率は八割といったところだった。




 そして判決の日―――。


 判決は単刀直入に行われる。


 「主文、被告人を、懲役三年の刑に処す。なお未決通算百七十日を右刑に算入する」


 執行猶予はつかなかった。いわゆる実刑判決というやつだ。


 【未決通算の算入】というのは、逮捕されてから判決が出るまでの間、もしくはその一部を懲役から、祐介の場合3年の懲役から170日を引いた日数が祐介が実際に刑を受ける日数ということである。

 逮捕からの時間も刑務所で生活したことの一部としてカウントされるのだ。


 この判決から2週間の間、控訴するかしないかの期間が与えられている。

 この期間に手続きし、控訴すると場合によっては弁護士が変わり、再び裁判が行われる。


 【控訴】とは、判決が不服であるとして、もう1回裁判をやり直してくださいという事。

 例えば冤罪であるにも関わらず実刑判決を受けた場合が普通であるが、中には刑務所に行くための準備期間として先延ばしする者や、単に行きたくないからという理由も存在する。


 祐介もこの時準備はしておいた方が良いと聞いていたので、控訴して準備に入った。


 具体的には、刑務所に持って行けるもの持っていけないものの選別と物を差し入れしてもらうこと。


 まず本やノート、筆記用具、黒や白の無地の下着類、身の回りの生活用品(ハブラシや石鹸)。そして無地のタオルに靴下。


 そしてこれまで使用していた私物の洋服は持っていけず留置されるので、家族などへ宅下げするなどをしなければいけない。

 厳密にはしなければいけない訳ではないが、刑務所へ移動する際自分の荷物は自分で持っていかなければならず、鎖で繋がれたまま大量の持っていくのは難しいので、是非とも宅下げする事をオススメする。


 祐介はこの為の準備をする為に控訴し、しばらく味わえないお菓子や余暇時間を存分に楽しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る