第17話 厄介者がいなくなる
年末も近づいたある日、また1人入所してきた。【北岡】と言うその人物は特殊詐欺の受け子をしたらしい。本人に詐欺の片棒を担いでいた自覚はなく、報酬も100万ほどと少額。まぁその報酬の多さの時点で気づくべきだったのだが、本人は気づかずしかも逮捕。目も当てられない。
さらに泣きっ面に蜂なのか、求刑が10年もありすでに7年実刑という判決が出ていた。
「【控訴】してどんだけまかるかだけど、オリンピック間に合うかなー……」
【控訴】とは、一審で受けた判決を【不服】とし地方裁判所から高等裁判所でクラスがあがり再度裁判をしてくれと言う意味である。似た言葉で、
【上告】があるが、これはさらに上にあがり、高等裁判所で受けた判決を不服とし、最高裁判所に場所をうつし再度裁判をしてくれ、ということである。
この頃から内藤がやりたい放題やり始め、役割分担もやらず昼ご飯や夜ご飯をかけて何かしらの勝負をしかけてくる。
もちろん見つかれば調査になるものの、ここで無理にケンカをしては同じく調査になる為、穏便にすませるには泣き寝入りしかなかった。
「よぉーしハンバーグかけてジャンケンしようぜ!」
ここで他の誰かがジャンケンで、勝とうものなら何度もやり直しをする。そんな人として最低な人間だった。
「サンちゃん俺の舎弟にならん??面倒みちゃるよ」
【サンちゃん】とは内藤が祐介につけたあだ名。某芸人に似てるという所でつけられた。塀の中にいるおかげでロクに運動も出来ないのと、内藤への差し入れられたお菓子の分け与えによって体重は外にいた時よりも10キロは太っていた。
「いや、ならなくて良いよ。やりたい事もあるし」
「やりたい事ってなに?俺が手伝ってやるよ」
「いやいや、自分の力でやりたいから」
そんな、やりとりも何度もあった。この誘いは前川にもあったらしく、前川はその若さと考え無しの行動力で舎弟になる事を選んだ。
そしてこの選択のせいで前川は大変なことになり、祐介やその他の人は助かることになる。
ある日のこと――。
いつものように祐介と前川が将棋を指そうとしてるところを邪魔する内藤。そんな時突然鍵を開ける音がして扉が開き、数人のオヤジたちが現れた。
「内藤と前川。荷物まとめろ」
突然のことに戸惑う2人。いや、祐介や他の人もしっかり戸惑っていた。
荷物をまとえ終えた2人は部屋から出るように促された。そして部屋から出ると別々の方向に歩いていった。
「なんかあったんかな??」
「調査になったとか??」
「でもどうやって??部屋にいる時はなんもなかったよね??」
「なんにしても内藤が居なくなって過ごしやすくなるだろ?」
とみんなしてスッキリしていた。ただ前川がいなくなったのは寂しくなるが。前川と祐介は将棋仲間。目が合えば将棋を指すポーズを取りすぐに対局が始まる。そんな2人だったが、もう出来ないとなると残念だった。
数分したのち、担当のオヤジがやってきた。
「おいお前ら。ここは友達作りにきてるんじゃないからな。 お前らはそんな事すんなよ」
後から知った事実だが、どうやら前川は内藤が手紙で面倒見る、面倒見てもらうという内容の手紙を書いたとのこと。
手紙は留置場でもそうだが必ず内容を検査される。目的は当然不正のないように。
手紙で証拠隠滅をして欲しいと頼む人や脱獄の手伝いの要求をする人間もいるからだ。
こうして穏やかな年末を迎えることが出来るようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます