第16話 公判2回目と仲間の入れ替わりの激しさ

 しばらくして、2回目の公判の日が来た。


 この日は起訴内容に基づいた証拠提出。警察が調べた内容や物などの書類を裁判官に提出し、被告人が犯人であると実証。


 その証拠とは、例えば事件当時の服装。被害者や目撃者などがいればその証言をもとにして押収した衣服の写真を撮影添付したものであったり、街中にある防犯カメラの映像写真、さらに必要であればDNA鑑定や指紋などの照合などとたくさんある。


 「弁護人は証拠品についてなにかありますか?」


 「しかるべく」


 「では今日の法廷はここで終了いたします。検察官次の予定は?」


 「は…はい…えーと……はい次は追起訴の予定をしています」


 「わかりました。それでは――」


 という感じで2回目は終了。裁判系のドラマのように検察と弁護士がやり合うような事はほとんどの場合ない。

 被告人の大半は自供しているし、互いがやり合うほど複雑な事件も意外と起こっていないのだ。




 その後近藤は罰金で釈放され、次に田久保は刑が確定し、別の部屋へ移動していった。

 刑が確定するとどの刑務所に移送するのか選定する場所へ移動させられる。これを【確定に上がる】もしくは【――に降りる】という。

 この確定については祐介が確定した時詳しく説明をする。


 それから田久保についての噂を聞いた。田久保は運動の時、その筋の人に出所後世話をしてもらう約束をしていたようだが、その話をした時はその人がその筋の人だと知らずにお願いしたようで、その事を知った田久保は手紙で、「組の人なんて知らなかった、この話はなかったことにして欲しい」と、送り付けた。

 この事でその筋の人本人はブチ切れしているらしく、もし田久保を見つけたらただじゃおかないと言っていたらしい。


 運動については留置場とは少し違い、屋上へと案内される。ここでは走ったり縄跳びしたりと出来ることが多い。

 しかも他の部屋の人と一緒なので人数も多いので交流が深まったりするのだ。

 ただし、累犯と初犯の人は別々。初犯の人は11室や13室など奇数部屋に、累犯は10室や8室などの偶数部屋に入る。

 累犯と初犯が一緒になる事は決してない。




 田久保の口癖は、


 「俺の時だーけ、良いよ良いよ良いよ良いよ」


 だった。将棋を誘っても誰も指してくれず、だが他の人は田久保以外の人とは指すからだ。自分の原因を反省することも無く去っていって他のメンバーはせいせいしていた。

 祐介もそう時間はかからず田久保と将棋どころか話すことすら少なくなった。そういう事もあり、田久保と話した記憶はあまりない。


 

 次に東浦が確定に上がった。東浦は負けず嫌いでしょっちゅう祐介に将棋を挑んできた。

 しかしほとんど勝つことが出来なかった。東浦が負けて悔しかった原因の1つに、11室で流行っていたあるセリフがあった。

 それは勝った人間が負けた人間に、


 「よっわ…」


 とセリフを吐くこと。

 真顔でこれを言うことが流行っており、言われた側はとてもムカつく。そしてそれを見てまわりは笑い転げるのだ。

 だがそんな東浦も確定でいなくなり、少し静かになった。

 東浦は関西人らしく笑いを取りに行くことが多かったのでその相手がいなくなったので必然的に静かになったのだ。



 祐介は番席が繰り上がっていき、3番席となり3人だけとなった。

 だがそれもつかの間、【松田】という人物が入所して4人になった。松田は自分の娘をレイプしたという事件で逮捕起訴されたと言う。

 だが本人は否定。裁判で戦っているらしかった。


 それからすぐに川津も釈放された。どうやら執行猶予判決で出たようだった。川津とは将棋で散々盛り上がった。

 普通に指すのではなく、秒将棋として考えずに指さなければならないというルールで、少しでも考えていれば相手が勝手に動かすという過酷ルール。勝負はいつも30秒ほどでついていた。

 川津もひょうきんな人間で握りっぺをかましてくる。祐介も負けじとケツを向け屁をかますという毎日だった。

 部屋の中だけの生活であったがこの笑いなんかがあったおかげで、余計なストレスを感じる事はなく真摯な気持ちで裁判を待つことが出来た。


 裁かれる人間がこんな楽しい生活で良いのか、と思われる方もいると思う。

 しかし、部屋からほとんど出ることができないのはやっぱりストレスで、それほどの事をしたんだからと言われたらそれまでだが話し相手もおらず何の娯楽もなく笑いもない生活だとしたら、自暴自棄になる人間も多くいるのも事実で裁判が正常に進まないこともある。

 しっかりと反省させ正常に裁判を進めるためには必要なことなのかもしれない。


 祐介はこの川津と前川のおかげでしっかり裁判に挑めたのもまた事実だった。


 松田という人物は見た目は強面で気難しいような人に見えたのだが、この人も実に面白い人物で祐介は最後には「パパ」と呼ぶまでに仲良くなっていた。


 食事の時当番制でご飯を貰い配る人と、お茶をストックしておく為の大きめのウォーターサーバーを準備する人がオヤジによって指名されている。

 この松田が食事をもらう係だった時、食事と願箋の時と同じく1番席の人がいる近くの窓から受け取るのだがケツを向けているのをいいのとにまるでサルのようにケツをこすりつけてくる。

 祐介もそれをあしらうようにケツをたたくのだった。

 一件なんでもない事だがこれがオヤジに見つかるとひどく怒られる。接触行為は基本的に禁止なのだ。

 この松田は祐介のこれからの生活にとって気持ち的にとても大きな存在の1人となる。


 これから年末に入ろうかという時【内藤】という人物が入所した。

 この内藤は若くやんちゃ盛りで、しかもその筋の人と繋がる人物だった。

 毎日のように差し入れが山ほど届く。とはいっても差し入れにも個数制限がある為毎日の最大数が決まっているが、それでも1人では消化しきれる量ではなかった。


 祐介や、ほかの皆は半ば強引な形で押し付けられ食べる羽目になった。

 もしバレれば調査は免れないが、オヤジも状況を察してくれているのか、気づいてないフリをしてくれていた。

 まぁ大っぴらに見つかってしまったら見ないふりは出来ないだろうが…。


 そんな檻の生活のまま年末が近づいてくるのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る