第14話 いつまでやるつもりなのか

 その次の日。祐介は調べで呼び出された。

 そしてまた再逮捕。またも身に覚えのない事件について容疑をかけられたのだった。


 だが調べの内容はその前に逮捕されていた事件について。刑事はまだ諦めていなかったのだ。


 刑事が何かを持ってきた。それは事件があった場所の地図。祐介が待ち合わせをした場所から数十キロも離れた場所だった。


 そして刑事はある写真を持ってきた。それは事件現場付近のコンビニの防犯カメラの映像をプリントしたもの。そこにはコンビニの横を通り過ぎる黒い車。

 コンビニを通り過ぎた車はその先のラーメン屋の駐車場に車を停め、事件の容疑者と思われる人物は車をおり引き返している所が映し出されていた。


 「これは君だよね?」


 と見せられてはいるが画像が荒く、とても祐介本人と思えないものだった。


 「これじゃあわかりません」


 「どう見てもお前やろうが!」


 と大きな声でどなられた。しかし、誰がどう見ても祐介と特定するには画像が悪すぎて判別は難しいだろう。

 車の写真にしても同じように荒く、ナンバーすら見えない。


 「画像がいいやつを持ってきてもいいんだぞ」


 と意気込んではいたが祐介は、


 (じゃあ最初から持ってこいよ)


 と思っていた。結局その後、その画像がいいやつを持ってくることはなかったが。


 さらにいうとその写真、防犯カメラの日付や時間自体事件当時の時間とはズレがあり、捏造したんじゃないかと思うほどめちゃくちゃだった。


 それだけでも変なのに、次に変だったのは事件が起きた時間。S警察署で最初に逮捕された事件をA。今回逮捕された事件をBとしよう。


 Bの事件はAの事件よりも10分ほど早い時間に起こっている。地理的にはBはAの現場よりも数キロ西。

 そして祐介の車と思われる車の進行方向は、Aの現場付近から西へ向かうところが、映し出されていたのだ。

 どう考えても事件を起こすには無理があった。

 刑事はこの辻褄を合わせるために、待ち合わせ場所から一旦西へ向かい、そこから数十キロ南下してからBの事件を起こし東へ向かう。それからどこかでUターンしてAの現場へ行ったんじゃないかというストーリーを作り上げ、地図を見て説明しながら言った。


 「事実待ち合わせ場所から西に行った証拠があるぞ」


 と言っていたが実際にはそんな証拠はなく、祐介が西へ向かったという事実すらそもそもなかった。


 「この写真見てみろ、この服お前の服やろ?」


 「上着ですか??」


 「そうだ。お前ん家にガサに行った時俺もおったんぞ。この服見つけるためにな」


 実はこの刑事、言う通りガザに来た時部屋にいたようで、思い返してみれば「あった!目つけた!」と1人がいっていたのを思い出した。

 刑事が見つけたのは黒のダウンコート。裏地はヒョウ柄の安物だ。


 「ポケットの位置も写真と全く同じようについてたぞ」


 ポケットの位置なんざだいたいどれも同じような場所についている。それをさも見た事かと威張っている刑事が哀れでならない。

 祐介は心の中でため息をついた。


 


 そんなやり取りが数日続いた後、再び調べへ呼び出された。

 いつもの調べ室ではなく、刑事たちが仮眠する畳部屋に入れられた。


 そこで自分はやっていませんという調書を作成した後、刑事が喋りだした。


 「絶対に諦めんからな。徹底的にやるから覚悟しとけ」


と言っていた。


 これは後で聞いた話だが、この刑事は最初祐介の親に、


 「正直に話すよう親御さんからも言ってやってください」


 と話していたという。

 親は自分の息子が事件を起こしたにも関わらず事件を否定していると最初は思っていた。

 その時点で信じてくれているのは弁護士さんだけだったのだ。しかし、尚も否定を続ける祐介に親は考えを変え、初公判の時刑事に食ってかかったという。

 そして弁護士さんもその刑事にすごく抗議してくれたらしかった。



 再び検察庁へやって来た祐介。検察官と対峙し私はやっていませんと言う内容の調書をつくった。誤認逮捕はされてしまったが、調書を捏造されなかっただけまだましだった。


 「最後に1つだけ聞いていいか??」


 と検察官は言った。


 「今回逮捕された件の場所は〇〇区ってとこなんだけど、どんなイメージがある??」


 「都会って感じですかね?〇〇駅の周辺みたいな」


 それを聞いた検察官は少し頭を抱え、険しい表情をしたがすぐに元に戻った。




 数日後、再び刑事に調べに出された。また再逮捕されるのかと内心ガックリきていたが、今回そうではなかった。


 刑事が持ってきた書類、それは押収品還付目録だった。つまり、ガザで押収した証拠品を返還するという書類だ。

 そこに祐介はサインをし、母音を押す。


 「もし話したくなったらいつでも、待ってるからな。じゃあ達者でな」


 そう言って刑事は祐介を部屋へもどしたのだった。やっと終わったのだと祐介は安堵した。

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