第10話 移送

 全ての準備が整い、祐介のもとに【公判期日召喚状】というものが届く。その名の通り、日にちが決まったのでこの日に裁判やりますよという通知だ。



 下記被告事件について、次の通り公判を開廷するから出頭されたい。

 正当な理由がなく出動しない時には、公引状を発することがある。


 期日  平成28年7月20日午前11時20分

 場所  当裁判所第6法定(1階)



 このように詳しくかかれた書面が見せられる。こうしてこの日に公判が開始されることとなった。



 後は裁判を待つだけかと祐介は思っていたが実はまだやるべき事があった。それは拘置所への移送。基本的には調べが全て終わると【拘置所】へ移送させられる。ここは調べが全て終わり裁判だけの状態になった人が送られる場所。

 裁判待ちの人間は多い。警察署だけでは入りきれないほどの量だ。

 祐介がいたC警察署でも、毎月計10名は入ってくる。順次いそうさせないとパンクしてしまうのだ。


 「兄ちゃんもそろそろ拘置所移送やね。あっちの方がここより良いぞ。お菓子も食べれるし本も買える。飯も美味いぞ」


 「ほんとですか?」


 「あぁ。将棋盤とかもあるからここより暇も潰せるし行けるなら早く行った方が良い」


 と累犯の裕也さんも言っていた。裕也さんはその筋の人ではあるが面倒見の良い兄貴と言う感じで、そこで接しただけであればとても悪い人には見えなかった。辛かった時に勇気づけてくれたり相談にのってくれたりした。信用はしきれなかったが信頼の出来る相手だった。


 そしてその次の日、調べで呼ばれた祐介は悪い予感がした。調べはもう終わっているはずだったからだ。そして、祐介を呼びに来たオヤジも、どこか気まずい雰囲気を発していた。


 案の定予感は的中した。調べに出した刑事は今までの人とは違い見たことない人物だった。


 「俺はS警察署の山田だ。今日は君に話を聞きたくて来たんだけどなんの事かわか?かな?」


 「???いやわかりません」


 「俺もガサしてる時にいたんだけどね」


 「はぁ……」


 「まぁいいや、話聞きたいのはね、中央区の〇〇ってとこの事件なんだけどそこでも事件起こしてるよね??」


 「……??いや、自分じゃないと思います」


 「よーく考えてみ?今ならまだ言い直せるよ」


 ガチャ


 そこで取調室の扉が開いた。どうやら健康診断の日だったようで、順番が祐介に回ってきたのだ。

 刑事が留置場に戻そうとイスから手錠をはずしていると、


 「良かったやんか、考える時間ができたぞ。よーく考えてちゃんとした答えを出せよ」


 と言った。そうはいっても祐介には全く身に覚えが無かった。それは調べが終わった後ずっと考えても全く知らないことだった。


 健康診断と言っても大したことする訳ではなく、申し訳程度に心臓の音を聞き、眠れているかどうかなどの問診をする。必要なら薬を処方される。その程度の簡単な事だ。


 診察が終わり調べに戻る。


 「どうや?考えはまとまったか?」


 「やっぱり知りません。自分じゃありません」


 「あそう。良いよ今日は君の考えを聞きに来ただけだから」


 そう言って刑事はにやにやしながら去っていった。



 それから数日後、オヤジから呼ばれ別部屋に移動した。そこで見せられたのは移送通知。ようやく拘置所に行けるのかと思っていたら、


 「よく見てみ」


 と言われた。祐介は改めて通知を見てみると、移送先はS警察署となってた。

 祐介は目の前が真っ暗になったかのようにショックを受け、沈んだ気持ちになった。



 S警察署の刑事が帰ってから、この事についてオヤジにしょっちゅう相談をしていた。


 「大丈夫、なんも証拠ないなら移送されたりしないから」


 と勇気づけてくれた。裕也さんも励ましてくれた。


 しかし、そんな励ましも虚しくS警察署に移送されてしまった。

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