第8話 起訴
少しして祐介にある書面が届いた。【国選弁護人選任通知】だ。
裁判にかかる被告人には例外なく弁護士がつく。被告人にお金がない場合や弁護士に知り合いがいない時など、国がお金を負担してくれ弁護士を選任してくれる。
逆に知り合いの弁護士がいる場合で自分で選任する時は【私選弁護人】として依頼する事ができる。
祐介は知り合いの弁護士がいなかった為、国選として弁護士を頼んだ。その弁護にたってくれる人物が決定したのだ。
平成28年 第〇〇〇号
被疑者 熊谷 祐介
被疑事件 強制わいせつ
被疑者 熊谷 祐介 殿
F地方裁判所
裁判書記官 池 田 智 洋
頭書の被疑事件について、下記の弁護士が、国選弁護人に選任されたから通知します。
弁護士氏名 李 健鉄
事務所又は住所 F県〇〇区〇〇 〇〇ビル3階
TEL 〇〇〇-△△△-□□□□
F県弁護士会
このような書面であった。
それからしばらくして57番が釈放された。どうやら起訴猶予、罰金で終わるようだった。起訴猶予とは、簡単に言うと事件としては記録に残るが裁判では裁きませんというようなものだ。
不起訴とほぼ同義ではあるものの若干ニュアンスは違ってくる。そこはおのおの調べて欲しい。
57番は檻を出る時、座った状態で1度祐介に向き直り、「ほんとうにありがとうございました、貴方がいてくれたおかげで精神的に救われました」と言ってくれた。
祐介は小さく「良かったですね、元気で頑張ってください」と言った。
10日勾留の間調べが続く毎日だった。唯一土日の休みだけがゆっくり出来る日で、ゆっくり本を読んだりただただ眠ったりと静かな時間が流れる。
祐介は10日勾留ののち、さらに10日の拘留が打たれた。この10日が終わる頃起訴されるのか不起訴となり釈放となるのかの結果が出る。
祐介のように重大な事件を起こした場合だいたいは起訴され裁判にかけられることになる。
この合計20日間が終わる頃、祐介に起訴の通知が届いた。
起訴状
F地方裁判所 殿
F地方検察庁
検察官事務取扱副検事 康里 慎也
下記被告事件につき公訴を提起する。
本籍 〇〇
住居 □□□
職業 会社員
勾留中 熊谷 祐介
公訴事実
被告人は、徒歩で通行中の甲斐愛美(とうじ23歳)を認め、同人に強いてわいせつな行為をしようと考え、平成28年3月5日午後5時30分頃、F県C市T山二丁目10番地12付近の歩道上において、その背後から同人に抱きつき、その着衣の上から同人の乳房及び臀部を手で鷲づかみにして執拗にもみ、もって強いてわいせつな行為をしたものである。
罪名及び罰条
強制わいせつ 刑法第176条前段
そしてその書面と一緒に送られてきた書面が1枚。
通知書
上記事件において、本日、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定がありましたので、通知します。 以上
これは性犯罪事件の裁判ではよくある事で、つまりは被害者の精神をこれ以上傷つけない為の配慮である。
これで裁判が開始される準備はだいぶ整い、日にちが決定するのを待つのである。
たが人や事件によっては余罪の追求もあり、祐介も例外なく続きが待っていた。
それからしばらくして同じ部屋に69番が入ってきた。20代前半の若者。その若者は窃盗で捕まったと言っていた。
その若者とはなかなか話しが合い、歌当てゲームやしりとり、お絵描きなど色んなことをしてヒマをつぶした。
その若者は窃盗で捕まり在宅起訴(警察に勾留されず自宅で通知を待つ)され裁判の日取りも決まっていたにも関わらず、近所のスーパーで万引きをしてしまった。その後店員に捕まりそうになった所を振りほどき車で逃走したのだ。
そこで窃盗で逮捕されたのだが、下手をすれば【強盗】になってもおかしくなかった。
強盗と窃盗の違い。それは、怪我などした人や人から直接強奪したかどうかというのが分かれ目。
万引きした人を捕まえようとした人が怪我した場合も強盗となる場合がある。
この若者の場合振りほどいて逃走している時に捕まえようとした店員が転んでいるので、強盗になってもおかしくなかった。
強盗と窃盗では刑期がだいぶ違う。窃盗であれば3年以下の懲役、強盗であれば最低でも5年は入らなければならない。
この若者はそのぎりぎりの所で窃盗となった。
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