第7話 入浴と面会


 ――木曜日───


 この日は朝から慌ただしかった。おやじがいつもより多く、何やら準備をしていた。が、すぐにそれは分かった。番号の若い者から順に連れ出される。タオルと石鹸、シャンプーを持って向かう先はふろ場だ。


 ふろ場は2畳ほどの広さに2人が座って入れるほどの浴槽がある。入浴時間もきっちり決められていて、その時間は15分。他の人間にも入浴をさせないといけないし運動もある為に決められた時間だ。



 昔は風呂で使えるお湯は、洗面器20杯までと決められていたようだが、最近ではそんな事はあまりない。他の人と話す事も出来るが、時間があまりない為、祐介は無心で身体を洗った。

 なんと言っても頭がかゆかった。この警察署の入浴は、月曜と木曜日の週2回。警察署によって日にちは違うものの、回数は週2回で固定。その為頭がかゆくなる。その為この入浴も楽しみの一つになる。

 とはいえ、15分の短い時間。ゆっくりしている時間はなかった。

 急いで身体を洗い、少しでも長く湯船につかれるようにする。唯一の安らげる時間だ。


  (はぁ…風呂にもマトモに入れないなんて…)


 普段何気なくやっていた事がこんなにも幸せなことだと、痛感した。


  (自由がないってこんなにも辛い事なのか…)


 そう思っているうちに、


 「そろそろ時間だぞ」


 と言われ、名残惜しみながら湯船を出る。


  (こんな暮らしいつまで続くんだろうな)


 そう祐介は思ったが、まさかそれが3年も続くとは思ってもみなかった。



 入浴が終わり、4室で一息つくと、また調べがやって来た。調べはいつも通り、聞かれて答える、刑事はメモを取る、の繰り返し。

それは永遠とも思えるほど長く感じ、頭がおかしくなりそうだった。

 だがそんな祐介に気を使ってか時折雑談もしてくれた。お茶も用意してくれた。最初の刑事とはえらい違い。ただ追及するだけの刑事よりよっぽど喋りやすく、素直になれた。



 1時間ほどたっただろうか、突然別の刑事が現れ調べをしている刑事に話しかけた。

何かを聞いた刑事は、


 「ちょっと部屋に戻すから、また後でな」


 と言ってイスに結びつけた紐を外し、祐介は部屋に戻された。

 すると看守のおやじがやって来て、


 「55番、面会だぞ。御家族かな」


 「あ、はい……」


 部屋を出され奥の部屋に連れていかれる。

面会時間は30分と言われた。部屋に入るとそこはテレビドラマで見た事のある、あの感じの部屋だった。

 約4畳ほどの広さで真ん中で仕切られており、ガラス越しで対面した。


 広さは6畳ほど、中央には仕切りがありガラスで阻まれている。そこを挟んでイスがあり、対面して座る。祐介の横には別に机があり、そこでおやじは待機し話の内容のメモを取るのだ。


 「ちゃんとご飯食べてる?ちゃんと寝れてるね?」


 母親が1番に言葉を発した。出る言葉は祐介の事を心配する言葉。しかし、祐介は言葉を発することも出来ず顔すらもまともに見る事ができずただ頷くだけで精一杯だった。


 「しっかり反省して、なんでもかんでも正直に話しなさいよ」


 なぜ事件を起こしたのか、そういう事には一切触れなかった。逮捕されたからと言って事件の話をする事は意外と少ないようで、他の人も面会の時にそういう話をする事はあまりない。

 それよりも、やはり体のことを心配してくれたり今後のことを話し合ったりと言う話が主だった内容だ。



 30分の面会時間が終わりタイマーがなった。どちらも名残惜しいが担当のおやしが退出を促し、部屋を出る。

 それから調べの刑事が呼びに来るまでまた部屋で待つのだ。

 祐介は改めて後悔し、1日でも早く出たいとそればかりを願った。


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