第6話 仲間来たる
次の日から改めて取調べが開始された。
「今日から俺が取調べするから」
いつもの部屋でそう言った刑事は、今まで取調べしていた刑事とは違う、少し優しめな印象の男だった。今までの刑事は頭ごなしにどなり、自分の満足出来る回答がこないとイライラしては怒鳴る。
聞いた話だと、検察官は判決が重くなればなるほど成績が良くなり給料に反映されるということで、少しでも重くなるよう刑事にプレッシャーをかけているという噂もある。ホントかどうかは定かではないが。
前取調べを担当していた刑事はかなりプレッシャーを受けていたのか、自分のやった通りのことを白状したとしてもそんなはずはないと一方的に決めつけていた。
だが新しい刑事は違い、祐介の行ったことを素直に受け入れてくれ、しっかり話を聞いてくれた。それもひとつの刑事のテクニックなのかもしれないが、理解してくれていると思えるだけでだいぶ気が楽になった。
家族関係や友達関係等ひとしきり確認が終わったところで本題に入った。
「事件当時は彼女はいた?」
「いました」
「年齢は?」
「27です」
「付き合ってどれくらい?」
「1年くらいです」
「どこで知り合った?」
「彼女のバイト先です」
「何のバイト?」
「メイドのマッサージの店です」
「メイドが好きなん?」
「そういう訳ではありませんけど、昔からずっと通ってて居心地良かったから」
「今まで何人くらいと付き合った?」
「8人くらいでしょうか」
「女の子はどこが好き?おっぱいとかおしりとか」
「強いてどこがっていうのはありませんけど」
「今回の事件では後ろから胸とおしりを触って逃げてるけど、いつもそうなん?」
「大抵は。中には胸だけの人とかもいますけど特に狙ってるって訳ではないです」
「いわゆる守備範囲ってどのくらい?下はいくつから上はいくつまでみたいな」
「下は18くらいから上は30くらいですかね」
それからも女性関係に関する質疑応答は続いた。その間も祐介は座ったままで答えるだけで、刑事は祐介が答えたことに対してメモをとる事の繰り返し。数日間は様々な質問に答えるというのが続くのだった。
この日も調べは終わり部屋に戻されると、部屋の前でおやじが止まり、また1人逮捕された人が部屋に入れられてきた。
呼称番号57番。少しぽっちゃりしてメガネをかけた人物だった。
「仲良くしてくれな」
おやじは祐介にそう言うと、戻って行った。
57番と呼ばれたその人物は入口近くに体操座りのようにうずくまり、両手で頭を抱えた。祐介はとても話しかけれるような雰囲気ではなく、しばらくそっとしておいた。
夕ご飯の時間になりおやじが弁当を持ってきた。祐介は2人分の弁当を取ると、57番に差し出した。
「ありがとうございます……」
57番は静かにそう言うと、静かに食べ始めた。だがすぐに食べるのを辞め、お茶を少し飲み食器口へと置いたのだった。
すると、57番は祐介に静かに話しかけた。
「こ…これからどうなりますか…?」
「え?あの、俺もそんなに詳しくないのですが、流れとしては明日また調べがあって次の日検察庁に行くみたいです。んで次の日には裁判所に行って、拘留期間が決められるようですよ」
「そうですか。僕、刑務所に行くんでしょうか?」
「それは俺にはなんとも…。内容によると思いますし……」
「僕お酒に酔っててあまり覚えてないんですけど、マンションの隣の部屋に侵入したみたいで……」
「はぁ……」
「その部屋には可愛い女の子が住んでて…多分イケない事しようと思ったんじゃないかと思うんです……」
「そうだったんですか……」
「僕妻もいるのになんてことを……」
「俺まだ良く分からないんですけど、初犯だったら刑務所に行くことはほぼないらしいですよ」
「ほんとですか?」
「後は示談したかどうかとかも関わってくるみたいですし」
これも累犯の人に聞いたことだが、被害者がいる場合、示談をする事で刑が軽くなったり不起訴になったりする場合もある。弁護士の手腕に依存してくるが、大事なのは示談できたかどうかの事実が1番重要だ。
「はぁ…。僕はもう終わりですね……」
もし57番が終わりなら、それよりも罪の重い俺はどうなる――と祐介は心の中で思った。
もうお分かりかと思うが、祐介の罪名は【強制わいせつ】。痴漢以上強姦未満。
刑法 第176条(強制わいせつ)
一三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。
とんでもない振り幅だが、内容や回数などによって異なるため仕方ない。
前後というのもおかしいが、準強制わいせつや強姦未遂等もあり、このような事件を起こした容疑者や被告人は総じて性犯と呼ばれる。
刑法については各自で調べてもらいたい。
「げんき出してください。運が良ければ【よんぱち】で出れるかもしれませんし」
「だと良いのですが……」
こうしてこの日は沈んだ気持ちのまま、一日を終えるのだった。
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