第2話 勾留

 引き当てから帰ってくると、すでにお昼になろうとしていた。刑事は一旦調べを中断しようと、祐介を奥に連れていった。

 鍵で閉じられたドアの奥には数人の制服を着た看守がおり、部屋は約十二畳ほど。

そしてさらにその奥、また鍵のついたドアを通ると目の前には横並びで鉄格子の部屋が八室あった。

 その前を通り右奥の部屋に連れていかれた。


 「まずは物品を預かるからな」


そう言って一つの箱を持ってきた。


 「ここにベルトや財布等の貴重品、小物とかを全部入れなさい。部屋には持って入れないから」


そう言われ、持っていたベルトと財布を箱に入れた。


 「今から数確認するからな、えーとまず、ベルト一、財布一、お金が○千円、免許証、ポイントカード……」


 全ての物品の数を書類に書き込む看守。最後に靴も脱がされ、替わりにスリッパを渡される。最後に金属探知機を全身にあてられ、終了。そして最後に、


 「ここでは貴方を名前で呼ばず、番号で呼びます。貴方の番号は55番です」


 そう言い終わると看守は祐介を連れていき、ついに先ほどの【檻】に入れた。ここが【留置場】である。

 部屋のなかはシンプルで、何もない。広さは約六畳半ほどでビニール畳。奥にトイレ部屋がある以外ほんとに何もない。左右は壁でひんやり冷たかった。

 だがテレビドラマと違う所は、部屋を含め全体が明るく、座布団が支給される。といっても、ペラペラであってないようなものだが…。とはいえ、無いよりもあったほうがやっぱり良い。

 そして何より違うのは、一人部屋ではなく、二人部屋もしくは3人などの多人数部屋だということ。複数部屋に入ることを【雑居】と言い、一人部屋は【独居】という。

 座布団に座り、食事を待つ。留置場の正面は全面鉄格子で、向かって左下に小さな開閉式の扉があった。大きさは大人の頭1つ分より小さく、出入りは出来ない。ここは食器口と呼ばれ、ここから弁当等を出し入れする。

 弁当が運ばれてきた。弁当は警察署によって違い、このC警察署はほっ○もっ○だった。そしてこの食事の時間だけ、ラジオが流れる。と言ってもリアルタイムのラジオではなく、録音されたものだ。

 なぜかと言うと、もちろん容疑者達の事件が流れたりする事で捜査に支障をきたさない為である。

 そしてお茶などは看守に言えばいつでももらえる。看守がなんでもお世話してくれるのだ。



 さてこの【看守】、そもそも留置場に入った人からは【看守さん】とはあまり呼ばれない。ではなんと呼ばれているのか、知ってる人もいるかもしれないが、ほとんどの人が【おやじ】または【○○のおやじ】と呼ぶ。

 これは諸説あるが、一番有力なのは、やくざの人間は、世話になっている目上の人のことを【おやじ】と呼んでいて、そのことから呼ぶようになったのが始まりらしい。



 さて話は脱線したが、そうこうしているうちに食事は終わり、祐介は一息ついた。

午後からはまた、取調べ、用語では【調べ】と言うが、また始まるだろう。

 祐介は気が重かった。



 ―午後1時――


 ラジオが止み、静かになる。しばらくして、がちゃがちゃっ、と鍵音がする。カツッカツッと足音がして部屋の前で止まると、


 「55番、調べ」


と言って扉を開けられる。

 再び手錠をかけられ、同じ調べ室につれていかれ、先ほどと同じように座らせられる。

さっきと違うのは手には手錠がかかり、手錠にはヒモがついており、祐介の体をぐるっと巻き付け、そのヒモは椅子へと繋がっていることだった。

 正面に座った刑事はまっさらな紙を机に置き、準備を整えた。


 「さてまずは……」


と切り出し、それから夕方の6時、夕飯になるまでみっちりと話を聞かれた。

 最近では調べの様子を録画したり録音したりする事も増えてきてはいたが、この時はまだ調べのやり方などを録音録画することはなく、それを利用して裁判を覆そうとするやからもいたらしい。ただ事件の内容などにもよる、と言うのがあるけども。

 さらには、刑事の方が容疑者に便宜をはかり、有力な情報を聞き出し、さらに検挙しようとするものもいるらしかった。



 話を戻そう。みっちり話を聞かれている間、体勢を変えることも難しかったのでかなり全身がきつかった。留置場に戻ると食事が届くまでの間、祐介はストレッチをしまくった。


 部屋のなかでは基本的には何をしていても良い。祐介の他にも人はいて、それぞれ寝ていたり、本を読んだり、筋トレしていたりと様々。本は差し入れで入れてもらえる他、備え付けの本、【官本】を借りることも出来る。選べるのは決まった時間のみで、それ以外の入れ換えは出来ず、借りれる本は三冊まで。もちろん私物の本を含め、だ。借りられる時間についてはまたそのうち。



 食事後、ゆっくりしていると、


 「兄ちゃん、あんた何したん?」


と隣の部屋から話しかけられた。


 「まぁ…ちょっと……」


と祐介はお茶を濁す。

 こういうとこでは、必ず何をやったか聞いてくる人がいる。まぁ何したか言ったところでそんなに変わることはないのだが、祐介は話す気にはなれなかったので言わなかった。


 「課はどこ?一課?二課?三課?」

 「一課です」

 「ほー兄ちゃん極悪人やな」


 この一課や二課、とは、刑事ドラマを見たことある人は知っているかもしれないが、課ごとに担当する事件が違ってくる。

一課は強盗や傷害事件などの凶悪犯罪を担当し、二課は政治や詐欺等の知能犯。三課は万引きや置き引きを含めた窃盗犯。なのでこれでおおよその検討はついてくる。

 刑事ドラマで必ず捜査一課にスポットがあたるのは、こういう訳なのだ。


 「俺は三回目やけ色々教えてあげるよ」

 「あ、そうですか。どうも」


 どうやら話しかけてきた人は【累犯】のようだ。

 【累犯】とは以前犯罪を犯した人が、執行猶予を含めた有罪判決を受けた後、また犯罪を犯した人のことだ。つまり【前科持ち】。

 こういう人に話しかけられる、関わるのを好まない人もいるが、こういう場合、色々聞いていた方が為になったりするし、気も楽になったりする。

 祐介はその人から色々聞いて、これからのことに覚悟を決めた。



 ―午後8時――


 おやじ達が続々中に現れ始めた。

一部屋ずつ鍵をあけられ、一人ずつ部屋を出て、布団を押し入れから取り出す。

 そして自分の部屋に持っていき、全員それが終わるとまた何人かずつ部屋を出て、洗面したり歯を磨く。この時に他の人としゃべってはいけない。怒られるというほどではないが、注意は受ける。


 さて、歯みがき粉やら歯ブラシやらは、まぁ官物をくれたりもするが、基本お金を持っている人は買わなければいけないところが多いらしい。まぁどうせこの先も必要になるからと、しっかり買ったのだ。

 洗面が終わり、全員が部屋に戻ると、


 「点呼よーーーいっ!!」


と号令がかかった。

そして二人のおやじが1室から順に、


 「○番!△番!」


と番号をいっていくので、


 「はい」


と言わなければならない。

点呼が終わり、午後9時になると、就寝となり電気がきえる。

 祐介はこれから長くなるんだろうなと思い、なんとも言えない気持ちになり、あまり眠れなかった。

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